「スライムパニック」【黒白魔王】
ーーとある日の午後。
王立騎士団訓練場は普段通り活気に満ちていた。
そこに響き渡った幼く無邪気な声。
「パパぁー!」
「メリア!?……何だこれは」
「ママにいっぱいつかまえてもらったのー!かわいーでしょー!」
満面の笑みで自慢げなメリアの隣には、不安そうなフレイ。
四歳児二人の後ろでメリアと同じく自慢げな表情のミレイユ。
そして、俺の視線を釘付けにしているのはーー大量のスライム。
騎士達も訓練の手を止めてこの光景に呆気に取られている。
「また副団長の奥方がなんかやらかしてるぞ」
「メリアちゃんが今日も可愛い…」
「フレイくん、なんか顔が疲れてやしないか?」
そんな声も微かにあちらこちらから聞こえてくる。
突き刺さるような視線を背中に感じながら、どうにか状況を理解しようとミレイユと子供たちの元へと歩み寄る。
「……ふぅー。よし、ミレイユ。説明してもらおうか」
「説明も何もないわよ?見ての通り!ねー、メリア!」
「ねー!ママ!」
「パパぁ……あのねぇ、メリアがねぇ、おさんぽしてたらいきなりママにねぇ?いっぱいのスライムと遊んでみたい!っておねがいしたんだよぉ?」
「そうか……ミレイユ、メリア、こいつらを自然に返して来なさい」
「どうしてよルシアン!折角三時間かけてこれだけの量集めたのに!」
「パパのケチー!」
「うっ……」
「パパ、まけちゃだめぇ」
「そう言われてもなぁフレイ……見てみろ、あの二人の顔を」
「……ぅぅ……でもこんなにいっぱい、おうちにはいらないよぉ?」
「おねがぁいパパぁ」
「ルシアン……」
「はぁー……分かった。ただし!フレイの言う通り、屋敷にこの量のスライムは無理だ。だから、レオンの屋敷の中庭にでも連れて行け!メリアもちゃんと世話をする事!約束できるか?」
「うんっ!できるー!」
「よし」
「な、何だルシアン!?このスライムの群れは!?」
背後から聞こえた声に振り返れば、執務室で報告書の山に囲まれていたはずのレオンが立っていた。
「レオン、書類仕事は終わったのか?」
「いや、お前を呼びに来たんだ」
「また俺に押し付ける気か、先週も先々週も半分片付けてやっただろう。自分でやれ」
「薄情ものめが……」
「あ、そうだ。かくかくしかじかでこのスライム達はお前の屋敷の中庭で放し飼いにするからよろしく頼んだぞ」
「よく分からんが、俺の居ぬ間に勝手に話が決定していた事は分かったぞ」
「ま、そういう事だ」
「よろしくね!おじちゃん!」
「やめろメリア、おじちゃんではない!」
「おじちゃんだよ?」
「フレイまで……」
「アイリーンの今日の予定リークしてあげるわよ?」
「よし引き受けた」
「やったー!」
「騎士団長がこんなに単純でこの国は大丈夫なんだろうか……」
「よかったねぇパパ!スライムにおうちとられないですんだね!」
「そうだな。さぁ、フレイもママとメリアと一緒にレオンの屋敷にコイツらを連れて行くの手伝ってやってくれるか?」
「はーい!」
この日から騎士団長はスライム愛好家だという噂が王都に流れる事となったーーが、決して俺の所為じゃない。




