六之六
とりあえず目標と定めた教室の扉に手をかけた。木造りの扉だ、横に押せば――。
「みゆきを蘇らせるには、莫大な呪いが必要だ……」
男性の声がした。小春の手が止まる。左右を見渡して、聞き続けていいものか、と一瞬考えた。しゃがんで扉に耳を近づけた。
「同じにならないと、みゆきは幸せになれない。だから――ばら撒こう」
くすくすと、笑う声がする。
「亡くした命を蘇らせる術を下界に授けて、呪いの器の近くに導こう」
コツ、と靴音がした。小春が一瞬固まって左を見る。
「君が命を吹き返した時、」
小春は差し足忍び足で靴音から距離を取る。廊下を進んでいく。
「僕たちはようやく――」
小春が腰を上げて、また小走りで奥へ向かう。その男性の声は、確かに校舎に響いた。
「――夫婦として、やり直せる」
小春は男性の声が気になったが、今はそれどころではなかった。とりあえず隠れる? そうするしかない。ガラリと扉を開けて閉める。すぐそばの窓の壁にしゃがみこんで、外の音を拾おうとしている。
……靴の音は、しない……な? よかった、ひとまず安心だ。
そう息をついて小春は顔を上げた。
――世界は、"あなた"を定める。
それは、一年生の春の季節でした。
学校に入れる事を誇る両親と、少し憂鬱そうなあなた。それは対極で、太陽と月の様で、わたしはその時の光景を今でもはっきりと思い出せます。
わたしはドキドキしたものです。あの奥原家のご令嬢ですもの。一度はお目にかかりたかった……――いいえ、もう一度、お会いしたかった。
覚えていましたか? 覚えていましたね。あの桜の木の下で、わたし達は手を取り合って幼き日の思い出を涙ながらに語り合ったものです。
わたしは少し心配していたのです。あなたは深窓の令嬢の如く、外に長らく出なかったでしょう? だからこそ、真白で、つややかな黒髪で……。嗚呼、今もそう、……。
「お嬢 さま 覚えて ますか? ふふふ……。『こんにちは、はじめまして。よかったら、お昼ご一緒してもいいですか』」
そう恥ずかしそうに聞いたわたしに、あなたは恥ずかしそうに俯いて頷いたんですよ。
嗚呼――そのまま聞いてください。
そこから、わたし達の運命は回り始めました。運命の女神の糸であろうとも、構わなかったのです。暗い日々に光指す一条を、わたし達はお互いに定めたのですから……。
『こんにちは、……はじめまして。奥原様ですよね。あの、よかったら……お昼ご一緒にいかがでしょう?』
「え? あの……私……」
『まあ、よろしいんですね? 嬉しい……今日から、お友達として……よろしくお願いします』
――小春の目の前に跪いて語り聞かせていた怪異は、霧のように姿を溶かした。小春は我に返ると慌てて立ち上がる。辺りを見ると、そこは教室だ。二つだけ隣り合った席の椅子が引かれていて、後は気味の悪いくらい綺麗に並べられている。
小春は椅子が引かれている机に近づこうとして、近づかなかった。……何故だか、行ってはいけないと強く警告する何かが脳裏に存在している。
そこを遠ざけて、外へと繋がるはずの窓ガラスを開けようとした。
「開かない、よね……まあ……」
はあ、とため息を吐く。
「友達……か」
そう呟いて、軽すぎる声はガラス玉を転がす無機質さでこの空間に溶けた。脳裏に描こうとも――友人と呼べるような人は、いない。
それでも、何も寂しくないのが自分のダメなところなのだろう。……ただ、それでも。
骨董屋の彼らと離れていることは……小春の胸を、酷く苦しめていた。
「もし……ここから出られなかったら……」
ぞっとした。寒気がする。何に由来する震えだろう。寒くもないのに。
そうして腰を下ろして、体を抱いて、小春は膝に額を付けた。
何も感じられなかった心が、初めて、恐怖に悲鳴をあげている。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
すみません、zetaくんにはまり倒して小説書くのさぼってました白目
いやだああああああああ!! 私は、文字書きなんだ!!!!!!!!!!!!!




