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入部動機

 買い出しで指定されたのは、確かにスカイラインのダウンサスだけだったけど、私の頭の中には、七海ちゃんが見せてくれたナスカーの画像とチェイサーの今の状況が浮かんでいた。


 恐らく、七海ちゃんが昨日言った作業でも、それっぽくなるとは思うんだけど、やはり私の中で浮かんだ完成予想図では、ちょっと物足りなくなることが分かっていた。

 それは、腰高すぎて雰囲気が出ないという物足りなさだ。

 今のままだと、バラエティ番組で芸人が乗ってぶつけ合いながらゴールを目指すおふざけ企画のレースカーに見えてしまう。

 ナスカーの雰囲気を出すためには、車高の低さが必要なのだ。


 私は、そう思うと、授業が終わった時間であることを確認して、教えて貰っていた教師水野の番号へと電話をした。

 すぐに応答した教師水野に事情を説明すると、彼女は


 「了解した。抜けていてもいいので買って帰ってきてくれたまえ」


 と言うと、電話を切ってしまった。

 私は、その支払いを含めた相談をしたかったのに……と思って再度かけたが、話し中だった。


 すると、電話を片手にお店の人がこちらにやって来て声をかけられた。

 どうやら、教師水野はこのお店の常連らしく、お店に電話をしてきて、顔見知りの店長さんに、今、代金の振り込みをするので、私たちに持ち帰らせて欲しいと話を通してくれたのだそうだ。


 私も沙綾ちゃんも、普段の教師水野の動きからは考えられない程の素早い動きに呆気に取られていたが、そうと決まれば、私たちも商品と領収書を受け取って、トランクに積み込んだ。

 初めて持ったサスペンションはとても重く感じたが、あれだけの重さの車を支えているのだから当然だな……と妙に納得してしまった。


 荷物を積んだ私たちは、中古パーツ屋さんを出て、次の目的地である大きなホームセンターへと向かった。

 私たちの町にもホームセンターは何軒かあったが、さすが県庁所在地の大きな町だけあって、更に大きな規模と品揃えは圧巻だった。


 沙綾ちゃんのボードや垂れ幕の素材なども買ったために、私たち2人でも持ちきれないほどの買い物をカートに積んで駐車場のシルビアまで押していった。

 制服姿の女子高生が、ホームセンターに買い出しに来る姿自体は、文化祭シーズンなので珍しくなく、店内のあちこちで見かけたが、さすがに車に乗って来ているのは私たちだけだったので、注目を集めてしまっていた。


 「やっぱり目立ちますね……」


 沙綾ちゃんが周囲の視線を感じて、ちょっとおどおどしながら言った。

 沙綾ちゃんの話では、県内でも通学困難な地区以外ではバイクや車での通学は禁止されているため、都市部に当たるここでは珍しいのだろうとの事だ。


 私も、視線を感じてちょっと気恥ずかしさを感じていた時に思い出したことがあった。

 私に免許を取らせてくれた際に、コンさんと沙織さんにその理由を尋ねた事があったが、その際に2人共『高校生が制服で車を運転するステイタスに憧れていた』というような事を言っていたのを思い出した。


