イレギュラーな出来事
「……という訳なんだ。だから、要請があったと仮定して動いておいた方が良いと思うんだけど、どうかな?」
私の問いかけに、1年生を中心に凄く前向きな意見が多く飛び出した。
実は今、ちょっと離れた所に第二練習場が借りられた関係で、第二練習場用に教師水野が用意した3台の車の作業と、第二練習場の下見の時に柚月ちゃんが土手に乗り上げちゃった部車のスカイラインGTEの修理作業に1年生が駆り出されてる関係上、1年生は毎日が作業づいていて、自分達の仕上げた車に愛着が湧いているのだ。
「ロールバーも組んだので、第二練習場のアルテッツァとスカイラインとチェイサーを展示しましょう!」
1年生の美桜ちゃんが前のめりになりながら言ってきた。
「でも、第二練習場のスカイラインとチェイサーは普通のグレードのおじさん仕様だから、外装そのままって訳にはいかないかな? 他にはない?」
私はそう言って美桜ちゃんをなだめつつ、他の意見を募ってみた。
第二練習場の練習車は、ぶつかってもいいように教師水野が解体屋さんから貰ってきた車なのだ。なのでスカイラインは20GTで、チェイサーは2000アバンテなのだ。
したがって、2台ともレースのシートカバーがついていて、お守りステッカーが貼られており、チェイサーはホイールも鉄ホイールで、ホイールキャップがバラバラな車種のがついていて、外装的にはかなり寒い仕様なのだ。
とは言え、他の案は出てこなかった。
他に展示できる部車も無いし、1年生の熱量も大きいから今回はこの3台で問題ないかな?
私は、2年生だけを招集して、ガレージから部室へと移動した。
「どう思う?」
私が言うと
「私は賛成です」
「私もです!」
七菜葉ちゃんと陽菜ちゃんが言った。
この2人は1年生と一緒に第二練習場車の制作に回っているから、思い入れがあるんだろうね。
「私は条件付きで賛成です」
沙綾ちゃんが言った。
「条件って?」
「あのままだと、ただのポンコツ車の展示になっちゃって、お客さんがしらけると思うんです。あの車をひと工夫してこそ、自動車部だと思うんです」
七海ちゃんが質問して沙綾ちゃんが見事に答えた。
沙綾ちゃんの回答は私の求めていたものを、そのままズバリと言い当てていた。
校門前の競技車2台は、悠梨ちゃんによって綺麗に外装が仕上げられている。ノートは赤と黒のツートンカラーだが、元々はシルバーだったのを、悠梨ちゃんがイメージしたテーマに沿って塗り直したのだそうだ。
エッセは地のオレンジを残しながら、カッティングシートでちょっと濃い目のグレーを入れて良い具合のアクセントと、猫の足跡が随所にちりばめられているのが結構くすぐる仕様なのだ。
メインのブースにはR32スカイラインが3台とシルビアが展示されている。
こちらは元々がスポーティな車種のために、外装がノーマルでもそれなりに人の目を惹く展示になるのは目に見えている。
それらと比べると、今回の議題になっている3台のうちアルテッツァ以外に関しては、ただのくたびれた車という印象しか受けないのだ。
これではやっつけ仕事だという印象を初見の人達に植え付けてしまう事になってしまうのだ。
確かに私が入学してきた時も、文化祭展示車製作のチームが悠梨ちゃんをリーダーに動いていたと思うので、その中にこういう使い古されたノーマル車が混ざっていると、折角の悠梨ちゃんの苦労が水の泡になってしまう。
私はそれを思うと次の瞬間
「今の沙綾ちゃんの話にもあった通り今の状態で出す事は、自動車部の活動としてどうかな? と思う。だから時間がないけど、みんなでアイデアを出し合って仕上げよう。先生と3年生の了解は取ってくるから!」
と言っていた。
すると、途端に誰からともなく拍手が起こってきて
「よしっ! やるっスよ!」
と七海ちゃんが言って部室を出ると、ガレージに向かって行った。
