知恵の輪と田植え
あれから数日が過ぎた。
今日は早速届いたセフィーロの部品を使って修理を行っていく事にした。
本来は、全部揃ってから始めるのが良いんだけど、ネットで最安値のものを探すとバラバラな業者に行きついてしまうために、まだブレーキの一部の部品が到着していないため、今日は点火系とベルトの交換、オイルとフィルター交換をする事にした。
「それじゃぁ、オイル交換班と点火系班、そしてベルト班の3班に分けて作業に取り掛かるよ」
「ハイッ!」
早速作業開始となった。
オイル交換とプラグ系の交換は場所が近くてバッティングするため、最初は点火班とベルト班は合同でベルト作業に入って貰った。
既にエンジンは作業前に温めておいたので、オイル班の娘達が半地下のスペースに入って床下のドレーンボルトを外してオイルを抜いていった。
同時に地上班の娘達がエンジンの右脇にあるオイルフィルターを探して、フィルターレンチを使って外し始めた。
そして案の定、抜いたフィルターが取り出せずにまごついているので、私が
「フィルターを抜いたら、取り出すルートは1つしかないから、よーく考えてみて」
と言うと、フィルターを手にした若菜ちゃんが、周囲の構造をよく見た上で手をあちこちくぐらせながら、フィルターを取り出した。
「なんか、知恵の輪みたいですね」
と言ったが、その通りだと思った。
私も自分のシルビアで経験があるけど、客観的に見るとよく考えられてるなぁ……って思うんだよね。
これだけ複雑な配管や配線を上手くレイアウトさせて、フィルターを取り出すためだけの道を作るくらいなら、最初から潜って下から取るような構造にした方が、設計する側とすればどれだけ楽だろうって思うんだよ。
地下班の娘達がドレンプラグを外してオイルを抜き取った後で、ワッシャーを交換してそのまま取り付けようとしているため
「付ける前に洗浄してからにしようね」
と言ってパーツクリーナーを渡してあげた。
ブレーキクリーナーと呼ばれている場合もあるが、ボルトの場合はこれでネジ部についた砂などを除去してあげる事で砂の噛み込みを防ぐ事ができるんだよ。
塔子ちゃんが更にオイルパンについているドレンの受け側も綺麗にしていたのを見て
「そうそう、良いよ!」
と思わず言っていた。
オイルが抜けて、ドレンを元通り取り付けたのを確認すると、若菜ちゃんのフィルター交換に合流した。
「若菜、フィルターのパッキンに微量のオイルを塗り込むんだよ」
「その理由は何ですか?」
七海ちゃんのアドバイスに若菜ちゃんは理由を聞いていたが、七海ちゃんは答えられなかったので
「気密性を高めるためだよ」
と思わず言っていた。
若菜ちゃんはニコッとして
「部長、ありがとうございます!」
と言った。
私は、初めて呼ばれたその呼称に凄く違和感を感じて
「部長は……いいよぉ、普段通りの呼び方でさぁ……」
と言うと
「まぁ、好きで良いんじゃない? だって、3年生だって『マイ先輩、ズッキー先輩』だったし」
と沙綾ちゃんが言ってくれたので、若菜ちゃんは
「分かりました。燈梨先輩」
と言った。
そして、若菜ちゃんがフィルターをフィルターレンチにセットして取り付けようとしたので、私は思わず言った。
「待った! 取り付ける時は手で締めるんだよ」
「なんでですか?」
「締めすぎは基部を破損させる危険性があるんだよ。手で締めて、回りが止まったかな? と思ってから半回転くらい締めれば充分なんだよ」
と説明すると
「燈梨先輩の説明を聞くと、凄くお腹に落ちます」
と若菜ちゃんはニッコリして言った。
私は、それを聞いて凄く嬉しくなった。
オイルを説明書に書かれていた量、ジョッキに入れ、エンジン上部のドレンから注入した。
