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設営と準備

 それからの10日間は、3年生と七海ちゃんに気付かれないように準備を進めるのが結構大変だった。

 人に秘密を持つのって、結構エネルギーを使う事なんだって前から分かっていたけど、その頃は人との繋がりがそこまで濃くなかったから、自分から人と繋がろうとしないで無関心を装っていれば問題なかったけど、今はそうじゃないから、毎日がヒヤヒヤの連続だった。


 3年生だけなら授業で会う事も無いし、例の作業で部にも出席していないためにさほどではないんだけど、問題は七海ちゃんで彼女に不審がられないようにしつつ、準備を目につかないところで進めるのはかなり至難の業だった。

 沙綾ちゃんのアドバイスで、週の前半は部車のオイル交換や洗車を任せる事で作業に没頭させ、後半はひたすらに練習走行をした。


 「ナミはとにかく運転したいから、練習走行させてれば他に注意は向かないです」


 そのアドバイスに従って七海ちゃんの隣に乗って練習走行をしていると、七海ちゃんはガレージにいる部員の数が明らかに減っているのに気がつく様子は無かったので、その日からは、練習走行班と作業班を2分して、七海ちゃんには車に乗って貰うようにしていた。


 そして、本番2日前の金曜日の夕方、部活終わりに七海ちゃんに発表したんだ。

 

 「ええー-っ!! そりゃないっスよぉー-!!」


 七海ちゃんは自分だけが教えて貰えなかった事に、かなりガッカリしていた様子だったが、沙綾ちゃんが


 「だったらナミ、事前に知ってたとして、今日までバレずに過ごせる自信あったの?」


 と訊くと


 「ううっ……」


 と唸りながらうなだれてしまった。

 

 「どうせナミの事だから、ズッキー先輩にバレて呼び出されたりしたら一発で吐かされるんだからね。自分で分かってるでしょ? それじゃぁ、みんな、本格的に始めるよ」


 と沙綾ちゃんの号令で準備が始まった。

 会場の設営の前に設営場所であるガレージを一度掃除と整理整頓して、キッチンが使えるようにしないとね。


 ……それにしても、凄く汚かったね。

 私は、あちこちの戸棚を開けるたびにゴキブリや蜘蛛が出てきてビックリしたけど、みんなは案外ケロッとしてるね。


 「そりゃぁ、こんな田舎ですから、虫くらいで怖がってられないですよ」


 志帆ちゃんがへらっとして言った。

 

 「でも、さすがにゴキブリがこんなに出るのはよろしくないですから、ゴキブリを寄せ付けない薬剤と殺虫剤は必要ですね」


 七菜葉ちゃんが言って、七海ちゃんが明日買ってくることになった。


 「それにしても、このガレージって不思議だね。キッチンもあるし、一体誰が使ってたんだろう?」


 私がふと言った素朴な疑問に七海ちゃんが答えた。


 「昔、スクールバスを運行してた時期があって、このガレージはその時に建てられたものらしいっスよ」


 学校でバスを運行していたんだけど、結局、バスの維持管理費や運転手さんの人件費がかかったのと、生徒数が多くてバスに乗り切れない人が出てきたりしたから廃止になったらしい。

