さ迷う番は、凍えた竜を抱き締める
二人の武器は、古来より王家に伝わるもので、竜族の始祖たる兄弟竜の角の欠片が変じた物だと云われている。
宝石のような紅と碧の結晶が、武器へとどうやったら変わるかは、よくわかっていない。
だが、竜族の人や竜への変化する力や王族が天候に関わる力を持つことから、そうしたことに起因したエネルギーのようなものによって武器へとなることが推測されている。
代々受け継がれてきた二つが今、互いに刃を削り、砕け散ろうとしていた。
ミシミシと軋む音を立てる柄を両手で支えて、紫苑は歯を食い縛った。
「どうした兄上、この期に及んで手加減しているのか?」
黒苑の剣も何度も撃ち込み、鍔迫り合いを繰り返して、尋常とはかけ離れた強い力と風を纏わせて酷使した刃に微細なヒビが入っている。このまま戦い続ければ、そのうち武器は失われるだろう。
二人の体には、深い傷はないが多くの切り傷が同じぐらい刻まれていて、所々服や肌を裂いて血を滲ませていた。
受け止められた刃を一度離すと、構え直した大剣に風が巻き起こる。渦巻く風が次々と紫苑を襲い、彼は目をこらしながら、それを避けていった。
振りかぶった剣と同時に、鋭い刃と化した風が複数の竜巻のようになって向かってくる。
「く!」
長槍に手を添えて稲妻を巡らせた紫苑は、今度は風を避けずに迎えるように走った。
細かい傷が増えていき、彼のこめかみから垂れた血が横に流れていった。目に赤い滴が触れても、紫苑は意識して瞼をこじ開け、大剣の風の前で槍を地面に突き立てた。
そして柄のしなるのを利用して地を蹴り、風を飛び越える。跳躍した瞬間引き抜いた槍を回すと、刃先が黒苑の腕を突き刺した。
「う!」
身体の内部を稲妻が伝い、黒苑が膝をついた。
バキ、と紫苑の槍の柄が折れる。それを見て、素早く刃の根元に手を持ち替えた彼は弟の右肩にそれを突き立てた。
拍子に二人とも地に倒れ、紫苑は刃に触れて流血して滑りそうになる手で、更に強く槍の欠片を握り締めた。新たな鮮血が舞うのも気にすることなく、その手を再び持ち上げた。
憎しみを湛えた目を自分に向け続ける弟を見返し、上半身を膝で押さえ込み、その喉元へと刃を振り下ろす。
「………………クソ」
今にも貫きそうだった刃は、黒苑の喉から僅かに離れたところから動かなかった。やがて力を抜いた手から、地面に刃が転がった。
「兄上は甘いな」
「ぐあっ」
呟いた時には、黒苑は片手に掴んだままだった剣で、紫苑の背中を突いていた。
ベキンと硬質な音を響かせて、彼の体に刃を残したまま、大剣が途中から折れた。
破損した武器を投げ捨てると、倒れかけた兄を押し退けた黒苑が起き上がり様に、彼の肩を蹴りつけた。
「最初から、貴方さえいなければ!」
「ぐっ!」
仰向けに倒れた彼の顔を、片手で襟首を掴んだ黒苑が何度も殴る。怪我をした腕を振り上げる度に、血が宙を跳んだ。
「同じ顔をしながら!似た魂の形なのに!なぜ貴方だけが愛される?!」
薄く目を開けた紫苑が、突き刺さったままの背中の刃を抜くや、黒苑の脇腹を刺した。
呻いた彼が脇腹を押さえながら立ち上がり、紫苑も上体を起こした。
「…………心は違う」
鼻と口からの出血を手の甲で拭い、紫苑は同じ顔の男を見上げた。
「お前は俺には、なれない」
「…………俺か兄上、どちらかが最初からいなければ良かったのに」
黒苑は、悲しみで虚ろに笑い、脇腹から落ちた剣の欠片を拾うと紫苑に振り上げた。
「やめてえ!!」
頭上から響いた声に二人が驚いて動きを止めていたら、仔竜が黒苑の前へと着地して立ち塞がった。
「ローゼ!」
竜の背中から降りた娘が、呼ぶ黒苑の方を見ることもなく、血塗れの紫苑の方へと走った。
「紫苑!紫苑!!」
膝立ちになったローゼは、傷付いた体を支えるようにして彼の頭を抱き締めた。
「ろ……」
「やめて!もうやめて!」
泣きじゃくるローゼに怒ることもできず、紫苑は彼女の香りに満たされて、その背を撫でた。
「灰苑、邪魔をするな!」
灰苑の胸の辺りを刃で斬り、黒苑は風を起こして竜の身体を横へと吹き飛ばした。
「ローゼ、こっちへ来るんだ」
片手で刃を提げたまま、黒苑は彼女に手を差し出した。震えながら振り向いたローゼが刃を見て、彼の言わんとすることを理解して紫苑から離れて立ち上がろうとした。
「ローゼリア」
黒苑の方へと行きかけた彼女の腕を、紫苑は掴んだ。
涙を流す彼女を見上げ、首を振ると、もう片方の腕を伸ばした。
「俺の番………愛している」




