第20話 好感度の向こう側
第20話 好感度の向こう側
一か月後、辺境街道には本当に血が流れていなかった。
まだ停戦は仮のものだし、王都も魔王城も完全に一枚岩じゃない。けれど前線では、人間兵が魔族の薬を受け取り、魔族兵が人間の鍛冶師に武具を直してもらう光景が生まれていた。
俺は街道脇の見張り台で、ひとり空を見上げる。
【好感度】
かつてうるさいほど視界に浮かんでいた数字は、今も見える。だけど昔ほどそれに振り回されなくなった。
好かれているから正しいわけでも、嫌われているから敵なわけでもない。
数字はきっかけにすぎない。その向こうにいる相手を知ろうとした時、ようやく本当の意味が生まれるのだと分かった。
「何しんみりしてるの」
振り向くと、レティシアとルナ、そしてミアがいた。三人とも呆れたような顔で、でも少し笑っている。
「会議、始まるぞ」
「今日は王都と魔王城から正式な使者が来るんだから」
「逃げないでね、カイ」
逃げたい気持ちは少しある。
それでも俺は立ち上がった。
勇者パーティを追い出された雑用係だった俺は、今では人間と魔族の連絡役になっている。人生は分からない。
遠くでゴブリンが手を振っていた。最初にパンをくれた、あいつだ。
俺も手を振り返す。
戦争が終わるには、まだ時間がかかるだろう。たぶん簡単じゃない。
だけど少なくとも、もう“敵だから”という理由だけで剣を抜く時代は終わり始めている。
そして俺はきっと、これからも面倒ごとの真ん中に立たされる。
なにせ、魔王軍からだけやたら好かれているらしいから。




