お菓子と狸
予定していた昼過ぎに、お供を連れてカリスト=セルディック様が来られた。
今回、名前を名乗って来たという事は何か込み入った提案があるんだろう。
俺みたいな田舎村の人間、しかも子供に貴族様は名乗ったりしない。この世界の権力者は下層階級の人々は道具でしかない。ただ言う事を言い、聞きたい事を聞くだけだ。
今まで俺がカリスト様の名前を知らなかった事はなんの不思議もない。
貴族に名乗られて訪問される。それだけで田舎の民衆にとって喜ばしい誉れなのだ。
これは本当に面倒くさいなと心底イヤイヤだが、それは精神年齢爺ちゃんなので笑顔で対応する。
俺以外の家族は整列してカリスト様の奉迎の後、隣室でお供の1人とお茶を飲んで待機している。
…… 嫌な感じだ。
お茶を飲んでいるではなく監視兼、人質だろう。
ふ〜っ…… いかんいかん。目の前のカリスト様を対象せねば……
カリスト様の座る椅子の後ろには2人従者が立ってこちらを冷たい目で見ている。
有事の際に…… その時がもしきたら?という対応を図っているんだろう。子供に殺気を漏らさないで下さいね〜?
…… カリスト様の隣には俺が出した紅茶もどきとパウンドケーキをモシャモシャ食べている女性…毒味だろうな。あぁ本当によく食べる…… 気持ちいいぐらいだよ。
俺と目が合ったカリスト様は苦笑をして、自分もまず紅茶もどきを一口飲んで驚いた顔をする。
砂糖入りミルクティーにしたんだがさすが甘い飲み物!女性の甘味に喜ぶ反応は頗る良いな!えへへへ
カリスト様は紅茶をもう一口飲むと次はパウンドケーキを上品に口に運ぶ。
ああ、これは勝ちだわ!
めっちゃ笑顔だわ!
黙々とケーキを食べるカリスト様。
物欲しそうに見る毒味さん…足りなかったのね?
カリスト様が無言で食べているのを不思議そうに見ている後ろに控えた従者…… なんだろ?
スイーツ食べに来ただけって事で帰ってくれないかな?忙しいんですよボク。
☆★
「全く食べた事ないお菓子でした!私は毒味で色々な物を食べるのですがこんな……こんな……」
…… おいおい毒味さん俺の残ってるパウンドケーキを見て動きが止まったよ。よ…… だれ?涎でてんじゃん!隣の貴族に対して不敬ですよ!?
カリスト様も毒見の暴走を止めないのは同意見だからだろうか?
うん、美人て高貴な人に作ったお菓子を喜ばれるのはなんか気持ちいいな。早く帰ってくれないかな?
「お土産にパイクッキーを用意してありますので、良ければお帰りくださいね」
どや!!連続技やぞ!?お土産やるから帰れ!
あ!お持ち帰りくださいなのに、お帰りくださいって言ってもうた!俺、正直!
「パイ…… クッキー……?」
毒味さんは固まって動かない!
カリスト様も思案顔だ!
これはなんとかなるか……?
「ではご用意しますね!」ニッコリ
俺は帰らそうと用意の合図をすると、カリスト様がそれを制止した。
「いえ、今日のお話はまだです」
チッ帰れよ。
隣見てみ?毒味さんが早くパイクッキーを食べたいからガッカリしているよ!
☆★
話をこちらが有利に、円滑に進める為に次はロシアンティーを入れる。
紅茶にジャムを乗せたスプーンを添えた飲み物だ。
父さんを骨抜きにした、果実を煮詰めて砂糖で整えたジャムに毒味さんは目を潤ませる。
本当なんの仕事してるんだこの人……
「それではお話を聞かせて下さいませんか?」
ニコッと笑顔で敵意がないと見せる。
「ふふ色々と話がありますが、例えば箱馬車の天井にある金と銀の花の話とか……」
「?ああ、謁見の時に自慢してきた飾りの話ですね?」
俺の言葉にニンマリとカリスト様は笑う。美人な子やなぁ……
「え?あの馬車って天井に花の絵なんて描いているんですか?」
ロシアンティーを飲み干した毒味さんが俺のロシアンティーから目を外さずにカリスト様に質問する。
「ええそうよ、普通は見えないですけどね。そう鳥のように空でも飛べない限り」
ててーん!
俺しっぱーい!やっちゃったみた〜い!
めっちゃカリスト様ってば微笑んでるよね〜?
あれー?空飛んで見ていたのバレてたかな〜?そっかー……
「そ…そうですね私は村の防御壁の上から…… 」
「あ!ちなみに村に着く前に、村の外に繫留し、馬車が傷まないようにカバーで覆っているので高い所から見るのは不可能です」
カリスト様が逃げ道を塞ぐ
ヒクヒクと笑顔を引攣らせるしかない…… やるな!6歳児イジメ美人め!
「色々と知りたい事もあるし、話を聞いてみたいなぁ〜と思って今日は参りました。ちなみに村の北にある陶器で出来たドームの事…… 知ってませんかぁ?」
ニコッ
カリスト様美人だわ笑顔が似合うぅ…… !
違う出会い方したかったわ。あ、貴族と平民だから出会えないわ。
…… というか、なんか話がおかしい。
謎かけされているような、何かの合図をされているような?
「なるほど…… 例えばそこに偶然、理由を知る人がいたら個人的に話をしたいですか?」
どうだ?これでナゾナゾの答えは合ってるかな?
「ええ、明日のお昼ぐらいまでは陶器のドームで考え事をしたいと思っています。私、1人なら何か考えやひやめきがあるのかもしれませんし…… 」
ニッコリと笑うカリスト様
うん、この美人さんタヌキだわ。
つまり個人的に話を聞きたい、オフィシャルではないので記録に残しませんよ?
明日の昼前ぐらいに1人で待ってるから来て下さいって事だよな?
隠せるかもね!俺のステータス!
「なるほど、この家でのおもてなしを気に入ってもらえて良かったです。」
「いえ、明日はお互い早いのでやはり帰らせて頂きますね」
めっちゃ話わかるー!この女の子めっちゃ話わかるー!
そのあと差し出したお土産用のパイクッキーを俺から奪い取った毒味さんが少し他の従者に怒られるハプニングがあったが和やかにお茶会は終了した。
しかし、よくやった自分!と喜ぶシノはさらにミスしたのに気付いていない!
『村の北にある陶器のドーム』で理解してしまった事を!
6歳という子供が言葉の駆け引きを即座にしてしまった事を!
アマアマである!脇ガードアマアマである!




