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フォーフーム戦機  作者: 女又心
終章 誰も知らない戦い

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それだけは絶対です

 ステイシスフィールドが解けた後、中にいた人間はそのことを知覚することはない、などと豪語していたチェイサーだったが、その言葉とは裏腹に、解放されたばかりの地球はそれなりに混迷の様相を見せていた。


 というのも、かつては存在していたはずの各種人工衛星が、封印期間中に故障や紛失で機能不全に陥っており、辛うじて現存していたとしても、タイムラグやシステム的な問題でほとんど使い物にならず、世界中の至る所で社会インフラに支障を来したからだ。


 他にも、中にいた人から見れば突然昼夜が逆転していたり、場所によっては気候すら変わってしまったりなど、誰もが肌身で感じられるほどの異変が各地でちらほら散見するような有り様だった。


 そんな世の中の動乱を他所に、地球を星外の脅威から救った立役者たちは、チェイサーから奪った恒星間航行モジュール内で、今後の身の振り方について相談していた。


「さて、これからどうしたもんかね」


 頭の後ろで手を組みながら、光一が皆に問いかける。彼の右目付近には痛々しい裂傷が走っており、使い物にならなくなった本来の眼球の代わりに埋め込まれた義眼は、瞳の部分が鮮やかな青色をしていた。


「本当にやるんですか、復讐?」


 恐る恐る尋ねてきた正博に、光一は「んあ?」と気のない反応を返す。


「んー、まあ、アンフィビアンの手を借りれたなら、それもまた一興かなと思ったけど、わざわざ自分の手を汚したり、危険を冒してまでやるこたないわな。つか、ぶっちゃけめんどくせえ」


「そうですか」


「そういうあなたは、それでいいの?」


 どこかほっとした様子の正博に葉月が問う。彼女も左目付近に傷があるのだが、今は前髪で見えないように隠している。


「わたしたち二人は元々身寄りがなかったから、真っ先にアンフィビアンに対する貢ぎ物にされたのだと思うけど、家族のいるあなたは……」


「……もう、いいんです」


 気遣わしげな視線を向けてくる東野姉弟に、正博は困ったような笑みを浮かべてみせる。


「誰かを憎んだり、恨んで生きてくのって、何だか辛いし……それに今は、レイチェルが傍にいてくれるから……僕は、それだけで十分です」


「正博さん……」


 優しく手を握り、寄り添ってくれるレイチェルに照れ笑いを返すと、正博はふと思い付いたように、周囲に向かって声をかける。


「そう言えば、セシルさんやシーラさんは、これからもずっとそのままなんですか?」


 現在データ状態にある彼女たち二人は、HSや恒星間航行モジュールのシステム間を自由に行き来できる。正確には、その両方に遍く存在していると言うべきか。


 正博の質問にはセシルが応じた。


『ここにある設備とレイチェルの素体サンプルがあれば、元と同じ対話型インターフェイスを用意することは十分可能です。もう少し状況が落ち着き次第、その辺りの作業も順次進めていこうと考えています』


「そうか……」


 心の底から安堵したような表情を浮かべる光一に、葉月が優しげに声をかける。


「随分嬉しそうね、光一」


「まあな」


『そういうあんたこそ、当分あたしに会えなくて、案外寂しかったりするんじゃないの?』


 悪戯っぽく茶化してきたシーラに、葉月は暫し黙考し、真顔で次のように答えた。


「……別に、そうでもないかな」


『そんなこと言わないでよ!? あたし泣いちゃうよ!?』


「ごめんごめん、寂しい寂しい」


 適当にあしらいつつも、葉月はどこか楽しげだった。


 元と同じような生活に戻るにしろ、いっそのこと外宇宙で新天地を目指すにしろ、結論を急ぐ必要もなかったので、当面は現状維持の生活を続ける形で意見はまとまった。


 各々が悠々自適に手に入れた自由を満喫する中、一人不景気な顔をして座り込んでいる正博の隣にレイチェルは腰を下ろす。


「何か、気がかりなことでもあるんですか?」


「いや、大したことじゃないんだけど……振り返ってみると、僕は結局、何もできなかったな、って思ってさ」


「そんなことないですよ」


 肩を落とす正博とは対照的に、何時になく興奮した様子でレイチェルは力説する。


「正博さんに、大切だ、必要だって言ってもらえて……その度にわたしが、どんなに救われたと思ってるんですか?」


 正博の両手を取って、レイチェルは断言する。


「あなたがわたしのパートナーで、本当によかったです。それだけは絶対です」


「レイチェル……」


 確かに、自分は英雄にはなれなかったかもしれないけど。


 それでも、誰かの一番にはなれたのかな、と。


 少しだけ、自分に自信が持てるようになった気がする正博だった。

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