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隠す竜3

 

「ん……あ、あのまま寝ちゃったのか」


 カーテンの隙間から届く日差しを浴びて目を擦る。

 どうやら椅子に座ったまま眠ってしまったらしい。椅子の背が高くて座り心地も良かったので、目覚めは悪くない。


「うーん……ん?」


 伸びをして、ふと自由の利かない右手に視線を向けたら、一回り大きな手に握られていた。


「…………………」


 私が握っていたんじゃなかったかな?

 ぼうっと思っていたら、紫苑と目が合った。横になっているが目だけはパッチリ開いて私を見ていた。


「紫苑、起きてたんです……ね?」


 声を掛けた瞬間、ハッと我に返ったようになって、急いで手を離して向こうに寝返りを打ってしまった。


「紫苑…………さっき起きてましたよね?」

「…………ん、ローゼか」


 わざとらしく欠伸をして、上半身を起こす紫苑。

 もういちいちツッコミを入れるのも面倒なので、まあいいか、で済ませる。


「傷は痛みますか?」

「痛みはあるが、昨日よりは楽だ。じきに良くなる」

「そうですか、良かったです。着替えてきます」


 寝顔を見られてしまったことが、急に居たたまれなく感じた。

 ついでに寝間着のままだったことに気付いて、恥ずかしくなって椅子から立ち上がったら、彼が私の袖を引いた。


「待て」

「いえ、待たないです」

「っ、まあ待て。少しだけ、少しだけだから」

「どうしたんです?」


 紫苑が焦ったような顔をするので、立ったまま問うと、口をパクパクさせて言葉を探しているようだ。


「こ、ここに座れ」


 ベッドの端をポンポン叩いて促すので怪訝に思っていたら、思い付いたように付け加える。


「匂いが、まだ取れていない」

「私臭いですか?多分それ貴方の口の中の匂いじゃないですか?」


 失礼な。

 自分の腕やら襟元を嗅いでみるが、私には花の香りがするだけだ。


「違う…………あいつの匂いが残っている。黒苑に、触られただろ?」

「え?ええ、そうですが」

「匂い、消してやる」


 ジリッとにじり寄り、緊張した面持ちで、そうっと私に手を伸ばしてくる。


「紫苑?」

「……お前には分からなくても俺には分かるから……に、匂いを擦って取ってやる」


 …………何かおかしい。

 うん、まあいいか。


「………分かりました」


 ベッドの端に腰掛けて背中を向けると、肩に彼の手が触れた。その手が私の肩から下りて手首を伝う。

 羽根にでも触れられているのかと思うほど、そっとそっと弱く撫でられている。


「これからどうするのですか?」

「…………もう敬語はいい。俺は城を出た時点で王族の身分は無いに等しい。白霧も言った通り、俺はお尋ね者だ」

「そんな」


 背中を向けているので、彼の表情は窺い知れない。でも声に悲壮感はない。

 背中を撫で始めた手が、調子づいたのか感触がはっきりわかるくらいに力が加わった。


「私がいなければ、こんなことにはならなかったはずよね。ごめんなさい。番だなんて何もいいこと無いのに。貴方が身分を失ってまで得することなんて何も無い。私には何の価値も無いのに」


 ついこの間まで、私はアースレンで平凡に暮らしていたはずなのに。遠いこの国に竜族の人々を混乱させる為に来たようなものだ。


「……いいんだ」


 私の首を撫でて、紫苑は静かに言った。彼の指が、くすぐったくて俯く。


「ローゼ、俺は後悔していないし未練もない。城からお前を連れて去ったことは、俺にとっては間違いのない選択だった」

「え?」


 言い切った彼に驚いた。


「黒苑にお前を渡すぐらいなら、俺は全てを捨て去ってもお前を」

「意地になってるの?そんなに黒苑様と仲が悪かったの?」


 物の奪い合いのようで、気分が悪い。

 キッ、と振り返って睨むと、紫苑は悲壮感を露に「えええ?」と嘆くように声を絞り出した。


「紫苑、子どもみたいなことを言わないの。貴方は、この国の王様になるんでしょ。ちゃんと汚名を晴らさないと」

「だが」

「父親を殺すようなヒトを王様にしてはダメ」


 目を見て真剣に伝えると、撫でていた手を止めた紫苑も真剣な顔をした。


「だから私は、貴方の妨げになるなら婚約を解消してアースレンに戻ろうと思うの」

「…………う……」


 口を半開きにしたと思ったら、わなわなと唇を震わせ引き結んだ彼に、もしかして泣きそうなのかなと気付いて、また背中を向けた。


 悲しいのか?どんな理由で?


 肩に置かれたままの彼の手に、どうしようかと思っていたら、手の力が強めに込められ肩を掴まれる。


「…………一つ、聞かせて欲しい」

「はい?」

「俺と黒苑、お前はどちらが好きなんだ?」








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