270話 二虎競食の計
「さて、次期海外遠征について打ち合わせを始めよう。まず蝦夷丸の航続距離についてだ。石炭を満タンにしておけば、どこまででも航行してくれる訳ではない」
「それに水や食料の補給も必要となる。日本にとってルソン国など4ヶ所に、補給拠点ができたことは大きい」
「台湾島、ルソン国、衢山、澳門には、日本からキャラック船で定期的に石炭を運ぶことになっているが、フィリピン諸島で石炭が取れる島がないか、調べておいてほしい」
「戦闘時における蝦夷丸の優位性は蒸気による航行だ。東南アジアでの航行においても、石炭を節約し帆走による航行を併用するように心掛けてほしい」
「ルソン国とマラッカは距離があるので、その中間にも補給拠点が必要になるだろう。ルソン国と仲の良いブルネイ国と交渉して補給拠点を確保するのがいいだろう」
「そうなると、ルソン国とブルネイ国の間を、キャラック船で石炭を運ぶことも必要になってくるな」
「信長は、補給拠点を要所ごとに作りながらマラッカまで進んでほしい。マラッカを占領すれば、以前説明したスパイス諸島の確保も頼むぞ」
「ここで得られるスパイスはイスラム商人にのみ売ることにする。スパイス諸島の駐在員は、斎藤利三と蜂須賀正勝を当てよう。スパイス諸島は広いから、北を斎藤利三、南を蜂須賀正勝に任せればいいだろう」
「斎藤利三と蜂須賀正勝についてだが、スパイス諸島の状況と、彼らの能力を見極め、駐在員とするか総督にするかについては信長が決めてくれ」
「いずれにしても、彼らのどちらかに像を1つ渡して、いつでも連絡が取れるようにするのがいいだろうな」
「マラッカを占領したら、東南アジアの諸国に使者を送り、友好関係を築く必要がある。澳門から毛利元就を抜いて使者にするのもいいだろう」
「元就だけでなく、松浦隆信、松永久秀、北条長綱についても、現地から引き抜いてこれそうなら、使者としてどんどん活躍してもらってくれ」
「東南アジアの諸国と友好関係を築き、東南アジアの諸国は日本の産品のお得意さんなってもらいたい」
「王直たちも明でプラプラさせておくと碌なことをしないから、キャラック船を有料で貸し出してどんどん東南アジアに行かせろ。交易の収益から税を取るのも忘れないでくれ」
「国王、大貴族、教皇、オスマン帝国などから資金を預かり、それを増やすことを商売にしている商人がいるという話をしたと思う」
「サラの話によると、国を跨いで商売をする大商人のなかに、グラシア・メンデスという大商人がいるらしい。オスマン帝国にも多大な影響力を持っているそうだ」
「グラシア・メンデスは、サラたちがフランスから逃げ出す時に手を貸してくれた女性で、お金には厳しいが信義を重んじる大商人だということだ」
「将来的にオスマン帝国やヨーロッパの諸国と交渉する場面があるだろうから、彼女のようにヨーロッパ諸国にもオスマン帝国にも自由に出入りができる特権を持った人物は貴重だ」
「我が国として是非にも伝手を持っておきたい人物だ。彼女は有名人らしく、東南アジアに来ている複数のイスラムの商人に、礼金とともに手紙を渡しておけば、間違いなく彼女に届くようだ」
「取り敢えずイスパニア、ポルトガル、フランスの状況を教えてもらうような手紙をサラに3通書いてもらっている。後で信長に渡しておく」
「その手紙を、東南アジアで信用できそうなイスラム商人を3人選び、その3人に手紙を託してほしい。さすがに、どれかは届くと思う」
「時間はかかると思うが、その手紙の返事が届けば、フランス国内の情勢を把握できるうえ、グラシア・メンデスとの伝手も得られる。さらに、その手紙をグラシア・メンデスに届けてくれるイスラム商人を確保することも可能になる」
「そしてマラッカを抑えた時点で、グラシア・メンデスを通じ、オスマン帝国の王に連絡を取ってほしい。敵の敵は味方だというのを強みにして、ポルドカルが支配しているインドの港を、一緒に攻撃しようという交渉をしてほしい」
「その上で、インドの港をオスマン帝国に渡す代わりに、日本と同盟を結んでほしいと交渉するのだ。難しい外交になると思う」
「オスマン帝国との交渉が成立したら、協力してインドのポルトガルの港を攻撃するのだ。我らが協力すれば、インドの港など簡単に占領できるはずだ」
「しかし、オスマン帝国の海軍はポルトガル海軍より弱い。我らが引き上げれば、インドの港をポルトガルが取り返しに来るはずだ」
「海戦となれば、オスマン帝国の海軍は負ける。そうなれば、オスマン帝国は頭にくるだろう。ヨーロッパの国々のケツを陸戦で蹴っ飛ばしてもらおう。陸軍は強いからな」
「あるいは、地中海の海賊を使ってヨーロッパ諸国の港を襲わせてくれてもいい。もしオスマン帝国が動かないなら、オスマン帝国が動くような策を仕掛けてほしい」
「オスマン帝国とヨーロッパ諸国とで、消耗戦をやってもらうのが理想的だ。日本が仲介を取る機会があれば、日本とヨーロッパの国々との和平条約締結に利用できるかもしれない」
「インドの港がポルトガルに取り返されても、スパイス諸島のスパイスは、イスラム商人が陸路でオスマン帝国に運ぶことが出来るから、我らの交易に影響はない。交易の莫大なお金は入り続けるだろう」
「オスマン帝国とヨーロッパ諸国を、二虎競食の計に掛けるのですね! またまた面白そうですな」と勘助が嬉しそうだ。




