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No.let,s not.


 例えば世界というやつの理不尽さを挙げてみるならあなたはなんというでしょうか。私は長い間かけて育てた希望をほんの一瞬で消し去ってしまうことにあると思います。

 冬が近くなり、木枯らしが吹き始めました。それに伴って悪魔払い探偵事務所は本格的な過疎化を迎えていました。事務所の電話はこの一ヶ月のあいだ一度も鳴ることはなく来客もありません。あ、三島さんが一度だけ訪ねてきました。お茶を飲んでお菓子を食べて雑談をして帰っていきました。以前よりもずっと笑顔が多くて私は嬉しくなります。それ以来本当に何もありません。ええ、所長と私が営業時間中にトランプを始めることができる程度に過疎化しています。なんだか本格的に給料泥棒と化してきましたね、私。

 所長の手が私の手札の中にあるジョーカーを掴みます。それから私の目を見ます。私は努めて無表情を作りました。

「これじゃないな」

 所長はあっさりそれを手放し、隣のカードを取って最後の手札を中央に投げました。

「な、なんでわかるんですか!」

「お前、わかりやすいんだよ」

「所長がわかりにくいんです」

 私はカードを投げます。所長はイカサマではなく素でカードゲームが強いのでぶん殴ることができません。むしろ私がイカサマしようとしたのですがすぐに見破られてしまいました。以前に数字のゲームでハメたのを相当根に持っているらしいです。ババ抜きはこれで私の三勝十敗です。どや顔がムカつきます…… ちなみに二人なので重要なのは実質ジョーカーの位置だけです。

「やめです! 所長のようなカス人間と真面目にゲームに興じた私が間違っていました」

「真面目にゲームに興じた、ねぇ…… 十三回のゲームで二十回以上イカサマやろうとしてそれだけ言える根性は褒めてやる」

 わーい、褒められました。

「はぁ」

 あまりのひまさに溜め息を吐いてしまいました。

「ま、こんなもんだぞ。うちの事務所は」

 所長はコーヒーを啜りながら言います。珍しく自分で淹れたものです。カップの中に目を落として妙な顔をしています。どうしたんでしょう?

