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お嫁さん&魔物さんといっしょに、ムテキな異世界生活  作者: 法蓮奏
ミルフィーユ(シャーベット王国)編
38/631

第38話 襲われたケント兄妹

ちょっと、長いです。



 「いいから、さっさと来い!」


 イケ面だけど、性格の悪そうな日本人だった。



 『あいつは、例の…』


 『ああ、街に出ては、迷惑をかけているという…』


 『第二皇女の召還した勇者…』


 近くにいた、なぜか見覚えのある冒険者たちは、口々にそう解説していた。


 目の前には、肩から血を流しているケントさんと、兄を守ろうと両手を広げて立ちはだかっている妹クレアさんがいた。



 オレは、緊張で、手にじっとりと汗をかいていた。 







 時間は、すこしさかのぼる。

 教会から出たオレたちは、別行動をとった。



 「いったん、家に、戻るっす…」


 ケントさん兄妹は、思い詰めたような表情かおで帰宅して行った。

 すこし気になったが、ケンイチさんが何も言わないのに、余計な口出しはできなかった。



 「オレたちも、挨拶まわりがあってな…」


 ケンイチさんも、アンナさんと連れだって行ってしまった。

 すっかり忘れていたが、ケンイチさんは、そろそろ帰還しなければならないのだ。挨拶まわりも必要だろう。

 なんとなく、ケント兄妹を追って行ったようにも見えたけど…



 あとには、オレひとりだけ残っていた。


 『少しひとりで、街を歩いてみるのも、いいだろう』


 ケンイチさんたちとは、冒険者ギルドで待ち合わせをすることだけを決めて、分かれたのだ。



 オレは、しばらく、ひとりで王都を散策した。

 …といっても、冒険者ギルドへと続く道をのんびりと歩いただけだ。


 屋台とかも、たくさんあった。

 よく、ラノベなどでは、『うまーーい!』と言って転移者の主人公たちが、舌鼓したつづみをうっていた。


 しかし、オレには、屋台のファーストフードに限らず、異世界の食べ物そのものが怖かった。お腹を壊しそうな気がしたから…。

 いつもぐったりして、自宅で寝てばかりいた後遺症なのかもしれない。

 オレは、食べ物に関してはひどく臆病なのだ。


 それを思うと…、たしかに、自分の命を削っていたのだけれど、膨大な食料品も備蓄されたクローゼットとともに、『一戸建て住宅』をひも付けてもらっていたことは感謝しなくちゃと思った。

 神さまたちに、親切にしてもらえたのも、あのクローゼットのお陰だったし…。 






 そんなことを考えながらも、ときどきお店に入ってひやかしているうちに、冒険者ギルド前に到着した。けっこうな時間がたっていた。


 ギルト前には、ひとだかりができていた。

 そして、その中心では、ケント兄妹と現役勇者が、なぜか対峙たいじしていたのだ。

 


 オレは、この一触即発の状況を前に緊張していた。


 「来ましたニャ…」


 ライムが、重々しい口調で言う。


 「ああ、来たね。とうとう…」


 オレも、真剣に答えた。


 待ちに待った、テンプレ場面である。


 オレも、ライムも、このシーンを『完全な瞬間』にまで高めねばならないと義務感すら感じていた。



 ここは、慎重がうえにも慎重に行動せねばなるまい…と、自分に言い聞かせたときだった。


 「おとなしく、オレについてくればいいんだ!」


 現役勇者があろうことか、とつぜんクレアさんの腕をつかもうとした。

 オレは、頭に血が上った。

 

 『き、きさまぁ!まだ、オレですら、触ったことがないのに!ゆるさんぞ!』

 

 思わず、心の中で叫んだ。

 オレは、この手のセリフを大声で言えるキャラではないのだ。

 


 オレは、クレアさんに触れようとする、現役勇者の手首をつかんでそのままポイっと投げた。

 勇者は、紙くずのように空を舞った。

 


 しかし、そこは、チート勇者である。

 すでに、空中でひらりと体勢を整えて、難なく着地しようとしている。


 オレは、魔法を発動した。


 「効果範囲設定、可視化_青」


 「水魔法発動_氷結」


 勇者の足下に氷を張った。


 スタン!


 余裕で、着地した勇者は、ニヤリとキザに笑って…


 「おいおい~、いきなり放り投げるなんて、ぶっそ…」


 ずてんっ! 