本来はこの後でエンジンをかけてオイルを回した後、量の確認をして終了なんだけど、今ベルトを外していてエンジンがかからないので、全作業が完了した後で、エンジンをかけて量の確認をする事にした。
次にベルト班へと合流した。
エンジンの前にあるベルトは3本で、オルタネータ、エアコン、パワステだ。
この間、エンジンをかけた際に盛大に鳴いていたので、もう寿命だったのだ。
「でも、寿命を迎えたベルトだけ交換すれば良くないですか?」
七菜葉ちゃんが言ったので
「一番手前のベルトだけが劣化してるなら、それでも良いけど、それ以外だったら二度手間にならない? それに、交換時期がバラバラになると作業も面倒だし、管理もし辛くなっちゃうよ」
と言うと、七菜葉ちゃんは頷いて
「あぁ、そういう事ですね。分かりました!」
と納得してくれた。
ベルトの交換は、それぞれの張り調節ボルトでベルトを緩めてからベルトを外し、逆の手順でつけていくんだけど、調節ボルトに手が届き辛い事もあって、張りボルトの調整は下からやった方が効率的だった。
この張りの調節は結構塩梅が大切なところで、緩みすぎは論外だけど、張りすぎも逆効果になるので、まずは上からベルトを手で押してみてもたわんだりしない程度までしっかり張った状態にした。
特にこのメンバーだと格闘系や運動系の娘が多くて、普通の人の張ってる感覚よりも強い傾向があると思うので、そこを勘案しながら、『心持ち加減してあげる感じで』って言ったところ、みんな分かってくれたみたいだ。
新しくなったベルトは、確かに真っ黒な色は同じだけど、やっぱり新品らしい艶と輝きがあって見た目に美しさと達成感を強く感じさせてくれた。
「新品だと、ベルトも艶々ですよね!」
と陽菜ちゃんが興奮気味に言った。
そうか、陽菜ちゃんはベルト張りに関してリーダーとして仕切ってたもんね。凄く思い入れがあるんだよね。
「ベルトも、新品になると何か書いてあるんですね!」
七菜葉ちゃんが言った。
そうなのだ。新しくつけたベルトには、メーカー名や品番と思われる文字が白や緑色の文字で『これでもかっ』というほど印刷されているのだ。
今までのやつは、何故書いていないのだろうと思ってよく見てみると、日に透かしていって、かすかに見えるほどのところに印刷の痕跡があった。
なるほど、使っているうちに熱や乾燥によって剥がれたり消えていってしまうようだ。
もしかしたら、これが一つのバロメーターになっているのかもしれないと思い、自分の車を含めた周囲の車を見てみようと思った。
これで、ベルト張りまで終了したので、遂に点火系作業に入れるね。
まずは、真っ黒や真っ白になっていたプラグなんだけど、泡タイプのパーツ洗浄剤に漬けてある程度、汚れを落とした後でウエスで拭き取って、更に洗浄剤にお昼から漬け込んでおいたんだ
これを綺麗に拭き取っていって綺麗にした後で、一番重要な先端の部分はデリケートな部分なので、綺麗で柔らかいウエスを挿しこんで優しく拭き取る感じで磨いてみたんだ。
そして、洗浄の済んだプラグをプラグホールへと入れていくよ。
プラグやコイルの抜けたプラグホールには、ゴミが入らないように、昨日ガムテープを貼って塞いでおいたから、まずはそれを剥がして……。
「ちょっと待ってください!」
どうしたの? 真由ちゃん……って、振り向くとプラグを持った状態で待ち構える6人の1年生がいたよ。
「準備完了です! いくよっ!」
「押忍っ!!」
私は、その掛け声に圧倒されてしまったが、ガムテープを剥がした。
すると、次の瞬間、6人が一斉にプラグを穴に挿しこんだ。
なんか、その姿は田植えの光景にも似ていて、思わず吹き出してしまった。