 きっと、今みたいなシチュエーションを夢見ていたんだ……と思うと、私は恥ずかしがっているのが勿体無くなって、沙綾ちゃんにだけ聞こえるように小声で言った。 


 「私たち、羨ましがられてるんだよ。だから、ドヤ顔でいこうよ」


 すると沙綾ちゃんは頷いて、今まで縮こまっていたのが嘘のように胸を張って堂々とし始めた。

 私は言い出しっぺながら、ちょっと怖かったのだが、沙綾ちゃんの堂々とした態度に勇気づけられて、一緒にドヤ顔で荷物を積み始めた。

 トランクにはさっき買った足回り2台分が入っていたが、シルビアのトランクは結構深いため、圧迫されずに荷物が入った。


 私はS13型にも乗った事があるのでよく知っているが、これがS13型とS14型の大きな違いなのだ。

 トランクが浅くて大きなものを積んでしまうとすぐに満載になってしまうS13型に対して、深さがあるので意外と実用的なのがS14型なのだ。


 荷物を積んでいると、最後の段になって沙綾ちゃんの動きが止まった。


 「どうしたの?」

 「いや……ボードと支柱が入らないから、軽トラ借りないとダメですね……」


 私の問いかけに沙綾ちゃんが力なく答えた。

 どうしても、文化祭の準備ともなると大物の荷物が多くなるんだけど、ここで軽トラ借りても制限時間内に返却できるとは思えない。


 私は、助手席を倒してリアシートに回ると、背もたれの先端にあるノブを引いて背もたれを前に倒してトランクと室内を繋げた。


 「ええっ!?」


 沙綾ちゃんはトランクスルーを知らなかったようで、意外な展開にただただ驚いていた。


 「これで積めるかやってみようよ」


 私が言うと、沙綾ちゃんはそれらを積み始めた。

 真っ直ぐだと、ギアチェンジの時に当たってしまうため、知恵の輪のように工夫しながら、室内へと通して入れることに成功した。

 

 帰る前に沙綾ちゃんはスマホを取り出すと、買うもののリストを出して、買い漏らしがないかチェックを始めた。

 沙綾ちゃんは、しっかりとチェックする派なんだね。


 帰り道は渋滞が予想されるので高速を使った。


 「高速の運転って、やっぱり緊張します?」

 「最初はね。でも、私は最初に首都高で特訓されたから、慣れちゃった」

 「首都高って、やっぱり怖い所なの?」

 「最初はね。でも慣れちゃえば普通に走れる場所だよ。沙綾ちゃんも免許取ったらなるはやで洗礼を受けておいた方が良いかも……」


 私は、自分の経験を思い出しながら、沙綾ちゃんの疑問に答えていた。

 すると、沙綾ちゃんは


 「燈梨さんは、これと同じシルビアに乗ってるんですよね? 部のやつと燈梨さんのでは違いってあります?」


 と訊いてきた。


 「正確に言うと、ちょっとした違いみたいなのはあるよ。古い車だから、それまでの使い方とか足回りの部品の違いとかで、でも基本的なところは一緒だよ」


 と答えると


 「そうなんだぁ、私も来年になるのが待ち遠しくて、私はナミと違ってバイクにはハマらずに車に乗りたい派だったから」


 と言ったので、私は疑問に思っていた事を訊ねた。


 「みんなは、なんでこの部に入ったの?」

 「最初は、ズッキー先輩からナミと私を含めた数人に声がかかって、そこから私たちで興味のありそうな娘達に声をかけていったんです」


 それを聞いて、私はやっぱり柚月ちゃんが絡んでるのか……と少し複雑な感じだった。

 柚月ちゃんが格闘系の活動をしている娘達に大きな影響力を持っている事は知っているので、彼女たちは断り切れずに入ったのではないかと思ったからだ。


 すると、次の瞬間沙綾ちゃんは


 「結構誤解している人が多かったんですけど、別にズッキー先輩に声かけられたから、嫌々入ったんじゃなくて、みんな興味があったから話を聞いて、その上で入部したんですよ。私とナミは即答でしたし」


 と、私の疑念を即座に否定した。

 当初は、この部の構成メンバーを見て、私と同じような疑念を抱く人が多かったそうだ。

 確かに、格闘系の活動をしていた生徒ばかりが集中的に移籍していたので、柚月ちゃんが自分の影響下にある娘達を使って強引に引き抜いたのではないか……と勘繰られても不思議は無かったそうだ。

 しかしその後、バレーやバスケ、サッカー部などからも移籍する娘達が相次いだ事から、その疑念は払拭されていったそうだ。


 「恐らく他の運動部は、結衣先輩の影響だと思うんですよね。結衣先輩は陸上部のエースだったから」


 私はその話を聞いて、やはりこの部は今の3年生が強く影響している部活なんだと強く思わされた。

 彼女たちのカリスマ性が、部を支えている事を実感すると共に、文化祭以降はそれが弱まっていく事への焦燥感が同時に襲ってきた。

 私たちだけで、舞華ちゃん達の成し遂げた事が実現できるのかを考えると、私には自信が無くてちょっと怖かった。


 すると、それを見た沙綾ちゃんが言った。


 「でも、これからは私たちの時代ですよ」

 「えっ!?」

 「マイ先輩たちは凄かったけど、もうその時代は終わったんです。だから、私たちがこれからその記録を破っていくんですよ」


 ニコニコしながら沙綾ちゃんが続けた。


 「燈梨さん。みんなでやっていきましょう! 自動車部には私たちがいないとダメだってみんなに思わせましょう!」


 私は力強く頷いた。


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