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開始と課題

 遂に文化祭が始まった。

 大きく分けて3つの展示スペースで展開してるんだけど、メインは3年生がテントを張って車を展示しているブースで、そこにはみんながいつも練習している教習車、そしてGTE、更にはこの部の原点ともなったGTS-tタイプMの3台のR32型スカイライン、そして、外への移動に使うS14シルビアを展示して、“いかにも”って層の足を止めるのが狙いなんだ。

 でも、GTEが結構面白くて、わざわざどこかから見つけてきたレースのシートカバーを全席に被せて、ティッシュの箱を後ろのボードに置いて、更に七菜葉ちゃんがお爺ちゃんの部屋で見つけてきた凄く昔のゴツイ芳香剤をダッシュボードに置いたんだよ。


 「クルマにポピーって言ったら有名だって、爺ちゃんが言ってましたよ」


 お爺ちゃんが当時乗っていたランタボ? とかいう車につけてたんだって?


 「ランタボは、三菱のランサーEXターボの事ですね。略してランタボ。最後のFR車で、カッコ良いデザインで人気だったって、爺ちゃんが言ってましたよ」


 なるほど、スマホで調べたら昭和54年から62年くらいまで作られてた車だったんだね。確かに古い車だけど、デザインは現代にも通用しそうだね。


 「ちなみに、ポピーは今でも売ってるっスよ」


 そうなの七海ちゃん?

 普通に町のカー用品店にも置いてるし、今ではエアコン吹出口タイプとか、容器がウサギの形をしたタイプなんかも売ってるんだって?

 ヨーロッパでも人気があるんだね。今スマホで調べたら出ていてビックリしたよ。

 でも、この瓶のデザインがレトロな感じがして凄く味があるよね。 

 

 次に、急遽の展示が決定した第二練習場の練習車3台と、グラウンド整備車の2台をカッコ良く仕上げての展示も、各部の出店のすぐ脇だから、お客さんの目を惹くことは間違いないよね。


 アルテッツァとスカイラインは、グラフィックを入れて、大きいホイールを履かせた定番のドリフト仕様なんだけど、やっぱり私たち2年生の作ったチェイサーのナスカー仕様がその中に混ざると、異質だけど目立つよね。


 実は最後まで車高に関して悩んだんだ。

 初めて車高調整にチャレンジしたんだけど、どのくらいまで下げたらカッコ良くなるのかのバランスが難しくて、昨日の夕方までみんなで色々試しながら議論を闘わせたんだ。

 展示だけで走らせる訳じゃないからベタベタに落としても問題ないと思って、最初は限界まで車高を低くしたら、あまりにも非現実的なくらいに低くなっちゃったんだよ。

 すると、凄くカッコ悪く感じちゃってナスカーの画像と見比べたら、こんなに低い訳じゃないんだよね。

 そこで、画像を見ながら本場のマシンと同じくらいにしてみたら、今度は少し腰高になって今一つだったから、そこからはミリ単位で下げていって、みんなの納得するところで決定したっていう苦労の結晶なんだよね。

 だからって訳じゃないんだけど、3台の中で一番カッコよく見えちゃうんだよね。


 そして、最後に校門前のプロモーションスペースを見たんだ。

 ここに関しては、不特定多数の通行人に対して、部に関心を持ってもらうために、前面にノートとエッセを出して、とにかく高校の文化祭には異質に写る自動車をアピールしたんだ。

 エッセは元のオレンジに対してカッティングだし、ボディも小さいから今一つだけど、ノートはオールペン済みの赤が映えるカッコ良くて目立ち度の高い外観だから、1歩前に出してアピールにしたんだ。


 ただ、やっぱり見た目のアピールが欲しいっていう提案をしたところ、悠梨ちゃんがっ一肌脱いでくれて、本来レギュレーション上は認められていないカナードやウイングといったエアロパーツを作って付けてくれたんだ。

 だけど、展示用で実際に使う訳じゃないから、段ボールをパテで固めて色を塗っただけのハリボテなんだけど、悠梨ちゃんのセンスにかかると、本物のカーボンで出来ているみたいな質感が再現できるんだよね。

