200年前の番達2
リッケルさんの案内で小道を曲がった先に、淡黄色の壁の小さなお店があった。
「さあ、お入りください」
赤い木戸の金色のノブを捻って、リッケルさんが促してくれた。
入って直ぐに目に飛び込んできたのは、ショーケースに鎮座する色んなケーキ達だった。
「わあ」
ケースの両側には、焼き菓子やチョコが所狭しと並び、見ているだけでも楽しい。
「いらっしゃいませ」
「あ、こんにちは」
赤い髪をサイドで結んだ丸顔で背の高い女性が、ショーケースの後ろから私達に声を掛けてきた。水色のワンピースに白のエプロンを付けていて、中年の女性の客に買ったケーキを箱に入れて渡しているところだった。
客を見送り、こちらを見た彼女は、紫苑に気付くと警戒しているのか顔を強張らせた。
「竜族の方が、なぜこのような場所に?」
「藍花、大丈夫。この方達は白霧様の紹介でここまでいらしたんだ」
客がいなくなったのを見計らい、一時休憩中の札を戸に吊り下げたリッケルさんが、アオ君を降ろすと不安そうな彼女の肩を抱いた。
「妻の藍花です。取り敢えずお茶にしましょう、奥へどうぞ」
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「まあ、あなた方が……」
白霧様の紹介状を読んだ藍花さんは、一変して親しげに私達を見つめた。
「新しく人間と竜族の番が現れた話は聞いていました。まして竜族の王子であられる方のお相手ですし、どんな方だろうなと思っていたんですが、そうですか貴女が」
テーブルにアオ君を膝に抱いて椅子に座った藍花さんは、20代半ばぐらいの外見で、茶色の髪と瞳のリッケルさんも同じくらい。夫婦そろって柔らかい物腰で優しい雰囲気だ。
「私は昔、白霧様の侍女をしていまして、この人と番になってから人里に隠れ住むようになった後も、色々と助けて頂いたものです」
そう言って、リッケルさんに「私はいいですが、あなたは?」と顔を合わせて相談をし始めた。
頷いてから、リッケルさんは人好きのする笑顔で並んで座る私達を見て言った。
「恩人である白霧様の頼みであれば断れません。それにあなた方のことは他人事には思えない。どうぞこちらで過ごして下さったらいいですよ」
「ああ、助かる」
紫苑は素直にそう言って、二人を興味深そうに観察している。
「ありがとうございます。あの、私達もお店を手伝ってもいいですか?」
「それはありがたいです、ですが……紫苑様に手伝ってもらうとは」
藍花さんが、どうしようという顔でリッケルさんを見ている。とても仲良さそうだ。
「ただで住ませてもらうわけにはいかないだろう。やれることはする」
意外にも王子様はやる気だった。
でも一瞬、夫婦が心配そうに紫苑を見ていたのを私は見逃さなかった。
彼もその視線に気付いたのか、出されたレアチーズケーキの最後の一口を食べて憮然とした顔をした。
「………子守りぐらいはできるぞ」
「あ、ああ、アオをお願いできるのですか」
弟がいるお兄ちゃんの自信だろう。確かにケーキを作る王子様は想像できな……くもないが、子供をあやしている光景の方がしっくりくる。
「しかし、小さいな。200年前に番ったと聞いているが、そのアオとやらが生まれたのは、つい最近か?」
「ええ、はは、200年経っても子を授かって賑やかなことだけは絶えません。こんなに授かるとは思いもしませんでした」
夫婦が照れ臭そうに笑う。
何か今の言葉に引っ掛かりを覚えて、私と紫苑は沈黙して考えた。
「……………こんなに?」
「え、アオ君は最初の子ではないんですか?」
「最初の?いいえ、上の子は皆成人して家を離れたもので今はこの子だけがいるのです」
リッケルさんがアオ君の頭を撫でながら、さぞ当たり前のように言った。
「アオは28番目………ぐらいだったかな。いや、そうだ、29番目の子です」
「に、29?!」
つい声を上げた私の横で、紫苑も驚いた顔をしている。
「29………そんなに作れるのか!?」
なぜ私を見ながら言った?




