提出期限
「まずは、書類と申請について調べないといけないっスね!」
「そうですよ!」
私の話の後、七海ちゃんと陽菜ちゃんが妙にやる気全開で言ってきた。
七海ちゃんは、こういう逆境に強そうなメンタルしてるし、陽菜ちゃんはお父さんがセフィーロに乗ってたから思い入れが強いんだね。
「とは言え、今日の段階ではどうにもならないっていうのも事実だから、明日以降もみんなで情報収集に努めようよ。みんなも、明日までに分かる範囲で調べてね」
私はそう言うと、今日の部活を終了して、みんなと一緒に駐車場まで歩いた。
「いつまでに登録しなくちゃいけないんっスか?」
「一応年度内とは言われてるけど、春になっちゃうと折角の4WDも意味が半減するしね……」
七海ちゃんの質問に私が答えた。
教師水野からは学校側から冬場は4WDがあった方が望ましいという事で前から言われていての今回の部車追加の話だったらしい。
なので、冬場に使えないと学校に対する心証が悪くなってしまうのだ。
七海ちゃん達にもそこら辺の意図を含めて説明すると
「そうなんですね……それじゃぁ、明日から少し急いだほうがいいっスね」
とみんなで顔を見合わせながら言った。
駐車場に到着すると、いつもは駐輪場まで帰って行くみんなが何故か残っていた。
生徒の駐車場に入っている車は放課後なのでまばらだったが、その一部に陣取っている女子の集団は異質に映るようで、特に男子生徒から視線が突き刺さっているように感じた。
「燈梨さんは、冬場もこの車で通学するんですよね」
「うん。他に車なんて無いし」
沙綾ちゃんからの問いかけに私は答えた。
「でも、マイ先輩たちもFRで通学してるし、なんかみんなが過剰反応しすぎだと思うんっスよ」
「そうですよ、この辺でだってFRに乗ってる家だってまだまだありますから」
七海ちゃんと陽菜ちゃんが、何故か妙に気が合ったかのように同意見で私を援護した。
まぁ、七海ちゃんはFRに乗りたいみたいだし、陽菜ちゃんはお父さんがドリフト好きのFR乗りみたいだから自然とそういう意見になるのは分かりそうだけどね。
そこで、私は気になっていた事を口にした。
「みんなはどんな車に乗りたいの?」
すると、その場にいた娘達から聞かれたのは、大半がFR車に乗ってみたいというものだった。
スカイラインやロードスター、シルビア、180SX、チェイサーなんて名前の他にAE86なんて懐かしい車の名前まで聞かれたのは意外だった。
唯一、1年生の塔子ちゃんだけはMR2の名前を挙げてみんなを“ええっ!?”って言わせたけど、やっぱり色々なゲームや漫画の影響で、後輪駆動が好きみたいだ。
「私達みんなバイクに乗ってるので、後輪駆動に馴染んでるんですよ」
1年生の美桜ちゃんが言った。
そうだ。この学校はバイク通学を奨励していて、みんな1年生の頃からバイクに乗っているので、周囲の人たちがこの地方に持っているイメージみたいなのとは無縁で、後輪駆動に免疫があるんだ。
「県庁の方の学校通ってる人達だと、バイク乗らないから4WDじゃないと……って思い込んでますよね」
希愛ちゃんが言った。
県庁の方の学校に通っている同い年の親戚の娘がいて、そういう事を言ってたらしい。
「だから、やっぱり4WDよりもFRなんっスよ」
七海ちゃんが、みんなの話を総括するように言って、みんなも頷いていたが
「でも、まずはそれぞれの違いを体感してみるっていうのも大切な事だよ。でないと違いも分からないからさ」
私は言った。
すると、沙綾ちゃんが
「そう言えば、この部って逆にFF車がほとんど無いですよね。珍しくないですか?」
と言った。
確かに、現在の車の駆動方式の構成割合と、ウチの部の部車のそれはかけ離れているように思う。
ノートとエッセはFFだけど、競技車両だから普段は使わないし、プレミオとムーヴに関してはグラウンド整備車なので練習には使っていないのだ。
あとはR32スカイラインが3台にR34が1台、チェイサー、アルテッツァ、シルビア……とFRだらけなのは確かだ。