「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない」

 所長はカップを降ろしてトランプを片付け始めます。

「所長ってまさか客が来るのがうざいから『悪魔払い探偵事務所』なんて名前をつけたんじゃありませんよね」

 所長が感心したような顔をしました。

「よくわかったな」

「……私にはもう所長がわかりません」

「あっはっは」

 とってつけたような笑い声でした。

「人と関わりたくない時期があったんだよ。引きこもってもよかったんだが周りがうるさくてな、ここを作ったのはいわば口実なんだ」

 軽い口調なのに妙に重く響きました。白い部屋が冷たいです。私は空気を読みませんでした。

「所長の昔の話って、ちょっと聞いてみたいです」

 それは私としてはかなり勇気を振り絞った発言でした。所長は明後日の方向を見たあと私に向き直ります。

「ま、いつかな」

「いつか、ですか」

「百五十年後ぐらい」

「キレのない返答ですね」

「おお、お前にダメだしされるとは思わなかった」

 誤魔化されるだけでなくそこはかとなくバカにされていますね。とりあえず暇潰しを兼ねて所長をぶん殴りました。が、避けられてしまいました。

「むう」

「……タイミング掴めるほどお前に殴られ慣れた自分がなんか妙に悲しいな」

 所長は沈んだ顔をしました。拳は届きませんでしたが結果として精神的に落ち込ませるころができたのならまあよしとしましょう。

「……所長?」

 所長はドアの辺りで視線を固めていました。ドアが開いていることにそれまで私は気づいていませんでした。一人の男性がそこに立っています。

「やあ、ノックをしても返事がなかったものだからね」

 そこに立っていた彼は言いました。

「お久しぶりです!」

「ああ、久しぶり。二人とも元気だったかい?」

 穏やかな笑顔で私と所長を見渡したのは私の叔父の榎本達真でした。会社帰りらしい上品な濃紺のスーツに今年四十とは思えない若い表情が映えます。

「来るなら連絡くらい寄こせよ」

「敬語を使えといつも言っているだろう。いつまで経っても礼儀がならないな、お前は」

 所長が舌打ちを一つしました。叔父は鋭い目で所長を睨みつけています。

 あ、あれ……? 想像していたよりずっと険悪な雰囲気です。

 所長は無表情ながら敵意のようなものを撒き散らしていますし、叔父も私の知る落ち着いた雰囲気ではありません。そういえば叔父は所長が刺された時も見舞いに現れたりはしませんでしたね。

「川口」

 所長が低い声で言います。

「なんですか」

「お前、今日はもういいから帰れ」

「嫌です」

「帰らなかったらクビ」

 横目に私を見た所長の目はすがるような弱々しいものでした。そんな目をされてしまっては、私は引き下がらない訳にはいきません。

「はい」

 少ない荷物を持って大人しく事務所から出ます。とはいえこんなおもしろそうなチャンスを逃す気は私にはさらさらありませんでした。険悪な仲だというのにわざわざ訪ねてきたということは積もり積もった話があるのでしょう。しかし抜け目のない所長のことですから私が階段を降り切るまでは話し始めることはないと思います。恐らく判断の基準は足音です。私は事務所の階段の段数を思い出しす。確か十四から十六段だったと思います。もし十四だった場合、十六踏めることはありえないので十四回にしましょう。私は階段の一番上で足踏みをします。カンカンカン、と金属性の階段は高い音を鳴らします。十一、十二、十三、十四、っと。次に靴を脱いで足音を立てないようにそっと事務所の扉に近づきゆっくり耳を押し当てました。

「……、でいまさら何をしにきたんだ?」

「いいや、本当にどうしているか様子を見に来ただけだよ」

「じゃあ言い方を変えようか。なんであんなやつを送ってきた?」

 あんなやつ……? ああ、私のことですか。

「楽しかっただろ?」

「冗談いうな。役に立たない、暴力は振るう、文句は言う。使えたもんじゃない」

 所長、私のことをそんな風に思ってたんですか! ……やっぱり。

「笑うなっての」

「いや、お前が苛立つなんて学生時代から珍しかったから、あの子を送った甲斐があったなと思って」

「お前、俺を苛立たせたかったのか?」

「そうじゃない、……あ、いや、そうなのか? ああ、うん。そうだ」

「こないだあいつが料理に使った包丁まだ置いてなかったっけな」

「待て、早まるな。冗談だ」

 叔父が慌てたような声を出したのが私には新鮮でした。

「少なくともお前は理論と理屈でものを考えすぎなんだ。人ってのはもっと楽でいられるように出来てるんだからお前はもっと人生楽しまないと損だぞ」

「余計なお世話だ」

「湊に気づかされたところはあっただろう」

 舌打ちが聞こえました。えっ、所長ってそこまで私のこと嫌いだったんですか? ちょっと泣いてもいいですか。

「お前はどこか機械じみてる。有能だし行動力もあるがそれだけだ。書面で人を判断したら痛い目に会うのはわかっただろ?」

「確かにあの大学に合格した人間にしては川口はお粗末だが、あれはレアケースじゃないのか……?」

 所長は叔父の用意した書面に騙されて私を雇ったんですか!?

