表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朱雀院  作者: 夢野ユーマ
14/43

律令国家終焉

ちょっと変わった部分ですが、良かったら、ご覧下さい。

そして、一年の時が流れ、桐壺帝の一周忌が終わった時、宮中に激震が走った。



一周忌が終わったあと、源氏の君、左大臣、頭の中将、右大臣、桃園式部卿宮の五人は帝『これより朱雀院のこと』に招かれ、食膳をともにした。(下級の官人には改めて、禄、わりごなどが配られた。)

帝はいつものように、食膳をいただき、ご飯を入れたおみそ汁をいただき、茶をいただいた。そして、果物とからくだもの『菓子』をいただき、茶をもう一杯飲んだ。そして、まがり『木の茶碗』に入れたお水を飲んだ。


そして、控えている髭黒に「大きいまがり一杯に水を持って参れ。重大な勅を大官に下す故」と仰せになった。

髭黒は指図通り、大きいまがりを差し出すと、帝のななめ後ろに控えた。


「おもうさんの一周忌が終わった。御生前より、大きい改革をやろうと思っていたが、それを申しつける」


源氏の君や頭の中将は無感動な様子だった。どんな帝でも、摂政関白でも、就任の時は「改革」を唱えるからである。

しかし、桃園式部卿宮は真剣な顔つきになった。


「源氏の君よ。我が国はどのような国じゃ?」

「どのような国?・・・陛下をいただく神国にございます」

「そういうことを申しているのではない。国を動かす仕組みのことを申しておる」


一同に沈黙が流れた。しかし、桃園式部卿宮が気づいた。


「もしかして・・・公地公民のことを仰せになっていらっしゃるのですか?」


帝はうなずいた。


「左様。今、この瞬間をもって、公地公民、律令国家の制度を廃止する」


その瞬間、源氏の君と左大臣、頭の中将は、この世の終わりのような顔をした。

右大臣はまだ重要性に気づいていないようだった。

英明な桃園式部卿宮は帝のねらいに気づいたようだった。


源氏の君と頭の中将は、何かを奏上しようとしたが、あまりのことに、言葉にならなかった。



公地公民、律令国家とは天武帝、持統女帝のころより始められ、聖武帝の頃に全盛期を迎えた制度・仕組みであった。

全ての土地、全ての人民が「公」つまり天皇の所有と言う考えであった。


そして帝は口分田と言う土地を民の一人一人に与え、「租庸調」と言う税『物だけでなく、労働力の提供を含む』を徴収するのであった。


聖武帝の御代には東大寺、国分寺、国分尼寺を建立する権力、財力の源泉であった。


しかし、もう聖武帝の陛下の御代には、ひずみが現れ始めていた。


一つには、「租庸調」と言う税が重いため、口分田から逃亡する民が相次いだ。

そして、残った土地は、より力のある、より富裕なものが買い取り、富裕なものは一種の土豪になり、貧しいものはその下で働く小作となって行った。

また、もう一つには、藤原氏、源氏、大きい神社仏閣などは勢力を拡大し、私有財産を持つことを願った。


それを打破する大きい改革が、「墾田永年私財法」であった。開墾した土地を私有しても良いと言う法であった。それは、多分、民の意欲をかりたてるためのねらいではなかったか?と筆者は思う。


しかし、結果的には、「墾田永年私財法」はより富裕な豪族や、大貴族、大寺社が貧しくなってしまった民を使って勢力を拡大、私有財産を増やすだけになってしまった。また、古『いにしえ』の御代にも、「進歩」があるので、農業や技術の進歩により開墾された私有地の方が「公地」より多いぐらいになって来て、「公地公民」は有名無実化してきた。

そこに、さらに「公地公民」「律令国家」の崩壊を進めることが起こった。


「荘園」の登場である。


「荘園」と言う言葉は、多くの人が知っているが、その本質を理解していらっしゃる方は少ない。

ものすごく分かりやすく、かみくだいて言うと、「荘園」は「公地公民」の税などの負担を逃れた土地であり、『帝をはじめとする』大貴族、大寺社が土地を支配する、新しい「国の形」であった。

