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メイド喫茶

 1人になった私はブースに戻ろうと歩いていると、向かいから舞華ちゃんと柚月ちゃんがやって来た。


 「あ、燈梨ぃ! 心配したよ、突然いなくなるからさ」

 「ゴメンね。ちょっと色々あってね……沙織さんも来てたし」


 舞華ちゃんは、沙織さんが来ている事を知って挨拶に行くと言ったのだけど、今はお化け屋敷に行っている旨を話して、私はブースの反響についてに話題を変えた。

 舞華ちゃんの肌感覚と集計した大体の数を見ると、反響は悪くは無くて、一般的な出店を出している部などとあまり変わらないと言うのだ。


 「だから、来年は何か出店して、部費の足しにした方が良いと思うよ。関心ない人でも、食べ物で釣ってさ、隣に展示してる車が嫌でも目に入る訳だから、活動だけでも分かって貰えるじゃん」


 舞華ちゃんはケラケラ笑いながら事も無げに言った。

 厳しく育てられた私には、こういった催しを楽しんだ経験がほとんどない。『ほとんど』と言っても、この夏にコンさんにお祭りに連れて行って貰ったのが生まれて初めての経験と言うくらいなので、一体どういうお店が好まれるのかが分からなかった。

 なので


 「例えば、出店するとしてどんな催しにすれば良いと思う?」


 と訊いてみると、舞華ちゃんは柚月ちゃんと顔を見合わせた後で、全てを理解したような表情になって


 「そうだよね。燈梨にはこういうところで遊んだ経験がないもんね」


 と言うとニコッとして、出店が並んでいるエリアを案内するように歩きながら話してくれた。

 それによると、2つの考え方があって、お昼ご飯的な考えで焼きそばやお好み焼きのような軽食を出す場合。


 「この場合だと、学外の人が多くなるから、部員獲得やイメージアップと言うより、部費獲得の要因が大きくなるよね」


 そして、もう1つは女子部員の割合が大きい今の部の事情に合わせて、スイーツなんかを出すという考えだという。


 「これは、完全に予備軍を含めた部員獲得を狙うんだよ。女子がやってるフレンドリーでゆるゆるな部活……ってイメージで現役生や、中学生なんかの心を鷲掴みにするんだよ」


 舞華ちゃんの説明を聞いて、私は凄く参考になると共に、凄く緻密なマーケティング戦略が練られている事に舌を巻いてしまった。

 なるほど、文化祭にそういう戦略が含まれているのかと考えると、終了後に皆で打ち合わせる必要があるな……と認識を新たにした。


 「マイは、中学生の心より~燈梨ちゃんの心を鷲掴みにしたいんだよね~」


 と柚月ちゃんが突拍子もなく言った。すると舞華ちゃんが


 「この野郎、柚月! ブースの立ち番サボってる分際でなに訳の分からない事言ってるんだよ。大体、マゾヒスト部の出展はどうしたんだよぉ、マゾヒスト部の!」


 と柚月ちゃんに掴みかかって、いつもの掛け合いが始まった。

 これは5分くらいかかるな……。


 「マゾヒスト部なんて無いもん~!」

 「ウソつけ! 柚月が部長で、ななみんが副部長だろーが! このっ! このっ!」


 ただでさえ目立つ2人が雑踏の中で掴み合っている上、大声でマゾヒストを連呼しているこの状態に恥ずかしさを覚えて私はさりげなく遠巻きに離れていこうとしたところ、背後から両肩を掴まれて


 「燈梨じゃん! 探したんだよ」


 と言われて振り向いてみると、そこには私より一回り小柄で、やや茶髪でミディアムボブの髪型の女子生徒がいた。

 彼女は西原(さいはら)綾香(あやか)。北海道時代の私に唯一できた友達だった。以前の高校で一緒だったのだが、2年生の夏にこっちに突然引っ越してしまったため、一時は離れ離れになっていたのだが、コンさん達や舞華ちゃん達のおかげで、夏に再会する事ができ、私がここに転校するきっかけとなった1人である。

