文化祭準備
2泊3日の耐久レースは、最高の結果で終わりを迎えられた。
元々3年生の目論見では、完走できれば御の字で順位は特に問わないというものだったらしいけど、まさか真ん中よりも上の順位に入れるなんて思いもよらなかったというのが、素直な感想だった。
その結果を学校にも胸を張って報告できたし、報告の時に教師水野と舞華ちゃんについて行ったんだけど、教師水野がこの結果がどれだけ凄いのかについて資料を用意してアピールしていたおかげもあって、学校側からの評価はとても上々だった。
それが功を奏したわけではないのだろうが、新しい練習場の貸与も受けて、これからやって来る冬に備えた練習もできるようになった。
そちらの準備とか、練習車両の制作とかも活動としてはあったんだけど、私たち2年生に課せられた最も大きなミッションはすぐ後に控える文化祭の準備というものだった。
3年生は、耐久レースまでで表舞台からは引退し、この文化祭からは私たち2年生が全てを切り回していかなければならなくなる。
そして、私にとってはこの学校で迎える初めての文化祭となる。なのに、この文化祭の総責任者が私なのだ……。
「大丈夫ですよ~。私がついてますから~」
七海ちゃんが言うんだけど、その横で沙綾ちゃんが
「ナミの言う事、真に受けないでくださいね。コイツは去年の文化祭の時にデマ流して、隣のクラスと同じ出し物やらせましたから」
と言って、七海ちゃんの脇腹を肘打ちしていた。
「それじゃ、どうしたら良いの?」
私が言うと、沙綾ちゃんは
「取り敢えず何か決める前に、私に確認してください」
と言った。
自動車部は新設の部で、文化祭の出店等のイベントの期限に間に合わなかったために、今年はお店を出したり、イベントごとを行うことはできず、展示のみとの事だ。
でも、なんで展示だけはできるんだろう?
「水野が、取り敢えず申請だけ出してたらしいっス」
七海ちゃんがボソッと言った。
どうやら、舞華ちゃん達が入部して、なんとか活動の存続ができるようになった際、取り敢えず何でもいいから……的なノリで申請だけはしていたらしい。
だから、一部の申請書類に当時の『自動車愛好会』の名前が見て取れる。
「ウチの学校は、愛好会、同好会、部の順で格が上がっていきます。なので、愛好会のレベルで展示場所が取れるなんて、当時あり得ないくらいラッキーですよ」
沙綾ちゃんが同じくボソッと言った。
教師水野の妙な引き運の強さもさることながら、この部って、いきなり2段飛び越しで部に昇格したんだね。
「普通、昇格も年度末にやるだけなんですけど、ウチの場合は部員が急に10倍以上に増えた上に、大会で3位入賞なんてしたから、学校側が慌てて格上げしたんですよ」
沙綾ちゃんが続けて言った。
大人の事情ってやつなんだね。
本題に戻って、今年の展示は2ヶ所で行う事になっている。
校門前のプロモーションスペースと、他の部やサークルが出店等をやっているスペースの2ヶ所だ。
本来は1ヶ所だったんだけど、耐久レースでの結果を聞いた学校側が、校門前で他の結果を残した部と一緒に展示した方が良いと急遽用意されたのだった。
なんか思うんだけど、凄く自動車部を推してません? 学校側が。
「ウチの課外活動は、アイスホッケー部、拳法同好会が暴力沙汰で、軽音楽部がトラブルで強制廃部になっていてイメージダウンが激しいので、自動車部をイメージアップに使いたいんっスよ」
私の疑問を察したようで七海ちゃんが言った。
確か、前に唯花さんがそんな事言ってた気がする。
この学校って、課外活動も奨励してるんだけど、その課外活動でここ何年か不祥事が続いていて、学校側が頭を痛めてたって……。
「だから、私たちが希望の星って訳です」
沙綾ちゃんが言った。
そうなのか、一応学校側からは期待されてるんだったら、しっかり期待に応えないとね。
まずは、校門前は部の成果の展示になるから、ジムカーナ大会に出場して3位に入賞したノートと、この間の耐久レースで完走したエッセの2台の展示は必須だよね。
「それと、以前に先輩方に頼まれて、耐久レースの結果を伝えるボードの作成をする事になってるんです」
沙綾ちゃんが言った。
なるほど、だから耐久レースの時にずっと第一コーナー奥の草むらにいたんだね。
「ええ、結構イイ感じに撮れてるのをいくつかセレクトしておいたので、ビジュアル的にも結構期待できますよ」
沙綾ちゃんが胸を張って言った。
前に七海ちゃんに聞いたけど、沙綾ちゃんって、子供の頃から写真とか映像とかが好きで、写真撮影に関してはコンクールに入賞するほどの腕らしいんだ。
本当は、写真部に入りたかったみたいだけど、キックボクシングの強さに目を付けたキックボクシング同好会に入部せざるを得ない状況になっちゃって写真部は諦めたんだってさ。
それじゃぁ、ボードと装飾の案は沙綾ちゃんに任せるとして、実際の車のレイアウトを考えて決めておかないとね。
正直、校門から入って来たお客さんは、お目当ての方に向かっていくだろうから、足を止めて貰うには、一瞬見てすぐそれと分かるものをバーンと置いておいた方が効果的だと思うんだよね。
だから、この車を2台向かい合わせるように止めて、部活動の集大成……みたいな感じで置いておくと、『なんでここに車があるんだろう?』という興味から足を止めると思うんだよね。
そこを沙綾ちゃんのボードで補完すれば、バッチリ部活動の意義が分かって貰えて、ここの展示は成功って事になると思うんだよね。
そこに、七海ちゃんがやって来た。
「燈梨さんっ! 大変です」
「どうしたの? 七海ちゃん、何かあったの?」
私が訊くと
「今、他のクラスの実行委員の娘から聞いたんですけど、市内の食品卸会社で食中毒があった関係で、いくつかの出店が中止になるみたいです」
と慌てた様子で言った。
七海ちゃんの話によると、この辺でこういう文化祭の出店をやるとなると、ここの他に同じような会社がもう1社あるのと、あとはスーパーで仕入れるっていうのがあるんだけど、今って他の学校とかも文化祭の時期だから、今更仕入れるって言っても難しいみたいで中止せざるを得なくなるみたいだね。
今のところ、中止が決定してるのはバドミントン部の焼きそば屋さんと、サバゲ同好会のお好み焼き屋さんの2つみたいだ。
「でもって、火を通すから別に関係なくないですか?」
七海ちゃんが言った。
「でもね、一応食中毒出しちゃった以上は、営業停止期間があるのと、火を通しても温度によっては死なない菌もいるからね」
私が言うと、七海ちゃんは心底驚いているようだった。
そうだった、七海ちゃんはお料理がダメで、今度私の部屋に来て教えるって約束したんだよね。
「それでですね。そうなると、空いた場所を急遽自動車部に割り当てて……っていう話が出ているみたいですよ」
「そうなの!?」
七海ちゃんの唐突な話に、私は思わず聞き返してしまった。
確かに、空きスペースをそのままにするのも殺風景だし、かと言って他の部の出店を広げるって言っても、もう機材とかも揃えてるから今更拡大するってのも難しいだろうね。
そこにいくと、自動車部は車を展示するっていう予定だから、並べ方や台数を変更すれば何とかなるだろうって目論見なんだろうね。
最近、スーパーとかで空きテナントの後が急遽ガチャガチャコーナーになってる事が多いけど、それと同じノリかな。
よし、そこを含めてみんなで話し合おう。
「ちょっと1、2年生、集合してー!」
「ハイッ!!」




