表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/598

ブレーキとストッパー

 私は2つのものをそれぞれ七海ちゃんと陽菜ちゃんに渡した。

 陽菜ちゃんのはゴムハンマーを2本、七海ちゃんにはボルトを2本だ。


 「なんですか、これ?」


 陽菜ちゃんの問いかけに


 「それでローターに対して対角線上にショックを与えていってみて。くれぐれも言っておくけど、ショックを与えるのであって、叩くんじゃないよ」


 と指示を出した。

 陽菜ちゃんは頷くと、そっちの班の娘達と動き出した。


 「私の班はどうするんっスか?」


 七海ちゃんが訊いてきた。


 「今渡したボルトを、ホイールを留めているハブボルトのある辺りに2ヶ所空いてる穴に挿しこんで、同じ感覚で締め込んでいって。片方だけ先に思い切り締めちゃダメだよ!」


 と指示すると


 「任せるっス!」


 と言って、持ち場に戻っていった。

 私は、七海ちゃん達の方の作業に参加して、若菜ちゃんと息を合わせて少しずつレンチを締めていった。

 少しずつ、ボルトが入っていった時


 “パンッッッッ!”


 という音と共にローターが跳ねるように浮き上がってきた。


 「よしっっ!!」


 私が言うと、みんなの表情が一斉に明るくなった。

 私は七海ちゃん達に次の作業指示をすると、陽菜ちゃんの方へと合流した。

 陽菜ちゃんと塔子ちゃんがブレーキローターの表面をトントントントンと叩いていたけど、ビクともしない様子だった。


 「そうじゃなくて、ショックを与えるんだからガツンと一発喰らわせていけば良いんだよ」


 と私が言うと、塔子ちゃんと陽菜ちゃんが顔を見合わせてから頷き、ちょっと振りかぶると、一斉にドンと同時に叩いた。

 するとやはりこちらも


 “パンッッッッ!”


 という音と共にローターが浮いてきた。

 喜ぶみんなと一緒にローターを手で引っ張ると、すんなりと抜けてきた。

 

 「じゃぁ、陽菜ちゃんはこの要領で前輪をやって。塔子ちゃんは私と一緒にこっち」

 「ハイ」


 私は言うと、ポケットから紙やすりを2枚取り出して塔子ちゃんに1枚渡した。

 ローターを外して残ったのは、ホイールを留めているハブと呼ばれる部品だ。

 このハブにローターがかぶさるように乗ってるんだけど、足回りの部品で且つ経年でサビが浮いている。

 このサビでブレーキローターが固着していたし、新しいローターもサビのせいでピッタリつかない可能性もあるので、今のうちに紙やすりでサビを削り落としておくんだ。


 私は塔子ちゃんに説明すると、2人で紙やすりで磨いていった。

 やっぱり30年乗った車の足回りの部品だけあって、びっちり赤錆で覆われていたけど、2人がかりで力を入れてゴシゴシと磨いていったらガタガタだったハブは綺麗になった。

 そして、今度は残ったハブと、ブレーキローターの後ろを覆うバックプレートをパーツクリーナーで綺麗に洗浄した。


 「今回の作業はパーツクリーナーを凄く使うけど、残り量に気を付けながらだけど、ケチケチしないでいっぱい使ってね」


 私はパーツクリーナーを吹きかけながら言うと、塔子ちゃんは驚いたような表情で言った。


 「でも、1ケースありますよね」

 「えっ!?」


 私が驚いて聞き返すと


 「先輩たちが来る前に、先生が置いていきましたよ『今回の作業に使うから』って言って」


 と言った。

 ……まただ。私達の作業に先回りしてくれるのは有り難いんだけど、だからって言って私達に何も言わずに置いていくのってどうなの? 


 それを見ていた後ろから見ていた舞華ちゃんが


 「だから水野は困るんだよね……こうやって黙って用意されても。こっちの準備の妨げになるんだよねぇ……」


 と声をかけてきた。

 私は驚いていたが舞華ちゃんは実感がこもったようだった。

 彼女は、きっとこういう経験をそれなりにしてきたんだろうね。


 「ところで、こっちも大掃除したんだね。それにしても、ここはこんなに広かったんだねぇ」


 舞華ちゃんは嬉々としながら言った。

 最初の頃はもっと酷かったので1度片付けをしたそうだが、その頃、部員は3年生しかおらず、その上で結衣ちゃんが教習所に通っていて部に出られずに人数が足らないので、取り敢えず……というところまでで頓挫していたそうだ。


