中弛み
私たちは急遽予定を変更して、1、2年生の活動を陽菜ちゃんと七菜葉ちゃんに託した。
マイレージマラソンが大半だけど、そこにシニアカー改バイクエンジンの手直しや、ダート出場車のパルサーの整備なんかも織り交ぜての活動をお願いして、1、2年生にこっちの動きを悟られないようにしたんだ。
そして、練習場をパイロンで区切ってコースを作り、教習車の中から一番サイズの大きいクルーを持ち出すと、七海ちゃんを運転席に乗せて、何がいけなかったのかを探す事にしたんだ。
助手席に私、後席に沙綾ちゃんと莉緒ちゃんの免許取得組が乗って逐一チェックするべく、まずは車に乗り込むところから始めたんだ。
まずは車の周囲をぐるりと回って安全確認をした後で、ドアを開ける前に周囲の安全を確認してから乗り込んでベルトを締め……たところで七海ちゃんはおもむろにキーを捻った。
「待った!」
「えっ!? なんっスか?」
私の厳しい指摘に七海ちゃんが素っ頓狂な声で言った。
「なんでギアの位置も確認しないでエンジンかけようとするの? もし、ニュートラルじゃなかったら、最悪は発進して目の前にいる歩行者跳ねちゃうよ」
私が言うと
「でも、ここに歩行者なんていないっスよ」
などと悪びれもせずに言うと、次の瞬間
「このっ! バカナミー!!」
という声と共に、後ろの席から沙綾ちゃんが七海ちゃんの頭をぱかーんと叩いたんだ。
「なにするんだよー、沙綾っち」
「だから仮免に落ちるのよ。『今ここにいない』とかいう問題じゃないの! だったらナミは、誰もいなかったら、ゴミ出し行くのに全裸で出かけるわけ?」
まぁ、沙綾ちゃんの例は極端だけど、言ってること自体は正しいんだよ。
七海ちゃんは予測も甘ければ、確認動作を平気で怠るような思考を正当化しちゃってるから、そりゃぁ、教官もダメ出ししちゃうだろうね……。
「とにかく他にも原因があるかもしれないから、まずは発進してみようよ」
私が言うと、キーを捻って今度こそエンジンがかかった。
優子ちゃんが寄贈していった部車のクルーに乗り慣れているせいか、同じクルーでもこの教習車には違和感を感じてしまうんだ。
やっぱり6気筒に馴染んでしまった私たちには、このLPGで4気筒のクルーは妙に軽い感じがする音が気になってしまうんだよね。
「なんか、このクルーは薄っぺらい感じがするっス」
と怪訝な表情で言った七海ちゃんが、おもむろにスタートさせた。
まぁ、発進させて走らせた感じはすっかり手慣れていて、クラッチのミートポイントもしっかり掴んでいるので、変にエンストしたり、車がガクガクしてロデオ状態になったりする事は無いのは、さすが部車と軽トラックで鳴らしただけの事はあるね。
そんな事を思いながらも七海ちゃんの動きを逐一チェックしながら、一時停止後のクランク区間にやって来た。
「七海っち、待った! ストップ!」
後ろの席から莉緒ちゃんの声が響いたんだ。
確かに、これは私も気づいていた事だから、莉緒ちゃんのストップが無ければ、私が補助ブレーキで強制終了させようと思っちゃったんだよ。
「なに?」
七海ちゃんは鳩が豆鉄砲を食ったような表情になって言った。
「停止線で止まれなかったら、それはすなわち一時不停止、立派な違反だよ~」
「そんな事ない! ちゃんと止まったよ!」
ニヤニヤしながら言った莉緒ちゃんに反発したのか七海ちゃんが喰って掛かっていたところ、沙綾ちゃんがドアを開けながら
「だったら、今ここでどっちが正しいのか検証しようじゃないの!」
と言って前輪を見たんだけど、私たちがさっきラインマーカーで引いた線の真上は、前席ドアの3分の1が被っている状態だった。
「なにか言い残す事、ある?」
沙綾ちゃんがフラットな声のトーンで言った。
「なんだよ沙綾っち、殺す気かよ」
「アンタに謙虚さが欠片も無いからよ! みんなの心配を何だと思ってる訳?」
七海ちゃんが驚いて言った言葉に、沙綾ちゃんはほとほと呆れたように言ったんだ。
その後もコースを走らせてみた七海ちゃんの運転は、クランクでの脱輪や踏切前での停止線越え、一時停止時に止まった『つもり』運転など、枚挙にいとまがなく、更にそのほとんどが、ベテランドライバーにありがちな気の緩みから来るようなものばかりで、とても初めて免許を取りに来る女子の運転とは思えない代物だったんだ……。
ひと通りコースを走り終えた時、私はため息交じりに言ったんだ。
「七海ちゃんの今の運転、40点だね。合格点に遠く及ばないよ」
「ええっ!? どういう事っスか?」
「ひと言で言うなら、今の走りって免許取得後20年以上運転してるおじさんとかの、気の緩み切った運転だよ」
「そんなぁ……」
七海ちゃんは頼みの綱だった私にまで辛辣に言われてしまって、下を向いてシュンとなってしまった。
私も、七海ちゃんが憎くて言ってる訳じゃなくて、あくまで客観的に言ってあげないと、これから一発免許のやり直しにするにしても話にならないだろうから、敢えて言ったんだよね。
……しかし、これだとどうにもならないので、私はどうしたら良いのかを考えたんだ……。
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