163話 信玄の最後と北畠幕府の誕生
天文16年(1547年春)――16歳
「明日、全軍で突撃するぞ。兵たちに目一杯飯を食わせてやれ。一族には酒だ。蔵を空にせよ」
要害山城から武田軍が整然と降りていく。意地で集めた農民兵1,000人と一族の武将のみの軍だ。
「我らは武田の意地を示すのみ。尋常に勝負されよ」
信玄が大声を張り上げる。
勝家も負けじと叫ぶ。
「北畠軍大将の柴田勝家である。信玄公。農民兵は逃してやれ。奴らは武田家と心中する義理はなかろう。一族と郎党のみで掛かってこられよ。こちらは銃を使わないし、我が武将と郎党のみで、武田の花道を作ってやる!」
「ありがたし! 農民兵は村に帰れ。四半刻後に武田の一族郎党は突撃する。準備せよ!」
勝家が武将たちを集める。
「武田は郎党含め50名程度だ。尾張の武将たちよ! 武田の花道を作ってやろうではないか。我こそはと思う武将は、郎党を連れて前に出よ!」
勝家の前に、佐々政次、佐久間信盛、河尻秀隆、坂井政尚、前田利益といった武将が郎党を引き連れて整列する。総勢100名程度となった。
信玄が大声で叫ぶ。
「武田の散り花をとくと見せつけるぞ! いざ参らん!」
武田軍が突撃を始める。
北畠と武田の武将たちが、それぞれに一騎打ちを始める。
武田信繁、信廉、信龍と、武将たちが次々と討ち取られていく。
しかし、信玄と勝家の一騎打ちは続く。
優れた武芸者同士の戦は芸術品だ。見ている者の心に響くものがある。
もうここらで十分と思ったのか、信玄の気勢が落ちていく。
すかさず勝家が信玄の鎧の隙間に槍を突き入れる。
信玄の体が、ゆっくりと崩れていく。
勝家が叫ぶ。
「武田信玄! 討ち取ったり〜!」
……武田家が滅亡した瞬間である……
これで北畠家は、南近江・伊賀・伊勢・尾張・美濃・遠江・駿河・信濃・甲斐の9ヶ国を治めることになった。
北条家および豊穣家の領地は、伊豆・相模・武蔵・上野・越後となる。駿河の東部は北畠家に譲渡された。信長はそれを千世の化粧料とした。
北畠家と北条家、豊穣家の領地を数えると14カ国となる。もはや誰も逆らえない大勢力だ。
この後、豊穣家は陸奥と出羽まで徐々に領地を増やしていけばいい。
そうなれば、豊穣家と蝦夷国は海峡を挟んで繋がることになる。
北畠家は西に向かい、九州島津家まで徐々に領地を増やしていくだろう。
もちろん時間はかかる。
朝廷から織田家に使者が送られる。
足利家の将軍職を剥奪し、信長に将軍職を与えるためだ。
信長は将軍に叙任され、北畠幕府が誕生した。
信長は尾張の那古屋城を本拠地としたかったのだが、主上の切望により南近江に城を作り、幕府の本拠地とすることになる。
信長が選んだ場所は安土だった。
安土城の建設が進んでいく。
将軍家の権力を象徴とする、巨大かつ壮麗な城にしなければならない。
丹羽長秀が築城奉行となり、建設を進めている。
ここからしばらくは、戦から政治のフェーズとなる。
領土にした多くの国を慰撫していく必要がある。
また、公家や寺社など様々な旧来の勢力とも、政治的に渡り合っていかないといけない。旧勢力との政治闘争は、俺が一番嫌だったことだ。
頼む。信長、君に任せる!
信長、暗殺には気をつけてね!
オヤジたちにきっちりと護衛つけさせるからね。
そういえば明智の名は聞かないな。どこかで死んだのかもね……
そうだ、政治のフェーズで信長をサポートしてくれる人材がいるな。すっかり忘れていたけど、家康くんの懐刀として活躍していた本多正信がいるよね。
生きていれば即採用なんだけどな。
それと氏康さんに頼んで、長綱さんも信長のサポートに回ってもらおう。
政治力ありそうだからね。
とにかく信長、頑張ってね。
***
朝廷の方はというと……
「才蔵はおるか」
「は。ここに控えております。」
「義晴と義輝の親子はどうしておる。」
「大内義隆を頼り、周防国に落ちていきました。」
「そうか……」
「恐れ多くも主上に対し、これまでに暗殺を仕掛けられた回数が20を超えてきました。二条晴良の仕業に間違いありません。安全のために伊勢に移られますか?」
「この場所から朕が逃げ出すわけにはいかぬ。その方に我が命を預ける。まだ死ぬわけには行かぬ。頼むぞ!」
「承知仕りました。この命に代えてお守り致します。“近衛特殊部隊”も増員致します。」
才蔵は“近衛特殊部隊の長”に昇進したのだ。
主上から官位ももらっている。大出世だ……
「ところで、二条晴良はどうした?」
「同じく大内義隆を頼り、周防国に落ちていきました。多くの公家が付いていったようです」
「そうか。何か企んでおるな。大内家の状況を探らせてくれるか」
「承知仕りました。万事お任せください」