「そう、確かにレアなケースだろう。だがレアなケースがこれから起こらないとは限らない」

「まあな」

 叔父まで…… ぐすん。

「俺は人間の合理的でない部分に疎い、って川口に言われたんだが、つまりあんたが言いたいこともそういうことか」

「あの子の言葉はたまにあっさりと核心を突くな。まあそんなところだ」

「俺に何か言う事はないか?」

「すまなかった」

「いずみに何か言う事はないか?」

「すまなかった」

 二回目は少し答えるのまでに間がありました。

「逃げんなよな…… いや、俺がお前の立場ならきっと俺も逃げたんだろうけどよ」

「いいや、お前は逃げなかったさ」

「根拠は?」

「人間の合理的でない部分に疎いからだ」

「なるほど、把握していてなお自分の中の恋愛感情を整理しきれない、か」

「人間的だ」

「ああ、非合理的でもあるな」

 乾いた沈黙が扉越しにも伝わってきました。風が吹いて私は寒いなと思います。

「まあいまさらだな、いずみはどうしてる?」

「相変わらずさ」

「そっか、あいつには悪いことしたな」

「お前のせいじゃない」

「そうだな。お前のせいだ」

「恐いな…… 本当にお前に殺されかねん。僕はもうそろそろ帰るとするよ」

 げっ。

 叔父が出てくる前に足音を立てないようにして階段を降りました。そして降り切ってから気づいたのです。私、靴を置きっぱなしでした。

 ……私という人間はなぜこうも間が抜けているのでしょうか?

 土埃が染み込んで底の黒くなった靴下がかなり虚しいです。階段を下る叔父の足音が近づいてきます。ここで逃げても無駄ですので私は大人しく叔父待ち、あわよくば靴を取ってきて貰おうかと思います。

「盗み聞きは感心しないよ」

 叔父は私の靴を持ってきてくれました。ああ、本当に叔父はなんて優秀な人間なんでしょう。

「ごめんなさい」

「僕に不満はあるかい?」

「……? いいえ」

 どういう意味でしょう? 叔父はにっこり笑って「赤山は扱い辛かっただろう?」と言いました。私はそんなことはありませんでしたよ、と言おうとしたのですが正直者を自負している私ですからどうしてもその一言が吐き出せません。私はいま人間としての価値を問われています。社会人ともなれば心にもないことを平然と口にだせなければいけないのです。ファイトです、私! 

「ソンナコトハゼンゼンマッタクアリマセンデシタヨ」

 これが限界でした。無念です。

「ああ、そうだ。湊に言わないといけないことがあったんだった」

「?」

「湊、携帯電話は?」

「ああ、使わないので電源を切ったまま家に置きっぱなしですね」

「それでか」

 叔父は神妙な顔をして一度頷きます。

「田舎に帰りなさい」

「……なんですか、急に」

「急にじゃない。湊の携帯に昨日からずっと掛けていたんだ。大学に連絡するか僕がここに行くかで、僕が来たんだ」

「……どうしてまた?」

「君のお父さんが、今度は本当にリストラされたんだよ」

「その手には、乗りませんよ?」

「悪かったと思ってる。だけど今回は、ほんとなんだ」

「……」

「とりあえず、行こう」

 叔父は私を乗せて車を出しました。古い車は煙草の匂いがします。私はこの匂いが少し苦手です。


 学生寮は引き払って欲しいそうだ。少し遠いけど定期券を買って電車で通えるかい? あそこのアルバイトはやめたほうがいい。地元で新しく見つけなさい。今度から携帯電話の電源は入れておくようにね。

 そんな話を幾つか聞いた気がします。

 どうしよう。なんだか頭が真っ白です。電車で二時間の道のりは掛かった時間はそう変わらないのに恐ろしく長く感じました。夏には暖かに私を迎えてくれた風景は冬枯れの冷気を淡々と讃えています。山の季節は一足早いのです。

 家に帰ってきました。

「みぃちゃん、お帰り!」

「おう、よく帰ったな」

 母はしきりに笑顔で私にいろいろ話し掛けました。


「大学にはもう慣れた?」

 いいえ、慣れません。

「楽しい?」

 まだ、わかりません。

「友達はどう?」

 きちんと友達と呼べる人は居ないかもしれません。

「アルバイトはどうなった?」

 辞めないといけないのは少し寂しいです。

「寮は寂しかった?」

 いいえ、とても快適でした。


 ……なんて言えるはずもなくて私は無難な答えとはぐらかすことを続けていました。そんなぎこちない嘘にさえ母は気づくことはありません。私などよりも母はいまよほど大丈夫ではないのです。