令和の御代を例えに説明したい。

例えば、安倍カンパニーとか、麻生商事と言う大きい会社があるとする。そして、そこに一定の会費を払って会員証を買ったり、社員になったりすると、「律令国家」の税や労働は逃れられるのである。

多くの人は、そこに殺到するであろう。

そして、カンパニーの主は、そうして得た収入は「税」として納めなくて良いのである。

『皇族、貴族、寺社の間の贈答などは「税」や「給料」でないとする。』


そのことを踏まえて、物語の世界に戻ってくると、帝、源氏の君、左大臣、右大臣、桃園の宮、みな荘園を所有し、そこの収入で暮らしていた。そして、地方の富裕な豪族、都の中流、下流の公家は大きい荘園の管理をする仕事『荘官』につき、上のもののおこぼれで暮らしていた。『現代風に言うと、トリクルダウンである。』そして、荘官の下には土地を守る武者や、小作がいた。『もちろん、兼業の者もいる。』

また、比較的、下級の公家、小規模な寺社は、民から預かった荘園をより、高官、大寺社に預け、○○荘、○○領と言う大きい荘園が成立していったのである。


そして「朱雀院」の物語に話は戻ってくる。


帝は仰せになった。


「今や、『公地公民』『律令国家』は完全に形骸化しておる。それ故、廃止を宣言。そして、『荘園国家』を作るため、公家、寺社の荘園全てを整理、記録する。荘官たちにも、改めて、官位官職を与える。その上で、みなに、荘園の収入から一定の税、年貢を納めてもらう。ここにおる五人は政権の中枢。まず、そなた様たちの荘園を整理し、下々に範を示して欲しい」


さらに帝は追い打ちをかけた。


「この中で、『公地公民』の収入だけで暮らしておるものだけ、異を唱えよ」


源氏の君、左大臣、頭の中将は、ぶるぶる震えていた。

その中、意外と動じなかったのは、右大臣だった。


「我が家の権力、財力の源は母后さまと陛下にございます。陛下がお望みなら、右大臣家の財産をなるべく早く調べてご報告申し上げます」


また、桃園式部卿宮も助け船を出した。


「私めは、たいして多くも持っておりませぬが、姫宮と調べて、ご報告いたしましょう」


帝はうなずかれたが、さらに驚くべきことを仰せになった。


「荘園国家には、荘園国家の法がいる。『律令格式』はもう時代遅れになってしまった。今、都は検非違使が守っているが、彼らは律令ではなく、慣習法で世の中を仕切っている。それを参考に新しき法を作る。源氏の君よ」


源氏の君はびくんと震えた。


「この改革は我一人の御代で終わることにあらず。源氏の君は東宮の後見人。我がかくれた『崩御した』後も、荘園の整理と新しき法作りをすすめよ」


源氏の君ではなく、右大臣が茶茶を入れた。


「陛下は、お若い時はお弱かったが、最近はご壮健。三人の妃殿下全員が身ごもられているではありませぬか」


帝は、ちょっと顔を赤らめたが、さらなる改革について仰せになった。


「今のは内政の改革。外交についても改革を行う。震旦、高麗『こま』では戦乱がうち続き、菅原道真公が遣唐使を廃止なさった。しかし、今でも、密貿易が行われておる。そこで、貿易も解禁し、外交、貿易を司る役所を設置したい。そして、貿易の利からも、一定の税を得たいと思う。また、陸奥の我が荘園を調査していたが、陸奥には異人『アイヌ民族か?』の王国があるらしい。そことも、あくまで和議を結び、貿易を進めたい」


平安時代の「鎖国」の終わりであった。



内政、外交の大転換を受け、源氏の君、左大臣、頭の中将は衝撃を受けて、帰って行った。

帝も緊張がほどけ、まがりの水を一気に飲み干した。


「やりとげられましたな」髭黒が労ってくれた。

「時は逆さまには流れませぬ。世の中は陛下の御叡慮の方向に流れて参りましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