第39話 王都のひとたち
だんだん、自転車操業ぽくなってきました。
カラーーーーーンっ!
ギルド前の広場に、金属音が響いた。
「ま、まさか、オレの最強奥義が、破られる日がくるとは…」
驚愕のあまり、現役勇者が魔剣を取り落としたらしい。
しかし、彼は…
「くくくくくっ…」
左手で顔を押さえつつ笑いながら、さりげなく右手で魔剣を拾い上げた。
一度拾いそこねたので、左手の指のすきまからきょろきょろと魔剣を探していたのを、オレはみた。
「ふっ……、いよいよ、オレも……、眠っていた『真の力』に目覚めるときが、きたようだ……な」
どうやら、『奥義が破られた時バージョン』も準備してあったらしい。
意外に強いメンタルに感心したが、『真の力』は発揮されることはなかった。
「警備隊が来たぞぉーーーー」
誰かが、とつぜん叫んだのだ。まあ、聞き覚えのある声ではあったが…
これは、たぶん『警察がきたぞ、ずらかれ!』的な場面なのだろう。
こういうときは、わるいことをしていない人もひとしく逃げなくてはいけない。
わるいことをしていた勇者は……と見ると、すでにどこにも姿がなかった。
しょっちゅう騒ぎを起こしていたらしいので、逃げ足だけは超一流になっているのだろうか。
それにしても、早すぎる逃げ足だった。
とんでもない人数の警備隊が、駆け込んできた。
街中で魔剣を振り回す勇者を相手にするには、あれくらいの人員が必要なのかもしれないなどと、のんびり眺めていたあいだに逃げ遅れてしまった。
みんなして、すごい形相で、オレに迫ってきている。
ちょっとこわい。
「困りましたニャ…」
「困ったね…」
すると…、いままで、オレと勇者の戦闘をおもしろがって見物していた王都のひとたちが、警備隊の前になだれ込んできた。
「き、きさまら、何をしている!」
「そこを、どけっ!」
警備隊の怒声が聞こえるなか、オレと警備隊の間がさらに多くの王都民で埋め尽くされていった。
「ほら、さっさと、逃げろってよ」
オレの肩を、ふいに現れたケンイチさんが、ぽんと叩いた。
さっき、叫んでいた声ともちろん同じだ。
「せっかくの、みんなの心遣いだぜ。さっさと、行こうぜ」
「えっ?」
警備隊を遮ってくれているひとたちを見ると、みんなこっちをみてにやにやしていた。
なかには、親指を立てて下に向けているひともいるが、なにか文化的な違いがあるのだろう。異世界だし…
オレたちは、広場をあとにして駆け出した。
オレは、見ず知らずの王都のひとたちに、なんだかちょっとだけ親しみがわいたような気がした。
オレたちが、教会への坂を登っていた頃、冒険者ギルドの前の広場では、
「行ったようだな…」
警備隊長とおぼしき、ひときわ頑強な騎士がつぶやいた。
「そのようですね…」
となりにいた、細身の騎士の、眼鏡がきらりと光った。
彼を補佐する副警備隊長のようだ。
中世風の異世界だが、眼鏡はなくてはならない。
「あんたたちも、たいへんだねえ」
老婆であろうか、気さくに声をかけている。
「いや、きょうなどは、ずいぶん楽させてもらったよ」
庶民にもフレンドリーな、警備隊長らしい。
「じゃあ、あんたらも、がんばれよ」
警備隊を遮っていた、別の人たちから声がかかった。
「ああ、みんなも、くれぐれも勇者には気をつけてくれ…」
警備隊長のことばをきくと、ひとびとはやれやれとため息をつきながら散会していった。
群衆がいなくなり、いつもの広場に戻ったのを確かめると、警備隊もぞろぞろと持ち場に戻っていった。
それにしても…
「よりにもよって、あの兄妹を狙うとは…」
警備隊長をちらりと見た細身の男の眼鏡が、また鈍く光る。
「何かと先手を打ちたがる宰相のことだ。『第一皇子派』への牽制ってところだろう」
うんざりした表情で、警備隊長が答えた。
「まあ、また、失敗したってところだがな」
「あのとんでもない『火柱』のせいですかね」
また、眼鏡が光る。
「ああ…、暗部十人衆がまとめて始末されたってのに、懲りないことだ…」
「…もちろん、噂にすぎないがな」
まあ、いずれにしても…
「なんというか…、とんでもない少年でしたね…」
今度は、白い歯がきらりと光った。
「うん…?『ケンイチ殿の後継者』か?現役勇者あいてに、まるで遊んでいるようだったな…」
「…それは、そうなのですが」
「魔剣の攻撃を退けたのは…、あれはやはり、魔法なんでしょうかね…」
クイっと、眼鏡を押し上げながら、副隊長がつぶやいた。
隊長は、何か思い当たることがあるようだったが、
「…まあ、なんにせよ。あのケンイチ殿が認めるほどの少年だ。頼りになるのは、間違いないだろう…」
そういって、警備隊本部に向けて踵を返した。




