表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/44

五之十

「……おはよう、照夜」


「……おはよう。ふふふ、あなたにこんな顔をさせたのが……あたし、なんて……愉快ね」


 照夜の肩を抱いて、輝夜は笑顔を作れずにいた。

 そんな彼の頬に手を当てて、彼女は微笑んでいた。


「あたし、今度こそ地獄に落ちるのかな?」


「……なんでそんなこと言うの?」


「そうしたら、やっとあなたと一緒になれるかな、って思って……。嬉しいなって、思うの。ああ、でも、燈夜は神使さまになったのよね? えらいね、すごいね……ほら、もっとそばに来て……」


「母上……。ははうえ……っ」


 母に頬を撫でられて、燈夜は涙を流し続ける。


「ごめん、――ごめんなさい。照夜が今生にまで思いを引きずってしまうほどに、魂に深く傷をつけてしまった……。許されない、それこそ三百年懺悔しても許されない罪だ。本当に、すまなかった……」


「謝る必要なんかない、って素直に言えたらどんなに素敵なのかしら。ごめんなさい、言えないわ。とてもとても辛かった。妖に変じる炎の煙で炙られるより、あなた達と引き裂かれる肉の痛みの方が、あたしには何倍も耐え難い痛みだったわ」


「……うん」


「でも、輝夜は……あたしと別れたくて、あんなことをしたんじゃないのよね」


「当たり前だ! 俺だって、俺だって……許されるなら、家族三人で、ずっと、ずっと……誰にも邪魔されない水底で……ずっと――――。でも、それよりも、照夜が、夜の月明りすら届かない水底で、貴女が貴女の形を失って溺れもがくのを……見ていられなかった……。刻一刻と変わり行く姿が、老いならどんなに愛おしかっただろうか。でもそれは、神の罰と呼ぶにふさわしい変化の業火……。人が妖に成る、許されざる行い……何の罪もない照夜が、それを受けるなんて、嫌だった……!!」


「ほんと、バカなんだから。ね、燈夜もそう思うよね? 父上、なんて馬鹿なんだろうって!」


「……はい、母上」


 輝夜はあんぐり口を開けている。


「女は痛みに強い生き物だわ。それはね、燈夜を産むためのものよ。それと、愛する者と結ばれるためのもの。だから、あたしは何者に許されなくても構わなかった」


「でも」


「そう、でも。輝夜は、耐えられなかったのね」


「……ええ、そうです」


「その弱さを、燈夜の分もわかってほしかったわ」


「――え?」


「別に、燈夜の痛みを盾にして輝夜を責めてるんじゃない。あなたが燈夜に持たせていたあなたの痛み、肩代わりさせてしまったあなたの痛み、……この子が、こんな大人びてしまうほどに重かったって、……わからなかったのね。そうね、それについては、あたしも同罪だわ……」


「母さん。ボクは、もう父さんを責めないよ」


「そう? いいのよ、母上の前では燈夜でいなさいな。この愚かなあたし達を罵ったって……」


「いいえ、母上。ボクはもう――一人前の神の使いです。これまでの苦しみは……確かにありました。でもそれが、ボクをここまで持ち上げてくれたのです」


「そう――。では、神使どの。わたくしは、神の意に背いたわたくしは、今度こそ家族と――……」


 すでに時は近い。段々と意識を失い行くさまが見てとれる。


「母さん。どうか、どうか……今生は――穏やかに過ごされますよう」


 それを最後に、息子は一歩下がって手を付き、頭を下げた。

 ぐらりと傾いた妻を支える輝夜に、彼女は囁いている。


「聞こえてた……あの、前の鐘が……今生の聞き納めね……? ねえ、輝夜……輝夜……」


「うん、何……なに……?」


「ねえ、次に会えたら……今度こそ一緒に……死んでくれる? 覚悟があるなら、もう一度……口付けて誓って……! あたしと冬を越えるなら、もう一度誓って……薄れる前に……雪が……雪が……」


「照夜……。誓うよ、今度こそ――あなたと共に、生きて……」


 目が閉じられて行く。輝夜は一度その唇に触れるだけのキスを落として、


「共に死のう……」


 頬に落ちる雪は、確かな温度で溶けていった。

 4時の鐘がなる。有り得ざる縁の糸を切ろう。間違いなく悪縁なのだから、縁切りは良縁への足掛かりだ。

 魂の結びつきを切るのは、陰陽師の領分ではない。その運命はあずかり知らぬ所だ。

 ただ今は、正しい場所へ人を運ぶだけ。


「共に死ぬ……」


 その言葉を小さくなぞったのは、小春だ。

 ばたばたと三善が部屋の中で指示を飛ばす中、泣き崩れる輝夜を琥珀が部屋の外へ連れ去る中、嵐の中の静けさでその言葉を落とす。

 外は変わらずの吹雪日和。厳しい寒さに何の灯りを灯すのだろう。

 ああ、でもなんだか――――。

 色が、ついているような――――。

 葵さん、と見上げると彼が静かに小春を抱きしめようと、体を寄せた。

 その理由を小春は考えることさえしない。いいや、できない。出来ないのだ……。









 それは陽の落ちる前、黄昏時。

 一人の女は、海辺のカフェでうたた寝を打つ。


「お客様。ご注文のカフェオレでございます」


 眠る女に気を使うウェイトレスの声で、その女は緩やかに目を開けた。


「こちらに伝票――ああ、そうでした」


 女は目を二、三度瞬きをして、ウェイトレスの顔を見た。


「お連れ様がお支払いでしたね。それでは、ごゆっくり」


 女はふわふわ心地のまま、何の疑問も持てずホットカフェオレをずずず、と飲んだ。

 目の前には誰もいないのに。嗚呼、でも……夕暮れの太陽が、あったかいなあ。

 これを飲んだらはやく家へ帰りたい。

 なんだか酷く……眠りたい気分だから。



サイレントヒルfが面白すぎてぇ……ずっとやってましたスミマセーーーン!!!!

竜騎士07の物語に初めて触れたのは小学4……か5……の時でした。あれからひぐらし→うみねこを経て、まさか静岡でまた狂うとは……!!

ハッピーすぎる、人生!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