私は、3年生と教師水野を探しに行こうとしたところを、沙綾ちゃんに腕を掴まれて
「3年生と水野だったら、今から私と打ち合わせ入るよ。だから一緒に」
と言われた。
私は沙綾ちゃんと一緒に部室で3年生の到着を待つことにした。
すると、ガレージの方が騒がしくなってきたので見てみると、第二練習場の練習車の班にいつの間にか3年生が来ていた。
「あれ? 沙綾ちゃん。みんなあそこにいるけど……」
「おかしいな? 確かに部室でって言ってたのに……」
私の問いかけに、沙綾ちゃんはすっかり混乱した様子を見せていたが、直接訊いてみようという事になって2人でガレージに向かった。
ガレージに行くと、舞華ちゃんが私を探していたようで声をかけられた。
「燈梨ぃ、ガレージ作業が混みすぎてあぶれちゃってるよぉ。どの車がガレージの優先なのか決めてよ」
と言われた。
見てみると、いつの間にか第二練習場の練習車たちがガレージの前に置かれている。
そんな話は聞いてないんだけど、これってきっと教師水野の仕業だね……。
確か、第二練習場の3台に関しては、室内作業ばかりなのに対して、柚月ちゃんが土手に乗り上げたGTEは床下作業メインな上、ガレージのもう片方のスペースは、文化祭の展示車優先で進めていたため、舞華ちゃんにはそう返事をした。
すると、舞華ちゃんは、練習場車については教師水野の持ち込みみたいだから、直接聞いた方が良いという話をし始めたんだけど、そもそも教師水野は沙綾ちゃん達との打ち合わせでここに来ることになっていたのではないかと、私が言うと、舞華ちゃんは私を連れて教師水野を探し始めた。
そして、部室にいた教師水野を見つけると、舞華ちゃんは声を荒げて教師水野に詰め寄った。
あまりの剣幕に、教師水野は
「……申し訳ない。以後は無いように気をつける所存だ」
と言って下を向いてしまった。
更に舞華ちゃんは
「そんな政治家みたいな言葉じゃなくて、行動で表してくれないと、今までの部は、こんな事しかしてなかったのか……って思われるんですよ。 私は、後輩たちにはですね……」
とヒートアップして詰め寄っていった。
今回の忙しい最中の急な練習車の作業の無茶振りには、正直私も腹に据えかねており、一言言ってやらないと気が済まない……とさっきまで思っていたのだけど、舞華ちゃんのあまりのヒートアップぶりに、思わず次の瞬間、舞華ちゃんを止めに入っていた。
「ありがと。でも、もう大丈夫だよ」
「いや、何も解決してないよ。コイツは1回、けちょんけちょんにしておかないと、反省しないタイプだよ。 燈梨、放せ、はなせぇ~!」
私が舞華ちゃんを押さえながら言うと、舞華ちゃんは暴れながらまだ喰って掛かっていこうとしていた。
うん、大丈夫。
教師水野はこうやってコントロールしていけばいいんだね。
こうやって、ある程度ガツンと言っておかないと、彼女はこたえないタイプなんだね。
分かったよ、舞華ちゃん。
私は、彼女の肩を抱きながら彼女の目を見て黙って頷いた。
すると、舞華ちゃんは分かってくれたみたいで、ガレージへと戻ると、今の様子を窓から覗いていた七海ちゃん達が整列していて、おもむろに七海ちゃんが
「まるで忠臣蔵のような修羅場を見て、自分達も、もっと顧問に毅然とした態度で接するべきだと、考えを新たにしたっス!」
と舞華ちゃんに言って、舞華ちゃんはその事について七海ちゃんにも一言二言釘を刺していた。
そして、舞華ちゃんはその話題から話を切り替えて
「あ、燈梨。いきなりで悪いんだけど、悠梨の奴がさ第二練習場の練習車も展示したいって言うんだけどさ、ダメだよね?」
と思いもよらぬことを言ってきたので、拍子抜けしてしまった私は
「私はいいと思うよ……」
というのが精一杯だった。
本来なら、こっちからお願いしたいところだったんだけど……とか、言うのが正解だったんだけど、結果的にはうまく回すことに成功した。




