第22話 暗部の再就職(1)
「いつからおまえたちは、宰相の使いぱしりになったんだ」
ケンイチさんが、森のなかから姿を現した。
元勇者の登場に、頭と呼ばれていた男は、目を丸くした。
「ケンイチ殿まで、いっしょでゴザったとは…」
それから、オレをまじまじと見た。
「勇者をさしおいて、我らと戦ったのでゴザルか…」
「ふふふ…、よほど見くびられていたのでゴザルな」
そう言って、自嘲気味に笑った。
「まあ実際に、我らでは、相手にならなかったのでゴザルからな…」
オレは、暗部の連中を拘束しなかった。
SD化されかかった身体は、しばらくまともには動かせないようだったからだ。
地面に転がったまま、思うように動けない暗部の男たちのそばまでくると、ケンイチさんは再び話しかけた。
「監視の二人には、森の中で眠ってもらってる」
暗部とオレたちを監視していた者がいたらしい。
拘束した二人は、ケントさんが見張っているのだろう。
「もう一度聞く、いつからおまえらは、宰相のイヌになりさがったんだ」
ケンイチさんの語気は荒かった。
暗部の頭は、ケンイチさんを見上げて言った。
「我らとて、今回の命令がどれほど愚劣なものか。わからないわけではないでゴザル。聖女さまは、国の宝にも等しい。それを、さもしい権力のために葬ろうなどと、傲慢にもほどがあるでゴザル」
それでも…
「いまの、宰相の権力に逆らうことは、死を意味することで、ゴザった」
しかし…
「我らとて、黙って殺されるつもりはないでゴザル…」
暗部である以上、見くびられるわけにはいかない。
「…なれば、味方同士で延々と殺し合わねばならなくなったでゴザった」
暗部を始末するとなれば、それなりの犠牲は出るだろう。
それが、騎士や魔道士なのか。兵士なのかはわからないが、いずれにしても宰相の権力誇示のために、無駄に多くの人々の血を流すはめになったのは間違いない。
それくらいなら…
「セシリアを殺しちまえば、ひとりですむってっか」
ケンイチさんが、言葉をついだ。
なるほど…。ケンイチさんは、暗部の事情をオレに教えようとしているか。
それなら、オレも言わせてもらおう。
「あんたたちが、仲間を同士討ちから守ろうとしたのは、よくわかった。そのためには、聖女を犠牲にするしかなかったことも…」
しかし、もともとの『理不尽な暴力』からは目を背けておきながら、みんなに被害が及ばないようにするには、誰かひとりを犠牲にするしかない。
そんな身勝手な思想がまかりとおる…とでも思っているのなら、
「オレは、セシリアを守る。ぜったいに、お前たちの都合のよい犠牲などにはさせない」
だから、これからも…
「セシリアを害する者が現れたなら、容赦なく叩きのめす」
それは、暗部の事情をオレに教えてくれたケンイチさんへの返事でもあった。
オレの言葉をきいて、ぐったりと身を横たえていた暗部十人衆にふたたび緊張がはしった。
「ほら、…守ってくれるってよ。セシリア」
後ろを向いたケンイチさんが、おどけたように言った。
そこには、いつのまにか、聖女セシリアの姿があった。
最初から、そっちに聞かせるつもりだったのか!
また、オレをはめたな!先代勇者!




