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買い出し紀行

 「ホラっ! 見て見て、ナスカーって言うんだよ。このナスカー風に仕上げれば、低予算でカッコ良く仕上がるんだよ」


 七海ちゃんは、スマホの画像を見せると活き活きした目で話し始めた。

 七海ちゃんの案によると、あの練習車のチェイサーのホイールカバーを撤去して露になる真っ黒なホイールの縁とタイヤメーカーのロゴだけ色を付けて、ライトを黒いビニールテープで塗りつぶし、前席の左右の窓を全開にして、そこに派手な色のついた格子状の網を張って、ゼッケンを貼ればいいのだと言う。


 「今日の作業で、ロールバーと4点ベルトつけたから、これだけやればバッチリ決まるよ!」


 確かに、予算としては網代と塗料代くらいで済みそうだ。


 「しかも、網はうちに余ってるから、それ使えば良いしさ」


 七海ちゃんは続けて言った。

 私は、勢いよく話してくる七海ちゃんからの情報に少し混乱していると


 「燈梨さん。ナミの両親はキャンプとかが大好きだから、きっとそれ関係のものがあるんだと思います」


 沙綾ちゃんが言った。

 あれ? 沙綾ちゃんは七海ちゃんがいる前だと私に敬語なんだね。


 でも、低予算で済むのは良いけど、他の2台の練習車に関してはどうなの?


 「アルテッツァは、元々走り屋仕様だから、現状維持でカッティングステッカーで仕上げるのと、スカイラインはドリフト仕様っぽく仕上げるみたいな事を言ってたっスよ」


 どうも、あとの2台は3年生が担当するらしく、その概要に関しても向こうで決めたらしい。

 チェイサーもドリフト仕様にするのが定番なんだけど、七海ちゃん的にはそれだと画一的でつまらないというのと、予算の問題もあってこのナスカーというアイデアが思い浮かんだというのだ。


 これで展示の概要はなんとなく上手くいきそうだね。

 確か、グラウンド整備車の2台も、この機会にって悠梨ちゃんが綺麗に仕上げてくれたから、これも展示できるね。


 となると


 「買い出しに行きましょう!」


 沙綾ちゃんの声で現実に戻された。

 確かに、概要が決まった段階から準備が始まるから、必要なものをリストアップして買い出しに行く必要はあるかな。

 

