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桜下白鬼伝  作者: 良田めま
第二章 手招きする女

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SS 凛音と縹

テンポが悪くて本編に組み込めなかったので、SSとして投稿します。

第十九話、凛音と縹のエピローグ直後です。

「そういえば!」


 回想に浸っていた凛音が唐突に大声を出す。

 縹に向けたその目は、怒ったように吊り上がっていた。


「縹さん、あの後本当にどっか行っちゃったでしょ!」

「あの後……?」

「あやかしを誘き出すからって、別行動になった時!」

「あ……ア、アア。あの時のことカ」


 今回対峙したあやかしは、男女ペアの前にしか姿を現さないという特徴を持っていた。なので、縹は一旦退場となったのだ。もちろんその後も離れたところから見守り、危なければ手を出すつもりだったのだが、白面鬼に呼び戻されたことにより近くにも居られなくなった。最終的に桜魔山から戦いを見守ることはできたし、そのことは凛音にも伝えてある。

 ――のだが、凛音はプンプンとお怒りの様子。


「きっと近くにいるから安心だって思ってたのに、白面鬼さんに呼ばれて桜魔山に帰ってたなんて! 縹さんはわたしより白面鬼さんの方が大事なんだ!」

「す、すまなイ。だが、安心できていたのなら良いのではないカ?」

「結果がどうとか、そういう問題じゃないの!」

「すまなイ……」


 剣幕につい頭を下げる。

 なおも凛音は、いないと分かった時の寂しさや心許なさなどを滔々と語っていく。

 真面目に聞いていた縹だが、腰に手を当てて怒る凛音の姿が死んだ妻と重なって、どうにも懐かしくなってしまった。そうなると、どことなく面影も似ている気がしてくる。


 ――まるデ、生きていタ頃の彼女ヲ見ているようダ。もシ娘がいたラ、こんな風ニ成長したのだろうカ?


 夢想する。

 元気に笑って駆け回る息子。それを微笑みながら見守る妻と自分。そして、体中泥だらけになった弟を叱る姉。

 過去に戻れたとしても決して有り得ない光景なのに、何故か懐かしさすら感じる。

 なんて馬鹿げた妄想だろう。しかしそういった妄想は、浸っている間は妙に心地よいものだ。


「ふ」


 思わず漏れた小さな吐息。それを見逃さない凛音ではなかった。


「あーー! 縹さん笑ってる! もしかして馬鹿にしてる!?」

「い、いヤ、コレは違ウ……」


 オロオロと手を振りながら弁明するも、凛音は聞く耳を持たない。というより、怒ったふりをするのが楽しくなってきたようで。口の端に浮かんだ笑みに気付かない縹は、なおも口下手を発揮して凛音を楽しませる。

 そんな、賑やかな時間が流れる夏の昼下がり。

 桜魔山の頭上には、抜けるような青空が広がっていた。

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