古今集勅撰
そして、姫宮たちの結婚と同時進行で、本院は大きい国家的事業を思いつかれていた。
古今集の編纂だった。
二人の姫宮の婚礼の話が出てきた頃であろうか?
まだ、夜も明けぬ頃、本院は少し目覚められた。
そして、雷に打たれたように、思いつかれた。
そうじゃ、和歌の勅撰集を作るのじゃ。かつて、漢詩の勅撰集はあったが、和歌の勅撰集は無かった。しかし、和歌の勅撰集を作ることで、近き世の歴史と理『ことわり』を明らかにするのじゃ。
朱雀はガバと半身を起こした。一条を起こしてしまったが、紀貫之をお召しになった。紀貫之は年をとっていたので、もう起きていた。
「貫之よ・・・和歌の勅撰集を作ろうと思うのじゃが、いかがであろうか?」
貫之の目は驚きで、大きく見開かれたが、喜びの涙をこぼした。
「歌人たちにとっての名誉です・・・」
「なるべく早う、編者になる者を集めよ」
「はっ・・・」
その日の昼、朱雀は髭黒にも勅撰集編纂について、勅、院宣を出した。
「出来上がった時のために、紙屋院で高級な紙を作らせて欲しい。また、下書きのために紙背文書をなるべく多く集めて欲しい。焦ることはない。一年、二年で終わることではないと思う」
「はっ」
紀貫之は、同族の紀友則、友人の凡河内躬恒、壬生忠岑を集めて来た。
朱雀は仰せになった。
「今まで、大きい歌集としては、大伴家持の『万葉集』がある。しかし、今回は当代一流の歌人が集まり、勅撰集を編んでほしい。そして、その中には必ず『春、夏、秋、冬、恋』の5つの部分は入れて欲しい。出来たら、重点的に編んでほしい。そして、歌をただ並べるのではなく、読む者が読めば、一つの大きな流れになっているように、物語を作っているように、よく案じて並べて欲しい」
歌どころの歌人たちは、驚いた顔を見せた。歌人たちも、朱雀も、言葉で明確に意識していた訳ではないが、皇国『すめらみくに』の時間、季節の流れ、理『ことわり』、価値観に帝王が権威を与える、時空や価値観を支配すると言うことだった。
朱雀が「古今和歌集」を作り始めたことは、源氏の君や、太政大臣、冷泉院も、すぐご存知になったが、「奇行」とか「愚か」と思う者はいなかった。
むしろ、自分や先祖の歌集から、作品を入選させてもらえないか、と言う者が列をなした。
そんな中で、朱雀は末摘花女王と対面なさっていた。以前も書いたが、末摘花女王の父、常陸『ひたち』親王は和歌の研究をなさっていた学者で、末摘花女王は、父宮の遺作の「歌論書」を朱雀に献上してきた。
だいぶ古びてしまったものだが、中身を少しあらためて、朱雀は感心した。
「たいした研究じゃ・・・」
「ありがとうございます・・・源氏の君は女子『おなご』が深い学問をするのは好まないのですが・・・」
「時代遅れの考えじゃ・・・」
一条と朝顔の姫宮も、ちょっと歌論書を見たが、難しそうな内容だった。
「私と父宮さまは、詠むことそのものは上手くなけれど、古今集の役に立つかと思って・・・」
「ありがたい。かたじけない」
歌集、歌論書が集まり、編者は何を入れるか、何を落とすか、時にはかなり白熱して、言い合うこともあり、朱雀が臨席することもあった。
古今和歌集の編纂、姫宮たちの結婚。
そして、時は流れた。
朱雀は年を重ね、四十九歳になった。今上と明石中宮の間には親王と内親王が一人ずつ増えた。
源氏の君には子供が少なかったが、夕霧と雲居の雁の間には多くの子が産まれた。
落葉の宮と女三の宮に、まだ子は無かった。
二人はよく里下がりしていた。二人の里下がりは御所に参内することであった。
特に落葉の宮は父帝『朱雀』の古今集編纂の情熱に共鳴し、「太政大臣家の書庫で、伊勢御息所と中務の歌集を見つけました」など参内してきた。
また、夕霧も、「万葉集の異本を見つけました」など、持参してきた。
そして、二人は進行中の原稿をご覧になり、いろいろ意見をおっしゃった。時には口争いしていることもあった。
そんな二人の様子を拝見して、一条と朝顔の姫宮は、「こちらが夫婦のようじゃ」とお思いになられた。
こんばんは。今夜はここまで、かと思います。たくさんの応援をいただいています。本当にありがとうございます。普通のありがとうございますをこえる言葉がないのが、残念です。
実は、この作品は去年の初春ぐらいから梅雨明けぐらいまで書いていたのですが、原作の第二部(源氏の君の崩御まで)は次の土日までに終わると思います。
明日は、もしかすると、更新出来ないかもしれませんが、火、水、木、辺りは更新して、終わりが見えてくると思います。皆様の応援のおかげで、思ったより早く入力出来ました。
また、宣伝するなよ、と思われてしまうかもしれませんが、現代小説の原稿もあり、出していこうと思います。
岡本かの子、谷崎潤一郎などを下敷きにした作品と、唯一の全くのオリジナル作品『私にとっては大きい挑戦でした。』を出したいと思います。
どうか、よろしくお願いいたします。