 「行ってきたまえ」

 「どわぁっっ!!」


 背後から気配なく現れた教師水野の声に、沙綾ちゃんが思い切りビックリして思わず叫び声を上げていた。


 「失礼した。本題だが、展示にも必要な物もあるし、R34のダウンサスが売っている情報も入手しているので、それも見に行って欲しい」


 と言うと、今すぐにでも行って来いと言わんばかりの態度だったので


 「今日は既に夕方ですし、必要なものをリストアップして効率的に行きたいと思うので、明日で良いですか?」


 と思わず私は言っていた。

 すると、教師水野は少し狼狽した様子を見せた後で、時計を見てから


 「了解した。では、部長と青海君で明日、行ってくれたまえ。監督は舞華君たちにやって貰うようにしておくので、1日を買い出しに当てて欲しい」


 と言うと、ドロドロとした雰囲気を出して去っていった。

 沙綾ちゃんはまだ胸を押さえながら


 「ホントに、どこから出てくるか分からなくて心臓に悪いですね」


 と忌々しそうな視線で教師水野の去っていった方を見て言った。

 私は、苦笑いを浮かべながら


 「それじゃぁ、必要なものをリストアップしようよ!」


 と言って、沙綾ちゃんと七海ちゃんを連れてガレージへと向かった。


◇◆◇◆◇


 翌日、昼休みが終わると私と沙綾ちゃんは、部車のシルビアに乗って買い出しへと出発した。

 教師水野が予め話を通してくれており、午後の体育の授業は文化祭準備という事で免除になっていた。


 「今日の体育はランニングだから、堂々とサボれてラッキーだね」


 沙綾ちゃんが、助手席に乗るとニマッとして言った。


 「そうなの?」

 「それに体育の時、男子が嫌らしい目で燈梨さんの事見てるから、尚の事良くないですか?」


 私の反応に、沙綾ちゃんが更に補足して、今日の体育は出なくて良かったことを強調していた。


 「あははは……嫌だけど、私は、そういうのは慣れちゃってるから……」


 私は苦笑いを浮かべながら言った。

 正直、慣れているのだ。この見た目のせいで、男子から嫌らしい目で見られて、女子からは妬まれるという負の感情しか生みださないスパイラルにだ。


 「あーあ、私も言ってみたいな。そういう事。私は単に『強いんだね』か『凄いんだね』しか言われてこなかったから、それを取ったら何なのかなって思って……」


 と言うと、少しトーンが落ちた。

 それを見て、私は強くて人生を楽しんでいるように見える沙綾ちゃんも、負の部分は存在するんだという事を知って、改めて私は1人じゃないんだという事を知る事ができた。

 すると、沙綾ちゃんは直後に顔を上げると、元通りのトーンに戻って


 「それで燈梨さん、胸が大きいと肩が凝るってホントなんですか? どんな感じで凝るんですか?」


 と訊いてきたので


 「知らないよー、そんな事」


 と言い返すと


 「そんな訳ないでしょ? 自分の事ですよね?」


 と食い下がってきて、しばらくそのやりとりが延々続くことになった。


◇◆◇◆◇


 県庁所在地のある市までやって来ると、教師水野が指定した中古パーツ屋さんに最初に行った。

 確か、ここにスカイライン用のダウンサスがあるから買ってくるようにっていう指令だったね。


 「車高調じゃないんだね?」


 沙綾ちゃんが言った。


 「うん、展示に使うだけだからね。それに、第二練習場は凹凸の激しい場所だから、車高調にすると、バネの伸びが足らなくて逆効果になっちゃうみたい」


 私は言って、足回り部品があるコーナーへとやって来た。

 すると、情報通りR34用のダウンスプリングが売っていた。

 ショックアブソーバーに関しては、予め教師水野が用意している様なので、今日はこれだけで良いみたいだね。


 「私も初めて来た場所だから、色々見て回ってから買って帰ろう」


 私は沙綾ちゃんにそう言うと店の端から置いてあるものを見て回った。

 タイヤやホイールが一番面積を占めていたが、私にもまだ書いてある諸元についての知識が無くて、ナットの数くらいの違いしか分からなかった。


 「FF用とFR用で違うんですよね。ホイールって……」

 「そうなの!?」


 沙綾ちゃんがボソッと言った一言に私が反応し、沙綾ちゃんが苦笑いしていた……。

 私も夏前に免許を取るまで、車は動けば良いとしか思っていなかったし、下手をすれば一生免許を取らなかったかもしれないほどの認識でしかなかったのだ。


 すると、それを見た沙綾ちゃんは


 「でも、私たちもそんなレベルですよ。……おいおい覚えていけば」


 と笑いながら言ってくれた。

 私は、沙綾ちゃんに申し訳ないような気持ちになりながらも


 「そうだね」


 と言った。


 「今の3年生もそんな感じだったみたい……だよ」


 沙綾ちゃんが敬語だった事を思い出して修正しながら言ってきた。


 「そうなんだ……」

 「マイ先輩は、まったく何も知らなかったって言ってたし、ズッキー先輩もバイクは詳しかったけど、車になると怪しかったって言ってたし」


 私は、沙綾ちゃんの今の話を聞くまでは、3年生とのギャップに私で大丈夫なのかと不安になっていたが、それを聞いてとてもホッとしたし、私でも大丈夫なんだと自信がみなぎってくるのを覚えた。


 そして、ふと目の前を見て私の視線がある1点で止まった。

 そこには

 『100系マークII/チェイサー/クレスタ用 車高調』

 というPOPを付けたサスペンションが展示されていたからだった。


 「あ……」


 沙綾ちゃんも気がついたようだ。

 どうしよう? 私の頭の中を駆け巡っていた言葉だった。

 

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