父も似たようなものでした。父は自分たちは大丈夫だからお前は心置きなく大学に通いなさい、ということを言い方を変えて何度も繰り返します。いかにも温厚そうな父の顔にはいつもより多くのしわがよっていました。

 二人とも私を落ち込ませないように無理をしているのだと一目でわかります。これでは学生寮に留まりたいだなんて口が裂けても言えそうにありません。

 ああ、本当に父はクビになったんだ。

 私は今更のように思いました。私はやはりまた、私に何かさせるための母のタチの悪い冗談ではないかと疑っていたのです。いえ、疑っていたのとは少し違います。きっとそう信じたかったのです。

 私は変化というものが嫌いです。新しい物は馴染むまでに長い時間が掛かってしまいます。あの奇妙な探偵事務所での生活にも私は長い時間を費やしてようやく馴染んできたところなのです。

 それなのにどうして私はまた居場所を奪われてしまうのでしょうか? なぜ神様はいつだってこうも残酷な仕打ちをするのですか。何の苦労もなく悠々と生きていくことを一部の人間にだけ許して私には許してくれないのでしょうか。無論、私は答えを知っています。神様なんていないからです。もしいたとすれば所長の如き性悪なクソ野郎だからです。

 無性に泣きたくなりましたが私は自分に泣く事を許しませんでした。それは私が辛いから流すだけの利己的な涙であって、私より辛いはずの父や母に対する涙ではなかったからです。




 なぜ私は不幸なんですか?

「お前が自分のことを不幸だと思ってるから。客観的にお前より不幸でも自分を不幸じゃないと思えるやつはたくさんいるさ」

 あなたは幸せですか?

「少なくとも不幸じゃないと思うぜ」

 リア充、爆発しろです。

「自分以外はみんな不幸になれってか? ガキかよ」

 少なくとも誰でもそこそこ思ってることでしょう?

「俺は思わないな」

 どうしてですか?

「誰かが不幸になっても自分が幸せになるわけじゃないから」

 でも自分より不幸な人がいると少し安心しますよ、私は最下位じゃない、って。

「どうして?」

 どうして、って。人間ってそういうものでしょう?




 目を覚ますと視線の先に木目がありました。ああ、ここは学生寮じゃないんだなぁ。寝ぼけ眼を擦ります。実家の布団は陽の匂いがします。私が留守の間も母がきれいにしていてくれたようです。そういえば学生寮の布団はもうしばらく干していません。

「はぁ……」

 引き払わないといけないんですよね、もう。

 月末までは居てもいいそうですが、月末まではあと二週間もありません。整理をつけるには充分ですが、あまりにも短くもあります。

 時計を見ると十一時と半でした。リビングへ出ると母はもう起きています。私がおはようというと母がにっこり笑っておはようと返します。しかし目の下のクマはその笑顔からひどく浮いていました。

 父が見当たりませんでしたが、多分働き口を捜しに行っているのでしょう。父は叔父とは別の意味で責任感の強い人です。必要以上に自分を責めてしまうところがあります。

「……」

 思えば高校時代の私は父や母に心配ばかりかけていた気がします。少しのことで落ち込んで帰ってきましたし、学校を休むこともよくありました。励まされるのは辛かったし、辛い顔をされると泣きたくなりました。それでも 二人は私を支えようとしていたのです。

