お返しは大切なことですしー!
俺は…… 触れるだけで簡単に崩れる母さんの体を超能力の念動力で丁寧に家のベッドに運ゆっくりと寝かせた。
キュレネは、たくさんの花をベッドに横たわる母さんに捧げ飾っていった。
母さんは…… まるで枯れ木のようになり、腐らなかった。
父さんが町に戻ったのは母さんが死んでから3日後の事だった。
大公様の蒸気自動車を借り受けて急いで帰ってきたようだ。
父さんはドワーフの誰かに母さんが死んでしまった事を聞いたのか青い顔をして震えた体で家のドアを開いた。
父さんに怒られる。それがいいよ、母さんを守れなかったのだから。この苦しみも怒られた事で、殴られる事でなんとかなるかもしれない。
そう思い父さんの前に進み出ると…… キュレネも青い顔をしてついてきた。
「父さん…… ごめんなさい」
「ごめんなさい…… 」
そう呟いた俺とキュレネの頭を父さんは撫でて優しく抱き寄せた。
「よく頑張ったね」
父さんはしっかりとした声で俺とキュレネを褒めた。
「なんで、褒めるんだよ!俺が守ってやれなかったのに!」
「シノ、違うよ。それはまだまだ子供のシノが言ってはいけない言葉なんだよ?お前たち子供が生きている。それだけが母さんの願いだっただろう」
「なんだよそれ…… 全員が生きて…… それで…… それで…… うぅぅ、ぐぅぅぅ…… 」
「ごめんなさい…… ごめんなさい…… 」
「怒らないから大丈夫、生きていて良かったよ」
しばらく俺とキュレネが泣き止むのを待ってくれて父さんはすっくと立ち上がる。
「母さんはこっち…… 」
キュレネが父さん母さんの寝室に案内する。
ゆっくり寝室の扉を開けた父さんは母さんの近くに進んで、優しく優しく母さんの頬を崩れないように撫でて…… 何度も何度も撫でて……
後ろで見ている俺たちに涙を見せないように涙を我慢した震える声で
「子供達を守ってくれてありがとう」
と父さんは母さんに感謝した。
俺は膝から崩れ落ちた。立ってはいられなかった。
キュレネも同じで2人でもたれ合うように泣き続けた。
こうして俺もキュレネも二回、母親を失ったのだ。
☆★
その夕方、俺は空を飛びキャンサースライムが這った跡を辿った。
事の始まりを理解出来ないと前に進めないような気がしたし、まだキャンサースライムの通った後の滑りやキャンサースライムの自重で出来た大地のえぐれを確認できたからだ。
というのは建前で、家にいると泣くしか出来ないから…… だ。
────キャンサースライムは町から数十キロという距離にある山の中腹にある人工の下水から出てきたようだった。
その下水道を進むと一つの大きな門がついた排水口からキャンサースライムの粘液が排出された痕がベットリついていた。痕といっても溶かした痕だが……
門は大きい屋敷の専用排出口だった。
地下下水道から外に瞬間移動して、その屋敷を超能力で飛行しながら確認すると最上階の部屋の中に人の影があった。
俺は音を立てないように静かに瞬間移動を使い、室内に侵入すると汗と色々な体液の匂いがムアっと鼻に飛び込んできて気分が酷く悪くなる。
そんな異臭がする暗がりの室内で、目に映ったのは男2人がぐったりと死人のようになっている女2人を犯している所だった。
女2人は大人と子供で…… 体の幾つかの部分が縫い合わさっているように見える。
あまりの酷さについ咽せてしまった事で、頭がハゲた目つきの悪い老人が俺に気付いた。
「誰だ! ここをこの私ゾリゲ様の館と知って侵入したのか! 」
そのハゲ老人が怒りの目で俺を見て叫んだ。
おまえか!
おまえがゾリゲか!
おまえがやったのか!キャンサースライムを放ったのか!!ここの地下からキャンサースライムが這い出ただろう!
俺は怒鳴りたい事が多すぎて、逆に声が出ない。
そんな俺が唖然としていると勘違いしたのか、ゾリゲと一緒にいた鼻の無い男が隠れて魔法を使おうとしているのを感じる。
「ひへひへ!男児への拷問は久しぶりでずね!」
黒い煙が俺に迫るのを見て、鼻のない男が俺の敵だと判断。
瞬間移動で男の後ろをとると光魔法でボゥっと頭を蒸発させた。
「ガ…… ガキが! 自分が何をしたのか分かっているのか!? 」
殺害現場を目にしてゾリゲが叫ぶ。
「何をしたか分かっているのか…… だと?」
怒りのせいで胃液があがり吐きそうになる。
胃の痛みに顔色を変えた俺に、ゾリゲの顔がニヤける。
その笑い顔がどうしても許せない。
コイツを生かせておけば、また家族に被害がでる。
「よし、殺そう」
俺は笑い顔を浮かべたゾリゲの顔を殴る。ベキペキと鼻の骨が折れ鼻血を噴いたゾリゲの髪を、全力で掴んで瞬間移動を繰り返した。
何度も何度も繰り返してゾリゲの体が瞬間移動に耐えられずにボロボロの血だらけになって醜い体がガタガタと震えだした頃、自分が今テレポートで地上から数百メートルの夜空にいる事に気づいた。
怒りで我を忘れていたのか…… こんな事は初めてだ……
「ああ今日は満月だったのか…… 綺麗だな……」
夜天にある2つの月の綺麗さに母さんの笑顔を思う。
そういえば最期にパンを食べてとか言っていたな…… そうか…… お腹減ってないか心配したのか……
パンて……
「ははは…… パンて…… 」
最期まで最高の母親だったわ。
パン食べよう。母さんと一緒に。
あ!そういえば、お帰りって言ってくれたのに、ただいまって言ってないわ。
「神様…… 頼みます…… 母さんに、ただいまって伝えておいて下さい……」
あの神様ならきっと伝えてくれるだろうと、大空に願う。
ふと自分の手にある汚い塊に意識が戻ると、嫌悪感が一気に心を満たす。
「汚ねぇ……」
俺はゾリゲを引きずり回すのに掴んだ髪を離すと
ゾリゲは大空から力なく落下し大地の染みになり果てた。
「母さんが生きていたらこの満月を一緒に見れたのにな」
俺はしばらく大きな月を眺めて家路についた。
───ゾリゲの領主館は翌日から大騒ぎになった。
いきなりゾリゲが消え、側近の黒魔術師が頭を飛ばされて死んでいたのだ。
早朝、それに気付いた下男が兵を呼び、正式な調査が始まった。
ゾリゲの寝室には町から誘拐された母娘が裸で寝ていたので事情聴取を始めるが、ゾリゲは麻薬と媚薬を混ぜた危険な薬物使い母娘を廃人にして楽しんでいた。
それに加えて、痛々しい肉体の改造までされた母と娘に対して当然、話を聞ける状態ではなかった。
シノーンは超能力を使い屋敷に侵入したので、侵入経路を知る為の手掛かりである魔法残渣も無く捜査は行き詰まりになりそのままに。
むしろ、母と娘をどうするか?という事の方が重い話になっていく。
こうして、ゾリゲ暗殺の全てはシノだけが知っている事になった。
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