 私は家出期間があって留年したため2年生だが、彼女は3年生で、優子ちゃんと仲が良いそうだ。


 綾香は、私の視線の先を見てから苦笑いをして


 「しょうがないなぁ、あの2人は、こんな人ごみで友情を確かめ合っちゃって……」


 と言うと、柚月ちゃんに馬乗りになっている舞華ちゃんの間に割って入って


 「ホラホラ、2人ともやめる~! やめないと優子、呼ぶぞー」


 と言ったところ、2人はたちどころに元通りになった。

 綾香が私の元へと戻ってくると


 「部の展示場所行ったら、どこ行っても燈梨はさっき行っちゃったって言われてさ。探したんだから」


 と膨れながら言ったけど、私は特に今日綾香と待ち合わせた覚えがないので


 「ゴメン。でも、綾香って私と何か約束してたっけ?」


 と言うと、綾香は目を押さえながら


 「酷い! 燈梨、私との約束はどうでも良いんだね……前の学校での約束なんて、綺麗さっぱり忘れたんだね!」


 と言った。

 私は、以前の事を思い出しながら、それをすっかり忘れてしまっている自分を恥じた。

 そして、うずくまっている綾香の背中に声をかけようと近づいたところ、いきなり綾香がバッと襲い掛かってきて


 「あはは……燈梨、スキありぃ~!」


 と言うや否や、ヘッドロックで抑え込まれてしまった。

 私があまりの急な出来事に理解が追い付かないでいると


 「フフフ……燈梨は騙されたんだよ。前の学校の時、燈梨は文化祭には来なかったじゃん!」


 と言われた。

 確かにそうだった。

 学校行事とは言え、授業もなく、土日に開催されている文化祭には出して貰えなかったのだ。

 

 「綾香ぁ! 放して、放してよ」


 私は暴れてみせたが、綾香はヘラヘラしながら


 「裏切り者の燈梨め、解放して欲しくば、私を倒してからにしろぉ」


 などと言って余計きつく締めてきた。

 すると、舞華ちゃんの声がした。


 「あやかんめ! 燈梨を放せぇ!」

  

 しかし、綾香は私を抱えたままで一歩後ずさると

 

 「おおっと、舞華っち達も動くなよ。動くと燈梨の命の保証はないよぉ~」

 「くっそぉ~! あやかんめぇ、卑怯なり~」

 「へっへ~んだ。何とでも言え~。負け犬の遠吠えにしか聞こえんわ~」


 と掛け合いを始めた。

 私には分かった。舞華ちゃん達と綾香は示し合わせて遊んでるという事に。

 となると、余計に悔しくなった私は、逃れようと暴れはじめた。


 「ええ~い、燈梨め! ジタバタするねぃ!」


 と綾香が言うと同時に、何かがぶつかる感触がして、私は綾香の腕から解放された。


 「あ……」


 そこには沙織さんが立っていた。

 いつもと同じようなピンクのキャミの上に派手な柄のワンピースを着て、薄いカーディガンを羽織って腰に手を当てている姿勢もいつもと同じだ。


 「あんた達ねぇ、仲良いのは分かるけど、往来でじゃれ合うのも程々にしておきなさい」


 と言ってから、私たちを見回して


 「そろそろ、お昼に行かない?」


 と言ったので、私たちは5人で教室棟へと入っていった。

 

 色々な出し物があったが、お昼にしようとするとカフェ関係しかなかったので、私の希望で、占い同好会のやっているメイド喫茶に入る事になった。


 「占い同好会がやってるっていうのが、意外ね」


 沙織さんが、ボソッとみんなの思っていた疑問を口にした。


 「そう言えばコスプレ同好会、廃部になっちゃったからな」

 「そんなのあったの!?」


 舞華ちゃんの一言に、私と沙織さんと綾香は一斉に驚いて聞き返した。

 どうやら、舞華ちゃん達が1年生の頃までは存在していて、それなりに部員数もいたそうだ。

 確かに、同好会まで格上げされているからね。


 だけど、文化祭のコスプレ喫茶で、艦隊ゲームの潜水艦の娘のコスプレって言ってスクール水着着て、客引きに校内をその格好で練り歩いた事から問題になって、結果廃部になったらしい。


 それを聞いて、私たちはなるほどと納得してしまった。

 いくらなんでも高校の文化祭でそれをやった挙句、父兄や一般の人たちがたくさんいる校内をその格好で練り歩いてしまえばね……。


 私たちが言葉を失ってしまい、舞華ちゃん達が口を開いた。


 「あそこの会長だった先輩、結構気が強かったから、謝っておけば存続できたと思うんだけど、校長や教頭とやりあちゃってさ……」


 舞華ちゃんの話によると、この学校は凄く自主性を尊重している学校なので、創部の基準や、その内容に関してはかなり緩いそうだ。

 確かに自動車部だって、機械科や工業科のないウチの学校にある事自体が珍しいのだ。


 そんな事を考えている間に、オムライスがやって来て、お約束のケチャップでのお名前サービスに続いて、占いのサービスがあったのには、このメイド喫茶の出展元が占い同好会であることを感じさせるものだった。


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