レイアウト
取り敢えず、作業ごとが多くて手が回りそうにない感じだけども、まずは作業班の中から練習車の案を出す責任者を決めて動いた方が良さそうだね。
そんな話をしたところ、七海ちゃんと3年生の悠梨ちゃんが手を挙げた。
悠梨ちゃんは、元々文化祭の展示車両の制作を一手に仕切ってたから願ったり叶ったりなんだけど、七海ちゃんは大丈夫かな?
そう思って沙綾ちゃんの方をチラッと見ると
「ナミ、手を付ける前に私と燈梨さんの所に来て、企画了承されてから始めてね」
と七海ちゃんを指さしながら言った。
そして、作業が一斉に開始されると沙綾ちゃんが
「燈梨さん。レイアウトについて打ち合わせたいので、部室に……」
と言ったが、私は作業の監督があるのでそちらを見やりながらここで出来ないかをアピールした。
すると、それを見ていた舞華ちゃんが
「燈梨。ここではそういう遠回しにやるんじゃなくて、ストレートに言いなよ。いいよ、作業の監督は私がやるから行ってきなよ」
と言ってくれたので沙綾ちゃんと部室に移動した。
部室に教師水野の姿は既になく、私と沙綾ちゃんは机を挟んで向かい合った位置の椅子に座ると、私は学校から貰った簡易的なレイアウト図を広げ、沙綾ちゃんは1冊のノートを広げた。
「私、一応ブースの案をざっくり書いてきたので見て貰って良い?」
沙綾ちゃんが言いながら広げたページを見ると、ブースの予想図の絵と、そこに捕捉されるような一言説明が矢印で引っ張ってあちこちに書かれていた。
それを見てみると、かなり細かく書かれている中に、展示するボードの内容も書かれていた。
それを見て私はビックリした。
沙綾ちゃんの書いた案の配置と寸法は私が入手している学校側からのものとぴったり一致しているし、車の寸法に関してもほぼ正確に捉えていて、配置もしっかりと考えられていた。
もう、打ち合わせる必要などないように思えるほど、完璧な配置に私は思わず言葉を失ってしまった。
その様子を見た沙綾ちゃんは
「いや、これはあくまで写真を撮る時の構図の癖で考えただけの仮の配置で、これを叩き台にするつもりはないよ。私が見て欲しいのはボードと垂れ幕だけ」
と照れるように笑いながらその案を見せてくれた。
校門前の展示スペースは、とにかく成果を強調するのと、自動車部という高校にはあまりない部活動であることをアピールすることがメインになっている。
なので沙綾ちゃんの垂れ幕には
『創部初年度に学生ジムカーナ3位! 軽耐久レース完走の2冠達成!!』
とポイントが大きく書かれていた。
「どうですか? 写真でもそうだけど、印象に残したいところを強調する方が効果的だと思うんだけど……」
沙綾ちゃんは私の顔を覗き込むように言った。
確かに、それは正しいと思う。
校門を入ってすぐのブースなので、ほぼ例外なくみんなの目に触れる場所だけど、みんなが注目しているのは場内の案内図や出し物のパンフレットとかなので、各部の成果アピールなど一瞥して終了なのだ。
私は、気になる事があったので沙綾ちゃんに訊いた。
「私の見取り図に載ってる部の今年の成績教えてくれる?」
私の見取り図には、自動車部以外に入り口前のブースに展示される部やサークルのレイアウトも載っていた。
「ええっと……男子サッカー部が県大会2位で、弓道部が優勝、それとサバゲ同好会は全国2位で、陸上部が県大会3位の、駅伝大会2位ですね」
私はそれを確認すると、沙綾ちゃんに言った。
「だったら『創部初年度』っていうポイントを切って、実績だけをもっと大きく書くの。そして、垂れ幕よりも車とボードを目立たせるレイアウトにしよう」
「ええっ!?」
私には、何となくだが確信めいたものがある。
コンさんの家にいる頃、私は1階にある舞韻さんのカフェレストランでバイトをしていたのだが、そこには沙織さんも手伝いに入っていて、沙織さんが書く手書きPOPや入り口前に出す黒板のメニューアピールが凄く好評で、その日の売り上げを左右するほどだったのだ。
沙織さんは数年前、伝説のショップ店員として鳴らした腕があり、そこで培ったノウハウは、業種が変わっても充分に通用するものだった。
その頃に聞いたのは、他にないアピールポイントを最前列に持ってくるか、それが無い場合は人の注意を引くキャッチコピーで目をとめるという技だった。
沙綾ちゃんの言う通り、印象に残したいところを強調するのは基本なんだけど、これだと他の部の活躍ぶりも拮抗してるか、それより上なので間違いなく埋もれてしまうし、『創部初年度』なんて語句は、私たちにとっては重要な事でも、他の人から見ればどうでもいい内容で、それを入れる事によってゴチャついて見辛くなってしまうのなら、バッサリとカットして、その分で成果を大書きした方が良いと思う。
なので、そこのところを説明すると
「なるほど」
と沙綾ちゃんは納得してくれたようだ。
そこで、私は更に言った。
「そこで、私たちの場合に他にないアピールポイントって言ったら、やっぱり車になるんだよね。だから、車本体を目立たせる方が、下手にスペース使って書くよりも効果的なような気がするんだ」
すると、沙綾ちゃんは感心したような表情で
「そうか! 弓道やサッカーだとアピールする道具が小さいし、陸上に至っては何も無いから書いてあることに頼らざるを得なくなるけど、ウチらは車があるから、アピールになるって事だね」
と言って喜んだ。
やっぱりアピールする道具の大きさってのが一番この展示には効果的なんだよ。
すると、見取り図を色々見ていた沙綾ちゃんは、はたと思い直したようにこちらを見上げて
「すると、展示する2台もそのままじゃなくて、少しは手を入れた方が良いって事だよね」
と言った。
私は、そこまでは考えていなかったので、沙綾ちゃんの突然の提案に驚いてたじろいでしまった。
「まぁ、そこまでの余裕があれば……だよね」
私は、今の部内の状況を思い浮かべながら言った。
今の部内は、展示するスカイラインGTEの修理や、急遽持ち上がった第二練習場の練習車の展示なんかで、てんやわんやの状態なのだ。
そこにこちらの競技車2台の手直しに割く余裕が果たしてあるのかと問われると、即答はできなかった。
沙綾ちゃんは、私の表情からそれを読み取ると
「やりましょう? 私も頑張ってやりますから」
とニッコリしながら私の顔を覗き込みながら力強く言った。
……やられたよ。
私は上手いこと沙綾ちゃんの思惑に乗せられてしまった。
そんな中、突然ドアが開くと同時に
「沙綾っち~! 展示車の企画できたよ~!」
という声が背後からした。
振り返ると、七海ちゃんが机の上の書類の上に覆いかぶさってきて
「凄いんだよー、超カッコ良くなるいい企画なんだよー!」
と言った。
すると、沙綾ちゃん机をダンっと叩くと
「ナミ! いい加減にしなさいよ! ノックくらいしてから入りなさいよ!」
と言って、七海ちゃんの頬を思いきりつねって持ち上げた。
「いひゃい! いひゃいよー-!」
「うるさいっ! バカナミ!」
沙綾ちゃんと七海ちゃんのやり取りを見ていて、私はこれと似たやりとりをつい最近どこかで見たような気がしていたが、それを表には出さずに
「それじゃぁ、七海ちゃんの企画を先に聞こうよ」
とニコッとして言うと、沙綾ちゃんと七海ちゃんは頷いて席に着いた。




