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朱雀院  作者: 夢野ユーマ
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猫の恋

そして、年長者たちが話し合っている時、夕霧、柏木、紅梅ら若い貴族は蹴鞠をやっていた。

女三の宮の心を慰めるためだった。

御簾の中で、女三の宮は猫を抱いて、それをご覧になっていた。


私の結婚のことで、おもうさんやおたあさん『一条のこと』は走り回っているらしいが、私の気持ちは誰も聞いてくれぬ。


女三の宮は朝のくりやのことを思い出していた。


若い貴公子たちのために、わりご弁当が作られている中、姉さま『落葉の宮のこと』は、これは夕霧に渡しておくれと仰せになっていた・・・姉さまは本当は夕霧がお好きなのに、柏木のところに嫁がれるのだ・・・そして、私は・・・


その時、猫が何かに気づいたのか、三の宮の腕を飛び出し、外に駆け出した。その拍子に御簾が鮮やかに落ちた。

「!!」

「!!」


女三の宮は階『きざはし』の下にいた柏木と目と目があった。

そして、二人は以前から、うすうす思いあっていたが、その瞬間、お悟りになられた。

二人には互いしかいないと。


夕べ、貴公子たちが帰って行く中、女三の宮は、小さい懐紙に、しかし、熱烈な内容の恋文を受け取った。

もちろん、柏木からの文だった。


女三の宮は何度か文を読み、内容をそらんじた。『暗記した。』

この文をどうしよう?

そして、女三の宮は懐紙を細かく千切り、一片一片を口に運び、まがりの水で飲み込んだ。柏木と一体化したような気がした。御体がほてった。



戦闘開始。女三の宮は、その日の夕食で、ご飯をザッザッザッとおみそ汁に入れると、父院に奏上した。


「おもうさん、おたあさん、姫宮さま、今日、私のことで話し合っていたのでしょう。世の中を騒がせ、朝議などもとどこおるのも心苦しいので、私は源氏の君のところに嫁ぎます」


本院、一条、朝顔は仰天した。それこそ、もののけの仕業ではないか?とすら思った。

しかし、三の宮は冷静に「髭黒のおじさまに伝えて下さい」と、お言い渡しになった。


その夜、三の宮は、しのびで、落葉の宮のところを訪ねた。


「姉さま・・・」

「姫!!」

「私は・・・柏木と結婚します・・・何年かかっても・・・姉さまも本当は夕霧が好きなのでしょう。何年かけても、思いをとげましょう。どうか、ご協力下さい・・・」


気の弱い落葉の宮は泣きながらうなずいた。




当時の市は、唯一の大企業である朝廷が内部留保を吐き出していたので、空前の好景気、王朝時代のバブル経済を迎えていた。


そして、市の人々は、宮中の詳しいことは知らないので、本院の姫宮と源氏の君の結婚は限りない慶事と思い、喜び、騒いでいた。

その年の年末年始は、いまだかつてない活況を呈していた。


しかし、松の内の後に、花散里夫人がひそかに参内した。


「本院さま、大御台所さま、姫宮さま、今日のことは源氏の君と、特に紫の女王さんには極秘にして下さいまし」

「うむ・・・」

「御三方様も、紫の女王さんのお人柄はよくご存知かと存じます。人格者です。それ故、仰せになりませんが、姫宮さまのことで苦悩していらっしゃるご様子です。紫の女王さんは不祥事が起こった時も、明石の君が中宮をお産みになった時も、じっと耐えていらっしゃいました。しかし、それ故、信頼されて、財産なども任されています。そこに姫宮さまがいらっしゃると、紫の女王さんの立場がなくなってしまうことが心配なのです」


言われてみると、確かにそうだった。源氏の君こそがガンなのだが、姫宮の降嫁は女君たちの関係、均衡も崩しかねなかった。


二人の姫宮の降嫁は毎年の桜の宴の後の吉日となったが、本院と一条は落葉の宮には「太政大臣家は皇女を迎えることに慣れているので、太政大臣によく従うように」とだけ仰せになった。


それに対して、女三の宮には「皇女としてへりくだり過ぎる必要はないが、紫の女王さん、明石の君、花散里夫人、末摘花女王さんなどの御気持ちをよく考えて、振る舞いなさいよ」と仰せがあった。

「大丈夫です」と、女三の宮は少し口をとがらせた。


冷泉院から「入内の形ではなく、あくまで臣下への降嫁の形で」と言う御意向もあり、式の当日、源氏の君は、女三の宮を抱いて、牛車に乗った。

本院、一条、朝顔の姫宮は『また、源氏が発作を起こさないか)ハラハラして見守っていた。


落葉の宮、女三の宮の結婚にあたっては本院、今上、太政大臣、源氏の君から、公卿、官人、下働きの者に至るまで、禄、祝いの品が十分に配られ、おおむね大歓迎であった。


女一の宮は朝顔のもとで修業しつつ、妹たちの幸福をうらやましがった。


本院と一条は念持仏を拝み、二人の姫宮の無事を願った。


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