第91話 縦ロールズ
登場人物の名前の管理が、たいへんになりそうです。
「ジュン殿、お、降ろして欲しいのじゃ」
ウルフの背中で、シャルが、両手を伸ばしている。
ふっ、『公認だっこ』の許可が出たようだ。
しかし、なにごとも、用心が大切だ。
シャルの下着を愛でてよいのは、オレだけなのだ。
賢帝パパとお后ママは、もちろん、別として…
オレは、腰を抜かしている金髪ナンパ四人組に、
「お前たち、姫さまの前で、いつまで座り込んでいるつもりだ…」
ほんのちょっとだけ、脅すように魔力を込めた。
いぜん、領主アルベールさんの、賢者父ちゃんが、やってたのを、マネしてみたのだ。
「「「し、失礼いたしましたっ!」」」
四人で、文字取り、飛び上がった。
なるほど、コレ、使えるかもしれない。さすが賢者。
四人が立ち上がったのを、しかと確かめると、オレは、シャルを抱きかかえた。それから、膝をついて、しずかに降ろした。
抱き心地を楽しむために、ちょっと、ゆっくりすぎたようだ。クレアさんの視線が、冷たかった。
「わ、わたしも…」
遠慮がちに、縦ローズちゃんも、おずおずと、両手を伸ばしていた。
おおっ!『連続公認美少女だっこ』とは!
オレは、クレアさんの氷点下の視線に、耐えながら、縦ローズちゃんを抱きかかえた。ぽよよん縦ロールが、心地よい。
そのときだった。
「魔獣が、入り込んだ教室は、ここかっ!」
よく通る凜とした声だった。
そういえば、この縦ローズちゃんの声も、こんなかんじだったなあ…と、抱き心地を楽しんでいると、
「ききききき…、きさまああああーーーーーーっ」
「ローズに、何をするかああああああーーーーーーっ」
縦ロール美少女が、猛烈な勢いで、突進してきた。すでに、剣を抜いている。
オレの腕の中で、縦ローズちゃんが、振り向いた。
「あっ、リリアーヌ姉様…」
オレの首筋には、すでに、縦ロール姉の剣先が、突きつけられていた。
…が、彼女の首筋にも、クレアさんの剣先が光っていた。
「本当に、申し訳ないっ!」
体を90度に折り曲げて、縦ロール姉が、謝っていた。
もちろん、オレは、さりげなく、金髪クロード四人組を背にした位置取りをしている。
美少女の下着は、わけへだてなく、守る。これが、オレのポリシーだ。
「わたくしからも、謝罪しますわ」
縦ローズちゃんも、並んで、頭を下げていた。
この、大型縦ロール美少女は、『リリアーヌさん』と言って、生徒会長をしているそうだ。
昼休みに、校内を巡視していたところ、魔獣騒ぎを聞きつけて、まっさきに駆けつけてきたらしい。なんとも責任感の強い女の子のようだった。
オレに剣を突きつけたのも、妹を救おうとしたからだ。
「気にしないでくれ…」
オレは、すぐに、謝罪を受け入れた。
抱き心地を楽しんでいた罪悪感が、オレを寛容にした。
それはそうと、シャルが、怪訝な声で尋ねてきた。
「そやつらは、なにものじゃ…?」
金髪ナンパ男のクローム達を、まじまじと見ている。
「お友だちには見えないのじゃが…」
幼いながら、ひとを見る目はあるのだ。
四人組を睨みつけながら、クレアさんが、やや興奮気味に、言った。
「こいつら、ジュンくんのことを、『雑種』呼ばわりして…」
「もう帰れだの、もう来るなだの、とんでもないことを、ほざいていたわ」
「なんじゃと…」
シャルが、気色ばんだ。
怒ってるせいか、手がかすかに、震えている。
しかし、リリアーヌ会長が、先に、口を開いた。
「ゼラーチン伯爵家の、クロードくん…だったかしら…」
「あなた、昨日、四賢者さまの『転移実験』が、成功したことを知らないの?」
クロードは、しぶしぶ、応えた。
「し、知っています…」
じゃあ…
「実験を成功させたのは、殿下と、こちらのジュン殿だということは…?」
「知らなかったとでも、言うのかしら…」
「くっ…………」
クロードは、黙り込んで、うつむいた。
知っていたようだ。当たり前だ。さっきの授業でも、講師が、講義の最初に、話していたのだから。
沈黙は、続いた。
…………
針のむしろのような沈黙に、耐えかねたのか、クロードが口を開いた。
「き、貴族でもないものが、貴族以上に、ちやほやされるなど、…とても、我慢ができない…」
「まったくだ!」
「そうだ、そうだ!」
すかさず、後ろにいた三人が、クロードに同調した。
それを耳にして、調子にのったらしい。
クロードが開き直って、言った。
「こ、これは、『貴族の名誉』にも、かかわることだ」
「そ、そうだ『名誉の問題』だ!」
…………
「みっともない…」
縦ローズちゃんが、思わずつぶやいた。
誰もが、あきれて口がきけなかった。
そのとき、教室のドアのあたりから、声が聞こえてきた。
「これは、『決闘』しかないわね」
いつのまにか、お后さまが、登場していた。
なにやら、物騒なことを言い出している。