 「半地下のスペースもあんなにあるんだね。全然知らなかったよ」


 舞華ちゃんが驚いていたので昨日の事について話すと、凄く驚いていた。


 「へぇー、タイヤチェンジャーやエンジンクレーンまであったんだぁ! これで結構な作業にまで対応できるじゃん!」


 舞華ちゃんが目を爛々とさせながら、昨日見つけた機械の方へと行って、触っていると、柚月ちゃんがそちらへと行って


 「マイ~。燈梨ちゃん達の邪魔しないの~、ウチらはゴミ捨てでしょ~!」


 と言うと、舞華ちゃんはハタと思い出したように私の方を向いて言った。


 「そうそう燈梨。ゴミ捨てに行くんだけど、あのえっちな本2袋もここのゴミだったの?」

 「……うん」


 私は思い出して恥ずかしくなりながら答えた。

 舞華ちゃんは私の肩をポンと叩きながらニコッとして言った。


 「別に燈梨が恥ずかしがることないよ。持ち込んだのはバスの運転手の人達なんだろうね。学校でこんなえっちな本読んで嫌らしいなぁ」

 「この本さ~、結構どぎついよ~」


 柚月ちゃんが本を開いて見せながら言った。


 「柚月、ゴミをムーヴに積んで捨てに行くよ。で、その本は柚月の車に積むから」

 「なんで~私の車なんだよ~!」

 「こんな物、学校の集積所に捨てられないだろ! どうせ柚月はヨゴレなんだから、家に持って帰って穴が開くまで読んでろ!」

 「私は~ヨゴレじゃないやい~!」


 舞華ちゃんと柚月ちゃんは、言い合いながらムーヴにゴミを積んで集積所へと出発していった。


 私は作業に戻った。

 

 「燈梨先輩。ローターって、ただ嵌まってるだけなんですか?」

 「そうだよ、回転してるし、パッドに押し付けられているしね」


 塔子ちゃんの質問に私は答えた。


 「なんか、新品のローターは凄くヌルッとしてますね」


 箱から出して、保護フィルムを取った新品のローターは、凄くピカピカで、その表面には保護剤が塗られていた。


 「今から、そのサビ止め兼の油分をパーツクリーナーで綺麗に落とすよ」

 「ええっ!? そうしたらサビません?」


 私の指示に塔子ちゃんが驚いて返答したので、私はニコッとして


 「取り付けた後は、表面がサビてもブレーキ踏めば、パッドに押し付けられて飛んじゃうよ。それに、ブレーキが油まみれだったら滑って効かないでしょ」


 と言うと、塔子ちゃんは


 「なるほど、確かにそうですね!」


 と閃いたような表情で言った。


 「ええー-! そうだったんっスか?」


 反対側から七海ちゃんの声がしたので、塔子ちゃんに任せて私はそっちの方へと行った。

 すると、七海ちゃんが油まみれのローターを既に車に取り付けた状態で途方に暮れかかっていた。


 それを見たマスターシリンダー班にいた沙綾ちゃんが、エンジンルームの方から七海ちゃんのそばまで行った。


 「このっバカナミ! 作業する前に少しは調べてから臨みなさいよっ! こんなヌルヌルのブレーキ、効くわけないでしょっ」

 「沙綾っちは、いちいちガミガミうるさいんだよぉ」


 七海ちゃんが沙綾ちゃんに言われて、ついカっとなって言い返しちゃったんだけど、私思うに、これって言っちゃいけないやつだと思うんだよね。

 案の定、沙綾ちゃんは更に七海ちゃんに喚き出して、お説教が止まらなくなっちゃったよ。七海ちゃんはバツが悪そうな表情で聞いてるしかなくなってるし、どうにも止まらなくなっちゃったみたいだよ。


 どうしようかと思って私がオロオロしていると、陽菜ちゃんが


 「1年生、作業再開して。ブレーキだからしっかりやるんだよ!」


 と言うのと同時に七菜葉ちゃんが


 「分かったから! 2人ともちょっと向こうに行こうかぁ」


 と行って2人を押し出すように塗装ブースへと入っていった。

 私は呆気に取られて見ていると、陽菜ちゃんが


 「あの2人はたまにこういう事があるんで、ナナっちに任せておけば大丈夫ですから」


 と、私の肩を叩いて言ってくれた。

 私は、部活動にはこういう人と人とのストッパーも必要なんだという事を思い知ってしまった。そして、その潤滑も含めた事が運営で、技術だけでは部活動はできない事を改めて実感して面白さを感じてしまった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