お姉ちゃんのお友達
学食にて。しずくは、空いていたテーブル席に座って、チーズパンと焼きそばパンを頬張りながらお姉ちゃんが来るのを待っていた。
さっきはすぐあの三人が居なくなっちゃったものだから慌てて探して、学食に辿り着いたのだ。
助けてくれたうちの女の子は見つけた。でも他のクラスの子と話していて、邪魔する訳にもいかないから、今しずくはひとり寂しく昼食をとっているというわけで…
しかも同じクラスの子もさっきの騒動でなぜか気まずくなっちゃって話しかけてこないし。
あーもう、お姉ちゃん早く来ないかなあ!
ふと前方を見ると、さっき助けてくれた男子二人が学食で食べ物を注文しているのが見えた。
今がチャンスだ!友達にー、
「この子が静紅ちゃん?めっちゃ可愛いじゃん!」
そんな声が急に頭上から聞こえて、ハッとして顔を上げた。
そこには、目がくりくりしてて可愛い顔立ちで下らへんで2つ結びにしてる女の子と、無駄に顔が良い男子二人、そしてお姉ちゃんが立っていた。
突然顔が良い集団に囲まれて硬直していると、お姉ちゃんが、
「静紅、紹介するね。私の友達!」
お姉ちゃんがドヤ顔でお姉ちゃんの「友達」を紹介し始めた。
ム、ムカつく…
「えっと、まずあたしが星宮 夏南!困ったことがあったらなんでも聞いてね!」
「よ、よろしくお願いしますっ、」
星宮さんの明るすぎる雰囲気に呑まれそうになりながら、しずくはなんとか挨拶をする。
「で、俺が軽井沢 颯斗。んで、この爽やか系イケメンが中鶴 諒。よろしく!」
「爽やかイケメンってなんだよ。あ、静紅ちゃん、夏南の言った通り分かんないことあったら聞いてな。」
なるほど、この星宮さんとは別の明るさを醸し出してるのが軽井沢さんで、この優しそうな人が中鶴さんね。
中鶴さんは良い感じのマッシュで、軽井沢さんはツーブロだ。
まぁお姉ちゃんの選ぶ友達だし、頼りになりそう。
「ほら、静紅も自己紹介しなよ」
お姉ちゃんに促されて、しずくは口を開く。
「えっと…しず、わたしは桐生静紅です。お姉ちゃんがお世話になってます」
これで合ってるんだっけ。
「えーめっちゃいい子じゃん静紅ちゃーん、仲良くしようね!」
星宮さんが頭を撫で回してくる。あ、あんまり髪触んないんでほしいなぁ…
「…時間無くなっちゃうし、早く食べよ!」
それを見かねたお姉ちゃんがお姉ちゃんの友達三人を連れて学食に注文をしに行った。
こういった気遣いができて、学校初日で友達をたくさん作れるコミュ力が高いのお姉ちゃんを、しずくはすごく尊敬している。
ぼーっとして四人の注文してるところを眺めていると、注文を終えて斜め前に座っていたしずくを助けてくれた男子二人が談笑しているのが目に入った。
向かい側に座っていた心読める意外と頼りになる系男子(進化した)と目が合った。
あ、と思って思わず小さく手を振ると、その心読める意外と頼りになる系男子(仮)は
少し驚いた顔をして視線を泳がせ、一緒に談笑していたしずくを助けてくれた赤髪の男子をちょっとつついて助けを求めてるように見えた。赤髪の男子はこっちに気づいて笑顔でこっちに手を振ってきた。
さっきはあんな怖い顔でしずくを脅迫していた男子を睨んでいたのに…そのギャップにに少しドキッとする。
な、なんて純粋な笑みだ…とても中二男子とは思えん。
心読める意外と頼りになる系男子(仮)も、赤髪の男子に促されて少し気まずそうにこちらに手を振り返してくれた。
…なんだ、この感情。似てるけど、恋とは、ちょっと違うような。
突如己から湧き出た感じたことのない感情に戸惑っていると、注文を終えたお姉ちゃんズが戻ってきてしずくが座っているテーブル席に座った。
「おまたせー。ん、静紅どうかした?」
「あ、いや…なんでもない」
「そ。じゃあ、みんな食べよー」
いただきまーす、とお姉ちゃん達が言って、既に半分食べ終えていたしずくもなんとなく合わせて言う。
「てか、氷華 家庭科の授業のとき裁縫めっちゃ上手かったよな。俺そういうの出来ないから尊敬するわ」
「へっ!?あ、ありがとう」
中鶴さんがお姉ちゃんのことを褒めた。やっぱり優しい。て、てか、知り合って初日で呼び捨て…だと!?
「そうそう、氷華めっちゃすごかったよね!」
「ま、誰かさんにも見習って欲しいけどな笑」
そう言って軽井沢さんが星宮さんのことを横目で見た。
「あ?なんだと?調子乗んなよ?」
「さーせーん」
そんな会話に中鶴さんとお姉ちゃんも笑っている。
この人達面白いな。
「あー、もう。あ、そういえば静紅ちゃんはお友達できた?」
星宮さんが訊いてきた。 友達…
「あー、でも初日だもんね。これからたくさん作れるから!そうそう、颯斗だってそうだったじゃん、あたしが話しかけてなかったら友達できてなかったでしょー。」
「はぁ?そんな訳ないだろ〜」
星宮さんが察してそう言ってくれた。
…てか、軽井沢さんって明るいから、お姉ちゃんと同類で初日から友達沢山作るタイプな感じがしてたけど…ちょっと意外。
その後少し話して、昼休み終わり5分前のチャイムが鳴った。
「じゃあ、そろそろ戻ろっか。じゃ、静紅、また後でね。」
「うん。また。」
お姉ちゃんが立ち上がって歩き始めた瞬間、お姉ちゃんがテーブル席の脚に躓いた。
よりによって浅く被ってしまっていたお姉ちゃんのベレー帽が揺れる。
ま、まずい、このままじゃ。
お姉ちゃんが間一髪でベレー帽を手で押え、中鶴さんの裾に掴まった。
「うお、大丈夫?」
「あっ、うん、ごめん!だ、大丈夫…」
良かった、何とか転ばずにすんだ。…てか、なんかお姉ちゃん顔赤くないか?
まぁ、気にしない(すごく気になる)。
お姉ちゃん達が去った後、しずくも立ち上がる。
さっきの男子二人は、既に居なくなっていた。
星宮さんに言われた「友達」というワードを頭の中で反芻する。
そう、友達。しずくの唯一無二の友達ができたら。
でも、しずくの中ではもう、目星はついている。
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ザシュッ。
聞きなれた音が響いた。もうこれで何回目だろう。
また失敗だ。この体で人を殺めたのは…六回目か?
俺はため息をついて、死体処理にかかる。
今回も望んだ超能力ではなかった。虹だなんて、一体なんの役に立つのやら。もっと調べておけば無駄な手間が省けたのに。
一通りの処理を終えて、前に仕入れた情報をまとめたメモをパラパラとめくり、良さそうなのを探す。
じゃあ、次は…
こいつだ。