 今度は私が支えていこう。いまはそう思えます。

 私は母が作ってくれた朝食を食べました。歯を磨きます。母の化粧品を借りてへたくそな化粧をしました。

「どこかに出かけるの?」

 心配そうな顔をして母が尋ねてきます。私はなるべく明るく見えるように表情を作りました。

「学生寮を引き払ってきますね」

 泣いていないか不安でしたがどうやら母を騙せる程度の笑顔は作れたようです。

 私は家を出て、昼前のようやく僅かにだけ陽気の射してきた陽射しを浴びながら駅までを歩きました。お金を入れて切符を買い、改札に通してホームに出ます。少し待って人がまばらな駅から電車に乗りました。都会に近づくに連れて人が多くなります。それらを眺めて羨ましいような恨めしいような妙な気持ちになりました。電車を降ります。二本の電車を乗り継いで私は目的地に到達します。二時間少しは前よりもかなり長く感じました。

 学生寮に着いてまずは光さんに近い内にここを出ることを話しました。光さんは「お別れ? 大学で会えるじゃん」と気楽な調子でしたがお隣さんというよしみがなくなってしまえば光さんと普通に友達していることはきっとないでしょう。

 元々掃除は嫌いではなくそこそこに片付いていましたから直ぐに必要な荷物はまとめ終わってしまいました。私が十ヶ月近く過ごした部屋はこんなにあっさり元に戻るものだったんですね。

「……」

 私は部屋を出て探偵事務所に向かいました。あえて何も言わずにばっくれてやろうかなとも思ったのですが、やっぱり所長は所長なのできちんとお別れは告げようと決めました。

 いまでは大学以上に通い慣れたこの道も、最初は叔父に地図を貰わないとさっぱりだったんですよね。

 十六段の階段を登って事務所のドアを叩きます。今日は本来休みの日ですから客かと思ったのでしょう。「どーぞ」普段では私に向けない誠実な声が向こうから聞こえます。私はドアを開けました。

「本日はどうなさいましたか?」

 所長はデスクについたままでした。お客さんがきたときくらいは文庫本を捲るのをやめるのですが、視線はそちらに固めたままです。

「どうして私だとわかったんです?」

「なんとなくだ」

 私の歩き方とかに癖があるのかもしれません。所長が視線を上げます。深い色の瞳が私を見ます。射すくめられたように私は何も言えなくなってしまいました。……嫌です。ようやく慣れてきたこの場所を私はまだ失いたくないです。

「……本日はどうなさいましたか?」

 所長は気だるそうに言います。

「謝りにでもきたか? 盗み聞きしててごめんなさいって」

「気づいてたんですか?」

「階段を降りたなら足音が均一なのはおかしいだろ」

 どうやら私はどこまでもこの所長に敵わないようです。

「違い、ます」

「へえ、じゃあなんだ?」

 私は、なるべく明るく聞こえるように言いました。

「所長、ここちょっと給料安すぎです!」

「上げてやる気はないぞ。ただでさえ仕事少ないんだからよ」

「上げてくれないんなら、」

 上げてくれないんなら、なんでしょう? 続きが言葉になりません。所長が薄く溜め息を吐きました。妙に察しのいいところのある所長はもう私が何を言おうとしているのか気づいているのかもしれません。あるいは叔父に聞いているのかもしれません。

「や、……辞めてやります!」

「あーやめろやめろ、清々するよ」

 私がやっとのことで吐き出した言葉に所長は呆れた口調で返します。私を引き止めませんでした。いま所長に引き止められたら私はきっと泣いてしまうのを察して、というのは所長を過大評価しすぎでしょうか? 初めて会ったときの所長ならば「居ても居なくてもどっちでもいい」とか言って、私を泣かせたんでしょうね。

「ところでさ、お前に一つだけ聞きたいことがあるんだ」

 いまさら私が所長に教えられることなんてあるのでしょうか?

 所長は妙に真面目な顔をして言います。

「なんで同じ豆と湯を使ってるのにお前が淹れたコーヒーのほうが美味いんだ?」

 私は吹きだしました。何がおかしかったのかわかりません。所長がクソ真面目な顔をしているのがツボだったのかもしれません。一頻り笑って、私は言います。最後の意地悪です。

「教えてあげません!」




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