 ここはバスの保管場所兼、運転手さんの詰め所だったからキッチンがあったり、乗用車が6台入る大きさでサイズに余裕があるんだね。


 キッチンもきちんと配管やコンロの汚れも掃除して使えるようにしたから、当日の料理も大丈夫そうだ。

 コンロって言っても、恐らく運転手さん達はお湯を沸かしてお茶を飲んだり、カップ麺を食べたりしてただけで油を使ってなかったから、ほとんどは配管と換気扇の掃除だった。


 うん、綺麗になったね。

 もうテーブルとかの準備もして、すぐにでも始められるようにしよう。

 教師水野の話では、終わった後のセフィーロをガレージに入れるように指示してるみたいだから、ガレージの車が入る後ろ側のスペースを空けて、そこに会場を設営しよう。

 まずは不要なものをこの機会だから処分して、掃除をした上で、第二体育館から長机を借りてきて置いておいてね。

 こういう時は、第二体育館という僻地に作られた部室が有難く感じるね。


◇◆◇◆◇


 遂に当日になった。

 朝からみんなで集合して会場設営と食べ物の準備に班を分けて当たった。

 一昨日、ガレージの片付けの最中に見つけた埃を被った冷蔵庫も、電源入れたら動いたから、徹底的に掃除と消毒をして今日、早速役に立ってもらったんだ。


 ピザとかケーキを取りに行かなくちゃいけないから、午前中にサンドイッチとかを作っておかなくちゃいけないんだよ。

 七海ちゃんは取り敢えず、パンの耳を落とす係からはじめて、生クリームを泡立てる係とか、最初の頃はとにかく簡単な事からやって貰った。

 そうしてみると、取り敢えず基本的な事はできそうに見えたので、そこからはタマゴサンドの作り方を教えて、そこからは基本七海ちゃんにやって貰って、私は口だけ出すようにしたんだ。

 柚月ちゃんの場合は、前に聞いていた武勇伝から、私がマンツーマンで当たらないとダメだな……と思っていたけど、七海ちゃんの場合はそこまでの必要はないみたいで安心した。


 しかし、ちょっと時計に目をやってから視線を戻すと、とんでもない光景が広がっていた。

 七海ちゃんが綺麗にできていたタマゴサンドの具の中にからしを混ぜようとしていたのだ。


 「ダメーー!!」

 「えっ!? なんでですか? ここで口直しに……」


 私が羽交い絞めにして言うと、七海ちゃんは不思議そうな表情で返してきた。

 それを見ていた沙綾ちゃんが飛んできて


 「このっ! バカナミッ! なんで基本も出来ないのに応用に走ろうとするのよっ!」


 と七海ちゃんを怒鳴り散らしていた。

 取り敢えず見ていると、七海ちゃんのお料理は基本をしっかり教え込めば、ある程度はできると思うんだ。

 ただ、なんでかは分からないけど、妙な味付けで人と差をつけようとする傾向があって、それが七海ちゃんのお料理を不味くさせているんだ。


 それを認めて、まずは言われた通りに作っていく事が七海ちゃんの第一歩だね。

 しかし、なんで七海ちゃんは辛くしようとするんだろう? 辛党なのかな?


 「私は何度も泊まりに行ったり、バーベキューとかも連れて行って貰いましたけど、ナミの両親は普通の味覚してますよ」

 「そうなんだね。となると、七海ちゃんの好みかな?」

 「七海は、どちらかと言うと甘党ですよ」


 沙綾ちゃんの話に私が反応すると、七菜葉ちゃんが言った。

 それを聞いて私は正直、七海ちゃんの一連の行動の意味が分からなくなってきたよ。

 

 午後になったので、私と七海ちゃんは、私の車で街まで行って予約していたケーキやピザなんかを買って戻ってきた。

 七海ちゃんにしたのは、私の目が離れた隙に妙な味付けにされては困るからだ。


 正直、こんな高原の小さな町なのに、ピザもフライドチキンもケーキも都内と同じチェーンで簡単に入手できることに驚いていた。

 その事を、七海ちゃんにチラッと話すと


 「この街はバブルの頃、流行りのスポットとして東京から週末ごとに大挙して人が押し寄せたくらいだったので、その名残っスよ」


 と言っていた。

 七海ちゃん達も実感が無いけど、実際七海ちゃんのお父さんが東京の人で、お母さんをディスコでナンパして付き合い始めたとか、親世代になるとその手のエピソードはゴロゴロしているらしい。


 ガレージに帰って、私たちが買ってきた食べ物をセットすると、準備はすっかり完了した。

 しばらく待っていると、教師水野から、舞華ちゃん達は出発したので30分以内で到着するという連絡が来たため、私たちはガレージを真っ暗にすると、ガレージと会場の間に設置したパーティションの影に身を潜めた。


 遂に、やって来る。



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