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教育的指導

 1年生はプラグをプラグホールに入れると1年生が即、プラグレンチで締め込もうとしたところ、私と七海ちゃんは顔を見合わせた。そして、七海ちゃんが言った。


 「待ー-ったぁー-! いきなりレンチで締め込んじゃダメー-!」

 「えっ!? どうしてですか?」


 希愛ちゃんがたずねると


 「曲がった状態で締め込んでネジ山を壊すと、エンジンブロック交換になっちゃうんだよ。だからまずは手で真っ直ぐ締め込んでからレンチで締めるんだよ」


 沙綾ちゃんが答えた。

 プラグをレンチで締め込んで、イグニッションコイルを基台に固定した。

 強化品らしく明らかに色が違って鮮やかな青色なんだけど、大丈夫なのかな?

 そう思って見ていると


 「日産のダイレクトイグニッション車の定番なんですよね。あそこって」


 という声が聞こえたので、その方を見ると沙綾ちゃんがいた。


 「そうなの?」

 「部車のタイプMにも入ってるし、マイ先輩とズッキー先輩も使ってるって言ってましたよ」


 私の反応に沙綾ちゃんが答えた。

 どうやら、かなり定番の社外品らしい。


 「シルビアのSRエンジンにも定番なんですよ」


 という声がして、そちらを見ると陽菜ちゃんがいた。

 そうか、これを選ぶのに対しても陽菜ちゃんの意見が活かされたんだもんね。思い入れがあるんだよね。


 「寿命が短いって言われてますけど、父さんもずっと使ってますよ」 


 なるほど、陽菜ちゃんはお父さんが使っているからこのイグニッションコイルの事もよく知ってるんだね。

 

 コイルを交換すると、それを繋いでいるハーネスを交換した。

 こうして改めて見てみると、エンジンルームって凄くギリギリのスペースで設計されていて、その配線や部品類って、よく考えて配置されてるんだって思うよ。

 オイルフィルター交換の道筋といい、狭いスペースを有効に使おうっていう工夫が感じられるよね。

 まぁ、このRBエンジンの場合はインテークパイプの配管のレイアウトなんかは、もう少し整備する事を考えてレイアウトしてくれても良いのにな……と思うけどね。


 そんな事を考えていると


 「燈梨先輩、この配線なんでしょう?」


 と、美桜ちゃんが訊いてきた。そこにはハーネスから出ている丸形の端子があった。


 「あれ? これって、アース端子だけど、外した方にもついてるはずだから、それがついていたネジに挟み込むんだよ」


 私が言うと


 「でも、ないんです」


 美桜ちゃんは、外したハーネスを掲げて見せた。

 ボロボロのハーネスから出ていた線の束の中に、枝毛のように切れた細い線が出ていた。

 私はそれを手に取ってみると、引きちぎれたようになっていた痕跡があったので、ハーネスを元通り宛がってみた。

 すると、その付近に切れた細い線を止めたアース端子が残されていた。


 それを見た美桜ちゃんは


 「あ……」


 と言って固まってしまった。

 私は、それを見て言葉を続けようとしたが、言っていいものかで迷って止まっていると、その様子を見た沙綾ちゃんが


 「パーツを外す時は、力だけじゃなくて注意力も必要だからね!」


 と言って、美桜ちゃんが


 「すみません」


 と言って作業に戻っていった。

 それを見てオロオロしてしまった私に沙綾ちゃんが


 「ここでは、思ったこと遠慮しないで言ってくださいよ」

 

 と言って背中をつついた。

 すると、美桜ちゃんと若菜ちゃんが言った。


 「そうですよ、私たち、車の整備は何も分からないので、教えて貰えないともっと失敗しちゃいますよ」

 「私たち、先輩に言われてヘコんだりしませんよ!」


 私は、それを聞いて嬉しくなった。

 私の今までの人生は、いかに当たり障りのない事を言って人に不快の思われないようにして空気に徹する事ばかりを考えていて、こういう際にどう動いていいのかに自信がなかったのだ。


 七海ちゃんと沙綾ちゃんは、私の()()()()()の苦悩を理解しているかのように豊かな笑みで私を包みこむと


 「大丈夫っス! コイツらは打たれ強いっス」

 「安心してください! 今までは運動部でもっと酷い事、言われてますから」

 

 と言ってくれた。


 取り付けられたイグニッションコイルとハーネスは、新品になったおかげで、そこだけがとても艶々になったので


 「なんか、目立っちゃったね」


 と私が言うと


 「じゃぁ、洗って良いですか?」


 と若菜ちゃんが言って、沙綾ちゃんも


 「折角だから、やっちゃいましょうよ」


 と言うので、私は頷くと、みんなが一斉にパーツクリーナーと共に換気扇用の洗剤を持ってエンジンの洗浄に取り掛かった。

 パーツクリーナーがこの手の汚れを落としてくれるのは知っていたけど、換気扇用洗剤の洗浄力もとても強くてエンジン周りが綺麗になっていくさまは見ていてとても意外であり、そして気持ちが良かった。


 遂にきれいになったエンジンを前に清々しい気分になった私たちは、組み立て作業へと入っていった。

 社外品になって鮮やかな青になったイグニッションコイルと、新品で艶々のハーネスをカバーで覆わなければならないのはとても残念な事だけど、無しと言う訳にもいかないので、残念ながら取り付けて元通りにした。


 エンジン周りの交換作業をすべて終えたところで、チェック作業に入った。

 まずは、エンジンをかけるところから始めて……と。


 “キュルルル……ヴオオオオオオー-”


 以前に比べると、セルモーターの音も軽く、爆発が起こるまでのタイミングも早くなった気がするよ。

 音を聴く限り、不整脈が起こったり、1気筒死んでボクサーサウンドになっていたりしないから、点火系の不調は起こってないみたいだね。


 同時にベルトに関しても変な鳴きが起こっていない事が私の耳でも分かったのと、エンジンルームを見ていたみんなからの合図でも分かった。

 すると


 「ハンドルを右にいっぱい切ってください」


 と七海ちゃんから言われて、私は分からないまま言われた通りに切ったところ


 「どうっスか? 異様に重くなったりしてないっスか?」


 と言われてみて、初めてパワステの動作によってベルトの変動を見ていた事に気がついた。


 「そんな事ないよ、むしろ少し軽くなった感じがするよ」


 と言った。

 そして、5分ほどエンジンを回した後でエンジンを切り、しばらく待った後でエンジン脇にあるオイルレベルゲージを抜いて一度拭き取り、再度さしてから抜き取ってレベルを見た。

 ここでLとHの間にあれば、オイルの量は適正量なんだよね……よし、適切量入ってるね。


 「これで今日の基本整備は終了だね」


 私が言うと

 

 「やったー!」


 1年生が飛び上がって喜んだ。

 やっぱり、みんな車に触りたいんだね。

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