 …滑って、ぶざまにひっくり返った。

 頭を打ったようだ。


 バレバレの魔法だったのに、気がつかなかったのだろうか。

 効果範囲を青くしたので、そこだけ青くなっていたし…

 わざわざ『氷結』って言っちゃし…

 

 「…バカですニャ」


 「…バカだね」

  

 バカ勇者は無視して、ケントさんの肩に手を当てて、治癒魔法をかけた。

 直接、触れて発動したので、このあたり一帯に、治癒魔法を散布せずにすんだようだった。


 「あいつが、いきなりクレアに言い寄ってきて…無理やり連れ去ろうと…」


 ケントさんは、まだつらそうだ。


 「わたしをかばってくれた兄さんを、とつぜん、りつけたの…」


 声をふるわせて、クレアさんも教えてくれた。

 


 ここで、勇者が、ようやく起き上がった。


 「て、てめえは許さねえっ!」


 叫びながら、剣を抜いた。

 剣は、抜かれるなり、炎をまとった。


 「魔剣のようですニャ」


 「魔剣だろうね」


 すくなくとも、手品の道具ではないだろう。


 オレは…、勇者とオレの間の空間に、『効果範囲』を設定した。

 もちろん、観客は、範囲からはずしてある。


 「効果範囲設定、可視化、赤」

 


 「なんだ、なんだ!」


 「きゅうに、赤い霧がかかったぞ!」


 「ま、まさか、毒なの?」


 「く、苦し…く、…ないぞ?」


 観客の皆さんも、もりあがってきていた。



 現役勇者は、大きく剣を振りかぶると、声高らかに叫んだ。


 「勇者のーーォ、スキーールっ!ほのおのォォォォォーーー、ざんげきィィィィィーーーっ!」


 ブンっ!ブンっ!ブンっ!


 魔剣を、袈裟けさに、何度も振り下ろした。



 「ぐっ!」


 オレは、だめーじをうけた。


 第三城壁を、つい『バビルの塔』にしてしまったときの自分を見せつけられてようで、いたたまれない気持ちになった。

 これは、せいしんこうげき、なのか。


 …とはいえ、のんびりしてもいられない。


 「空間魔法、湾曲わんきょく、…発動」


 さきほど、『効果範囲』に設定した空間を、上空に向けてねじ曲げた。


 

 ビュン!ビュン!ビュン!…


 炎を帯びた斬撃は、すさまじい勢いで、オレに迫ってくるが、ねじ曲がった空間に沿って、空に駆け上がっていき、………消えた。



 ちなみに、いま、この異世界では、「空間魔法」を使える者はいないらしい。

 だから、この状況が、空間自体をねじ曲げた結果だ…などと理解できる観客はいなかった。


 ゆえに…、王都の民は、勝手なことを言い出した。



 「おいおい…、どこに撃ってんだよ…」


 「空に撃ちあげて、どうすんだよ…」


 「こりゃあ…とんだ…、ノーコン勇者さまだぜ」


 

 なかでも、『ノーコン勇者』は、王都民の心をとらえたらしい。



 「ぷっ!ノーコン勇者さまだ!」


 「きゃっ!ノーコン勇者さまね」


 「いいねえ!ノーコン勇者!」



 みんなで、いいだいほうだい、だった。



 さすがに、勇者にも聞こえたのだろう。

 勇者は、うつむいて片手で顔をおさえると、声を殺して笑った。


 「くくくくくっ…」


 「てめえは、とうとう…。勇者史上に燦然さんぜんと輝く、最強勇者のオレさまを、ホンキで怒らせちまったな…、くくくっ」



 …気の毒なひとだった。 



 「…まさか、オレさまも、ここで、奥義を披露おうぎすることなるとは、思わなかったぜ…」

 


 たしかに…、王都民であふれている街の真ん中で、『ナンパ』にしくじった腹いせに、奥義を放つ勇者(ばか)が存在するなど誰も思わないだろう。



 勇者は、魔剣を目の高さくらいのところで真横に持ち替え、なにかぶつぶつ唱え始めた。

 しだいに、勇者の全身が炎に包まれていった。


 「…ほのおーーーーのーーーーー炎龍ううううううう…」


 『ほのお』と、『炎龍』の『炎』がかぶっていた。

 

 しかし、奥義であることはまちがいないらしい。


 炎の体をもった、巨大な龍が現れた。

 炎龍は、オレをにらみつつけるなり…、


 「ゴオオオオオオオオオオオオ…!」


 …すさまじい咆哮ほうこうとともに、襲いかかってきた。

 


 「うわーっ!本物の龍だ!」


 「きゃあーっ!」


 「に、逃げろおおっ!」


 ギャラリーは、騒然そうぜんとなった。


 …………


 だが、そもそも、目の前の空間は、空に向けて湾曲しているのだ。


 炎龍は、湾曲した空間にそって、空高く飛翔した。

 そして、れ込めた雲をも突き破って、さらに高く高く舞い上がった。そして…


 「クゥ…? ウォォォォォォーーーーーーーン」と、やや哀愁を帯びた声を天空に響かせると…


 ………


 そのまま、消えた。


 ………


 「まあ、こうなるでしょうニャ…」


 「そりゃ、こうなるよね」


 オレたちは、とうぜんの結果に、うんうんとうなずいていた。




 

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