「沙綾っち、それって水野の趣味じゃね?」
七海ちゃんが言ってみんなが納得した。
確かに教師水野は、スカイラインとカプチーノというFR車ばかりに乗っている、正直言ってこの辺では変わった趣味の持ち主だ。
舞華ちゃん曰く変態教師だというのだけど、とにかく、今の部車は全て彼女が手配して導入されているそうなので、多分に彼女の趣味が反映されているのは間違いない。
きっと今回のセフィーロだって、スカイラインと同じエンジンで尚且つ基本的にFRで走るという点を重視して導入したのではないかと勘繰れるのだ。
「とにかく、折角3年生が作ってくれた車なんだから、ガッカリさせないように登録、頑張ろうね!」
私はカラ元気にも思えるほどのテンションで言うと、みんなが頷いて
「ハイ!!」
と大きい声で言った。
その姿を、やはり周囲の生徒が遠巻きに見ているのを感じて、やっぱりこの部は『格闘技連盟の派生』ってイメージに見られちゃうんだなぁ……と思ってちょっと悲しくなりながら見ていると、沙綾ちゃんも同じような表情になっているのに気付いた。
部屋に戻って夕飯を食べ、今日の授業の復習と明日の予習を終えると、パソコンを取り出してセフィーロの登録について調べた。
今までの私はスマホで検索して調べるのが習慣になっていたのだが、こっちで1人暮らしを始めるのにあたって沙織さんからノートパソコンを貰ったのだ。
沙織さん曰く、どちらでも対応できるように慣らしておくことは大切なのだそうで、最近、私もようやくその意味が分かってきたところだ。
検索結果で色々なページに飛んで行ってみるのだけど、大体がスカイラインGT-RのRB26DETTエンジンを積んで、セットで公認を取るような事をしているショップ関連のブログなどに行き当たるだけだった。
RB20DETのまま、アテーサクルージングのMT化で公認取得しているページへは全く行き当らなかった。
「困ったなぁ……」
私は言い出しっぺで部長という重圧を今更ながらに感じて、床に寝転がると天井を眺めながらつぶやいた。
そして、壁にかけられた時計を見ると、既に日付が変わる寸前だという事に気がつき、慌ててお風呂の用意を始めた。
初めての1人暮らしで学校に通うという生活のメリットとデメリットを両方感じさせられてしまった。
翌日、朝のホームルーム前に七海ちゃんと沙綾ちゃんに訊くと、やっぱり見つからなかったとのことだった。
七海ちゃんが他の1、2年の娘達に今朝訊いたところ、やっぱり同じくだったそうだ……。
困ったので、2限の教師水野の授業の後に七海ちゃんと一緒に聞きに行った。
「安心したまえ。まずは何も考えずに車庫証明等の手続きにかかって欲しい」
とサラッと言うので
「でも、公認取れるんですか? 問題はそこなんです」
「まぁ、なんとかなるだろう。私にも考えがあるから相談には乗る」
なんか、あまりの楽天的な考えにちょっとイラっとしてきてしまい
「ダメだったらどうするんですか? 当日『ダメでした~』じゃ済まないんですよ!」
と思わず感情的に喰って掛かると
「何を怒っているのかは不明だが、とにかく妙な心配をせずに取り掛かってくれて問題ないので、まずは警察署への対応からお願いする」
とサラッと流されてしまって終了した。
噴飯やるせない様子で教室へと戻る途中で、七海ちゃんが今までになく私を遠巻きにしながら恐る恐る
「すみません。自分がついていながら何も言えずに、面目ないっス」
と申し訳なさそうに言った。
「そんな事ないよ。ただ、先生があんな感じだったから、ちょっとムカッとしちゃっただけ」
私は笑顔を浮かべながら言った。
とは言え、私の中では妙に安心しきっている教師水野の態度に引っかかるものを感じて、煮え切らない感情がふつふつと沸いていた。
その時、背後に気配を感じたので私は立ち止まって振り返った。
「どうしたんですか?」
驚く七海ちゃんの更に後ろを目を凝らして見てみたが、誰もいなかった……。




