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隠す竜4

 

 なんでそんなことを聞くのだろう?紫苑も黒苑様も、番だから私が気になるだけだろうに。


「私は……」


 彼の問う『好き』が、両親や友人を慕うそれとは違うことはわかる。分かるのだが……


「好きって、どんな気持ちなんだろう……紫苑は分かる?」

「え、そこから?」


 肩を掴んでいた手が、ずるっと落ちた。


「よく分からないの。私は孤児院で過ごして、その後は働き通しで。あ、基本的なことは学んだのよ。読み書き計算、最低限のマナーや地理歴史は本で覚えたわ。でも、そういう『好き』を学んだり経験する暇無くて」


 戦後の慌ただしさの中、女の子が好むような恋愛小説も読んだことがない。忙しさと私の無表情さが災いして、同性の友人と呼べる人もいなかったから、色恋話も耳に入ることは無かった。


「あー、そうだな」


 成る程、と納得したように返すが、紫苑は知らないだろうに。


「紫苑は、好きって気持ち分かるの?」

「え!う……そう、だな。分かっていたが確信したというか、まあ、あれだな、分かる………つもりだ」

「歯切れが悪いのね。でも分かるなら教えて。どういう感じなの?」


 振り返って、聞く態勢に入る。そう私だってやはり女子、知りたいのだ。


「………俺に聞くのか」


 溜息を付いて、紫苑は片手で目元を覆った。


「紫苑?」

「………好きな相手が傍にいたり、相手を思ったりしただけで……む、胸がドキドキするというか」

「キュンとなるの?」

「そう、だ。それにたまに酷く辛い。相手が冷たい態度を取ると、胸に刃が突き立てられたような苦しみを被ることもある」

「難しいのね。他には?」

「時々でいいから、笑顔が見たい」

「ふうん」


 さっきから彼はこっちを見ない。銀髪からのぞく耳を赤くしているから、答えにくいんだろうとは思う。


「触りたいとか思うの?」

「あ、ああ」

「手を繋ぎたいとか?」

「そうだな」

「……キスしたいとか?」

「う、そう……なんだこの拷問は」

「この人と添い遂げたいとか、結婚したいとか思ったり?」

「く、よく分かってるな!そうだ悪いか」

「抱きたいとか、子ども作りたいとか、身も心も自分のものに、むぐっ」


 紫苑の手が、いきなり私の口を塞いで質問ができなくなった。


「はあはあ、も、頼むからやめろ」


 真っ赤な顔で目を反らしたまま息苦しそうな彼に、私はピンときた。


「………紫苑、やはり別れましょう」

「……………………は?」

「それほどに好きな人がいるんでしょう?おかしいと思ったの。全ての女をメロメロにするようなイケメンで地位もあって強くて優しいくせに、なぜ私なんかをと思っていたけれど、やっと分かったわ!本命のカムフラージュなんでしょ、私は!」


「なっ!?誉められたような気がして嬉しいような、理由の分からない苛立ちのような、叫びまくって泣きたいような気持ちになるのはなぜだ!いや待て、そうじゃない。お前は勘違いしている、いや、しまくりだ!」


「何が?」


 腕を組んで、ツンと顎を上げて聞く。

 あれ、何で私腹立たしい気持ちなんだろ?


「俺に好きな他の女はいない。お前が俺の唯一の番だ」

「そうなの」


 番、か。好きとかどうとかの感情を凌ぐ最強の言葉だな、と皮肉げに思う。


「だいぶ遠回りしたが……それでお前は、そうした『好き』の気持ちを俺か黒苑に感じたことはないのか?」

「やっぱり分からない。でも貴方のことは、以前より嫌いではないわ」


「そうか!」


 ぱっと明るい顔をするのは、嫌いじゃないに反応したのかな。好きとは言ってないけどね。


「黒苑様は怖い。優しそうなヒトで頼れるヒトだと思っていたのに、あんなことをするなんて信じられないの」

「あいつは昔から感情を押し殺す奴だった。兄弟の俺でさえ、何を考えているか分からないことはあったが……」


 遠い目をした紫苑は悲しそうだった。もう元のような兄弟には戻れないだろう。そう思うと、私も悲しかった。


「でも紫苑は怖くないわ。私を守ってくれたし、家族のことを思いやる良い竜だと思う。私には靴にキスさせようとした最低で偉そうで匂いフェチで、たまに不審者っぽいし煩いヒトだけど、うん、良い竜だわ」


「く、誰のせいだと……」


 思い出したように私の肩を撫でるので、びっくりして身を固くした。


「ローゼ、さっき言った『好き』を覚えていろよ。これから先、そういう気持ちを感じたら、それが好きってことだ」

「そうね、でもそんな気持ちになるかな」


 こつん、と私の肩に、手ではないものが当たって顔を巡らせると、俯いた紫苑が額を押し当てていた。


「なるさ。何故って……」

「ん?な、なあに?」


 顔は見えないけれど、ふっ、と笑った気配がした。


「お前は、俺が匂いを付けても拒まなかった」















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