「殺人弁当」
完結済み作品
「黒と白、分けられない者。善と悪の共存ー聖女の母と副団長の父に愛された子供たち、そして“魔王の生まれ変わり”が目覚めるまでの物語ー 」
の小話です。
──とある日の夕暮れ時。
「そういえば僕……八歳の時の記憶が曖昧なんだよね」
十八歳になったトールがふと、読んでいた本から顔を上げた。
その言葉にメリアとフレイはハッと顔を見合せ、背筋に冷や汗が流れるような冷たい感覚に陥った。
「もしかして……」
「あの時の……」
そんな二人の様子にソファに座るミレイユは首を傾げ、その横ではルシアンが顔を引き攣らせている。
「ト、トール……それは、断片的に、か?」
「ん?うん。父さん、何か知ってる?」
「あー……端的に言ってその原因を作ったのはミレイユだ」
「え!?私!?」
◇
──十年前。
王立エリュシオン学院から帰ってきたメリアとフレイは、普段よりも顔色が優れない様子だった。
「ただいまぁ……」
「父さん……母さん、どこ?」
「どうしたんだ二人とも、どこか調子でも悪いのか?ミレイユなら今頃治癒院で仕事中だと思うが」
不思議そうにメリアとフレイを見ながらルシアンは首を傾げた。
二人は応える事無く、その代わりに鞄から弁当箱を取り出し、父へと差し出す。
その弁当箱からは開けずとも漂う異臭。
「これは……まさか……」
「得体の知れないもの食べて私とフレイ、二時間医務室」
「しかも、異臭騒ぎでカフェテリア一時封鎖」
「なんて事だ……まさか……今朝のあれ、か?」
ルシアンの脳裏には今朝方、ミレイユがキッチンで何やらガサゴソと作業をしていた姿が過ぎった。
「悪かった!俺の監督不行届だ!学院にまで迷惑をっ……」
「それよりパパ?トールは?」
「トール?部屋に居るは、ず……まさか!?」
「母さん、トールにも弁当渡してた」
「たまにはお昼がお弁当っていうのも楽しいわよね!って」
「今頃部屋で泡でも吹いてたりして」
「トールっ……!!」
ルシアンは慌てて二階への階段を駆け上がり、トールの部屋の扉を開け放った。
目の前に広がる衝撃的な光景。
トールは絨毯の上にうつ伏せに倒れ、近くには空になった弁当箱が転がっている。
トールの手元には絨毯の毛並みを逆らうような微かな後。
ルシアンは慌ててトールに駆け寄り、そっと抱き起こしながら絨毯に浮かぶその模様を目を凝らして見てみる。
そこには「不味過ぎる」の文字。
「トール……!気をしっかり持て! 大丈夫か!? どこか、苦しい所はないか!」
「パ、パパ……ママのお弁当、嬉しかった……でも……殺人級に不味かった……」
ルシアンはトールのその強烈な表現に全身の血の気が引いた。
殺人級の不味さ。
それは、どれほどの味だったというのか。
そして、トールはその殺人級の物を 大好きなママが作ってくれたお弁当だから と完食した事が、傍らの空になった弁当箱から読み取れる。
ルシアンはトールの身体をしっかりと抱きしめた。
ルシアンの胸は深い後悔と、トールへの限りない愛おしさで満たされる。
「トール……よく、よく頑張ったな!その弁当を全部食べたのか……!」
ルシアンはトールの純粋な「嬉しかった」という気持ちと、それ以上に過酷な体験をさせてしまった事に胸が張り裂けそうになった。
「トール……メリアとフレイと一緒に治癒院へ行こうな」
「え……?」
「二人もその弁当で体調を崩したらしいからな……顔色もまだ本調子じゃなさそうだった」
「……うん」
◇
「という事があったんだ」
「そういえばあったわねぇ。そんな事も」
「ミレイユ!なんだその てへっ みたいな顔は!」
「いいじゃない!ルシアンに連れられて来た三人をしっかり治癒したんだから!」
「私……あの時、お花畑が見えたわ」
「カフェテリアで白目剥いてひっくり返ったもんね、メリア」
「って言うか……え?僕の記憶が曖昧なのって……」
「母さんの弁当が原因」
「そうだわ!明日、久しぶりにお弁当作ってみんなでピクニックにでも行かない?」
「ぼ、僕……ノクスとユリウスと出掛けるから……」
「行かない」
何としても阻止しなければ、と全員の心が団結した瞬間だった。
何で寝る直前にこういうのって浮かぶんですかね?
眠たくてしょぼしょぼの目で、だけど口元ニヤニヤの状態で書いちゃいました。
お楽しみ頂けたら幸いです。




