愛は真心、恋は下心
「ジュード?彼、私に夢中なのよ」
アリアーヌの言葉に、コリンヌは勢いよく首を振る。
「……姉さん、絶対に騙されているわ」
その瞳は心配の色に溢れているが、杞憂だとアリアーヌは優しく言ってやりたくなった。
そうはせずに、悪戯っぽく自分では微笑んで、妹に言ってやる。
「あら、私が騙しているかもよ?」
「ありえないでしょう!」
姉の言葉に、コリンヌは叫んでその手を握り締める。
余りの猛烈な否定に、少しアリアーヌは傷つきそうになった。
勿論コリンヌが心底心配していってくれているのは分かっているし、そういう計画なのだが。
「……どうして、そう思うの?」
訊き返せば、少し潤んだ瞳がアリアーヌを見つめてきた。
「だって、あの人は遊び人として評判だし、姉さんには、シャールがいるじゃない」
思った通りの言葉だ。
そう、シャールがいる。
でもそのシャールの為なのだ。
そして、コリンヌの為に。
だからアリアーヌは笑っている。
「でも、真実の愛に出会ったらそんなこと関係ないでしょう?」
ねえコリンヌ、貴女は恋をしたことがあってある?
そうそっと問いかけると、妹は黙って目を伏せた。
コリンヌのその仕草で、アリアーヌは自分の行動は間違っていないのだと確認する。
姉は知っている、真実の愛に落ちた人間がどんなものなのかを。
だから、敢えて今こう言ったのだ。
――正直酷いことを言っている自覚はアリアーヌにはある、でも、このままでは誰も幸せになれないのだ。
「……シャールのことは好きよ、でも、それは貴女に対する感情とそんなに変わらない、友愛だわ。シャールが私に向ける気持ちもそう。……ごめんなさい、ジュードが待っているから」
「姉さん、」
コリンヌが何か言いかけるのを無視して、化粧室をアリアーヌは出る。
このままだと、言ってはいけないことを口にしそうだ。
ふたりが、コリンヌとシャールが両想いであることを知っていることを。
今はまだ駄目だ、それを知っていることを知られては。
全部台無しになってしまう。
「ここに居たのか」
ジュードの声に、うつむいていた顔を上げる。
「探しに来てくれたの?」
まさか彼がわざわざ来てくれるとは、思いもしなかった。
「あんまり遅いんでな、お前に夢中なんだし、俺は」
片目をつぶって言ってのける様は、分かっていても見目麗しく見惚れてしまう。
「……ありがとう。コリンヌに会ったの、化粧室で」
そうアリアーヌが言うと、ジュードは、ああと頷いた。
「さっきの痴話げんかの原因か?」
「何があったの?!」
不穏な単語に思わず聞き返すアリアーヌ。
「お前の妹を誘ったという男に、その婚約者が掴みかかってた。……シャールだったか、あの男がご丁寧に説明してくれたから、間違いないだろ」
「……あのひと、最初からそうしてればよかったのに」
思わずアリアーヌは呟く。
それならコリンヌが理不尽に詰め寄られなかった――いや、あの会話をしなくて済んだのに。
こう考えること自体、理不尽かもしれないが。