 こういうセンスと匠の技を持った悠梨ちゃんも春には卒業だから、私たちもこういう技を伝承して貰っておかないとダメだなって凄く思うんだよね。


 そんな事を口走ったところ、七海ちゃんが


 「心配ご無用っス。悠梨先輩のところにはヒナっちが弟子としてマンツーマンで手ほどきを受けていますし、希愛っちなんかも、そっちについてるっス」


 と自信満々に言った。

 どうやら、私と同じ心配は夏前くらいから2年生の間で囁かれていて、その際に我こそは……と手を挙げたのがこの2人なのだそうだ。


 「それに、文化祭が終わったら沙綾っちも参加したいって言ってたっス」


 私も部長という立場だけど、それがやってはいけない理由にはならないので、沙綾ちゃんと一緒に参加しようかな? と思った。


 開場して1時間の人の流れを見てみると、やっぱり目を惹くみたいで、プロモーションスペースでの注目度は大きかった。

 しかし、一瞬車に目をやっても、その後の説明が探し切れていないのか、そこで終了している人が多かったように思う。

 これが自動車部だっていうふうに認知してもらうのが目的なのに、ただの車の展示をしているだけのような感覚で捉えられているように感じてしまうのが残念だな……と思うのだ。


  そんな事でモヤモヤしていると、沙綾ちゃんがやって来て


 「ちょっとこの後、1~2時間詰めてても良いですか?」


 と訊いてきたので


 「良いよ。せっかくの文化祭なんだから、事前に決めたブースにいる時間だけ守って貰えれば、あとは自由で」

 

 と言うと


 「ちょっと明日向けに動画が作りたいので、後で水野にモニターが借りれないかを打診したいんです」


 と言うので、私は沙綾ちゃんの全貌を聞くことにした。

 どうも、校門前のブースでみんなが一瞥して内容を見ずにスルーしている事については、沙綾ちゃんも感じているので、色々考えてみたところ、ビジュアル的に訴えるものが無い事、陸上部がモニターに大会の様子を映した映像を流していて、そっちに流れる人が多かったのを見た事から、それに対抗する策として、自作の動画編集を思いついたのだそうだ。


 「分かった。先生にはあとで私から話しておくから!」


 私は言うと、教師水野を探して職員室へと七海ちゃんと向かった。


 「了解した。……最も大きいモニターを用意しよう。なに、私の力で何とかしてみせるから、大船に乗ったつもりでいたまえ!」


 教師水野の妙に自信満々な振る舞いにちょっと違和感を感じたが、用意できるならそれに越したことはない。

 私と七海ちゃんは、再度ブースに戻ろうと校門前にやって来たところ、突然背後から肩を叩かれて振り向いたところ、そこには沙織さんがいた。


 「燈梨ぃ、来たよ」


 確か、先週LINEした際に、文化祭の準備でてんてこ舞いしている事、日程について書いた気がした。

 すると、七海ちゃんが


 「それじゃぁ、私は戻ってるので、燈梨さんはこのままお昼に行ってきてください」


 と言って、沙織さんが呼び止めるのも聞かずにそそくさと行ってしまった。

 

 「なんか、気を遣わせちゃったみたいね」

 

 でも正直、エスコートできるほど私は文化祭の他の出し物に詳しくなかったので、結局自動車部の出展を見て回る事になってしまった。

 沙織さんは出展を前にすると、凄く真面目な目つきになって見ていたが、時計に目を落として


 「お昼には少し早いから、お化け屋敷見てくるね」


 とニヤッとして言った。

 私は、なんか沙織さんに気を遣わせてしまったと思って声をかけようとしたが、沙織さんは


 「文化祭を見るには、お化け屋敷の怖さ見るのが定番なの。それとも、燈梨も行く?」


 と言うと、お化け屋敷に入った事の無い私は思わず首を横に振った。

 それを見てクスッと笑いながら


 「30分で戻るから」


 と言って背中を向けた。

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