第40話 セーラとセシリア
きょうは、昼間に、歯医者に行ったり、買い出しに行ったりしていたので、これからがんばります。
「ジュンくんが、戻ってきた!」
シルバーウルフの上で寝そべっていた、セーラーがむくりと体を起こした。
ウルフも、第一城壁の方を見上げている。
「そのようですね」
聖女セシリアも、気づいたようだった。
彼女たちと二匹は、第三城壁の前にいた。
ジュンが、王都の教会に行っている間、第三城門を建造しているドワーフたちを魔物の襲撃から守るためである。
たしかに、ジュンが王都に転移してから、しばらくすると魔物がちらほらと現れだした。
しかし、Sクラス希少種が、二匹ほど鎮座している。
うかつに、近づく魔物はいなかった。
まして、ここには、聖女セシリアもいたし、女神セーラもいる。
セシリアは、大司祭マリアの弟子である以上、基本的には戦闘系聖女だった。
セーラは、神力の大きさを考えれば、地上で本気で戦うわけにはいかないが、魔物を追い払うくらいの手加減はできる。
したがって、遠くからようすを伺う魔物はそれなりにいたが、近づいてくるものは皆無だった。
オレが、第三城門の工事現場に足を踏み入れると、
「おかえりーっ!」
セーラが、飛びついてきた。
最初のころはどぎまぎしたものだが、人間はどんなことにでも『慣れ』ることができる生き物である。
いまは、そのまま一度ぎゅっと抱きしめてから、地面に下ろしている。
慣れても恥ずかしいが、この『一回、ぎゅっ』をしないと、首にしがみついたままになるので、『呪いの金髪美少女人形』と化してしまう。
異世界では、常に魔力満タン状態のオレにとって、セーラひとり首飾りにしておいても疲れるわけでもない。
しかし…、万が一にも、これをあの幼児どもに目撃されたあかつきには、ネタにされてどれほどの屈辱を味わうかは想像にかたくなかった。
「ジュンさま、おかえりなさい」
聖女セシリアも、オレにそばに来て、丁寧にお辞儀した。
初対面の時の、『抱きつき世界震撼事件』を聞いているせいか、なんとなく困ったようすで微妙に距離をとっている。
ふと…、両手を広げて「ヘ~イ、セシリアちゃんも、カモ~ン」とかできないものか。そんな思念も脳裏をかすめたが…、
「セシリアも、お疲れさまでした」
…と、つい、好青年を演じていた。
オレは、オレという人間の『限界』を心で自嘲った。
まあ、とつぜん人格が変わったら、セシリアも怖がるかもれしれないが…
こうして、オレが脳内でひとり葛藤していると、領主アルベールさんたちもようすを見に来た。
アルベールさんは、開口一番、ケントさんに向かって尋ねた。
「お父上から、なにか、お話はありませんでしたか?」
ケントさんは、いっしゅん驚いたようすだったが、すぐにケンイチさんに伺うような視線を向けた。
「それは、オレから、話した方がいいだろう」
ケンイチさんは、そういうと…、
「せっかくだ。このあたりに、例の家を出してくれねえか。飯でも食ってから、じっくり話し合おうぜ」
オレの方をむいて、ニヤリとしながら言った。
それを聞いて、あわててレギンさんたちが止めに入った。
「し、しかし、このあたりには、ま、魔物が、来とるぞ」
そう言って、森の方を指さしたが…
「おらんのう…」
「…そうじゃったのう」
「ほんに、どうなっとるのか、のう」
…なっとくしてくれたので、家を取り出した。




