憂鬱と校務の正体
みんなが昨日の莉緒ちゃんのフェアレディZの話題で持ちきりになっていたその日の朝、七海ちゃんはやけに浮かない顔で学校にやって来たんだ。
「ナミ、あんた昨日はどこ行ってたのよ? みんな、心配したんだからね」
「え? うん……まぁ……」
沙綾ちゃんの問いかけにも上の空といった感じで答えていた。
なんかおかしいね。
七海ちゃんってさっぱりした性格だから、隠し事とかってできない質だし、どんな時でもハッキリと理由なり主張をするはずなんだよね。
その七海ちゃんらしからぬ言動に、私たちはみんな驚いてしまったんだ。
「七海っちどうしたの? 落ちてた肉まんとか拾って食べちゃったの?」
七菜葉ちゃんの明らかな冗談にも
「え? ……いや違うよ」
なんて真顔で答えてるから、明らかに重症だね。
そして机に突っ伏して寝ちゃったんだよ……こりゃぁ処置なしだね。
私たちは顔を見合わせて困ってしまったんだ。
そんな調子のところに莉緒ちゃんがやってきたんだ。
「おぉーっす!」
「おはよ」
ひとしきりの挨拶の後に、陽菜ちゃんがやって来て莉緒ちゃんに訊いていた。
「それにしても、昨日の莉緒ちんのZ32には驚いたよねぇ……ところで、あれってどのくらいいじってるの?」
「マフラーとエアクリだけだけど、タコ足も持ってるみたいだから、課題に合格したらつけてくれるって」
「課題って?」
「タイムアタックだって……」
「ほぇーっ!」
2人でフェアレディZの事について盛り上がっていたところ、それを聞いていた七海ちゃんがガバッと起き上がって
「Z32って、莉緒っちはZ乗ってるっての?」
と訊くと、陽菜ちゃんと七菜葉ちゃんが
「うん、そうだよ」
「昨日は初披露って事で、みんなで触りまくっちゃったよ」
と、昨日の事を思い出しながら、ちょっとうっとりしたような感じで言ったんだ。
すると、今まで黙っていた沙綾ちゃんまで
「ハチロクみたいな軽快な感じも好きなんだけど、Zのあの重厚感と爽快感のあわせ技も魅力なんだよねぇ……」
なんて運転した感想を口にしていたんだ。
すると、七海ちゃんがプルプルと震え出して
「ズルい! 私も見たかったのに、なんで私がいない時に乗ってくるのよっ!」
と、いつもより鋭い声で言ったんだ。
その気迫に私は思わずたじろいじゃったんだけど、みんなは平然とした表情だった。
そして、沙綾ちゃんがスマホを見ながら一言
「何言ってるのよ。昨日誰にも言わないで休んだのはそっちじゃない。なんでそんなのに気ぃ遣わなきゃならない訳?」
と、興味なさげにボソッと言い捨てた。
「『そんなの』とはなんだよぉー」
七海ちゃんが絡むと
「『そんなの』だから『そんなの』って言ってるのよ。もっとハッキリ言ってあげましょうか? なんでそんなゴミに気ぃ遣わなきゃならない訳?」
と、沙綾ちゃんは更なる煽りを入れてきた。
「このぉー! 誰がゴミなんだよ!」
七海ちゃんが遂に怒り出して沙綾ちゃんに向かっていったけど、七海ちゃんの正拳を沙綾ちゃんが素早く避けて空振りし、七海ちゃんがバランスを崩してよろけたところに“バシッ!!”と鋭い音がして沙綾ちゃんの足払いを喰らった七海ちゃんが床に伏してしまったのだ……。
その状態の七海ちゃんに喉輪を決めた沙綾ちゃんは
「ゴミだからゴミって言ったの! そんなウジウジして周りの空気を悪くしてる奴なんて、ゴミ以外のどんな称号があるっていうのよっ!」
と言って馬乗りになると、更に続けて
「さっさと隠してる事を吐いちゃいなさいよっ! 昨日はどこに行ってて、なんで今日は朝からおかしいのよっ」
と言ってグイグイと喉輪を締め付けていったんだ。
私は、その様子をただただ驚いて見守るしかできなかったんだけど、その様子を見ていた七菜葉ちゃんが、私の耳元で
「大丈夫、大丈夫! これでもあの2人、じゃれ合ってるだけだから」
と囁いたんだ。
私には本気の喧嘩に見えるんだけど、あの2人にとってはじゃれ合いなんだね……。
そして、涙声になりかかった七海ちゃんの口から遂に昨日の真相が語られたんだ。
どうやら、七海ちゃんは免許センターに行って、一発試験に臨んだのだそうだ。
なるほど、だから学校を校務扱いにして課外学習できたんだね。
最初の仮免の学科試験は、傾向と対策の勉強をしっかりとやったので危なげなく合格したんだけど、次の実技で落ちてしまったのだそうだ。
「あんたなら逆じゃないの? バカナミが学科に受かって実技で落ちるなんてさ、明日は台風が直撃するんじゃない?」
沙綾ちゃんがまたもやボソッと言って、七海ちゃんを挑発して、七海ちゃんがジタバタ暴れていたけど、馬乗りになってるから、そう簡単には解けなかったんだ。
しかし、仮免の実技で落ちるって、七海ちゃんは初めての4輪免許取得だけど、部車なんかで散々練習しているから、結構な場数を踏んできているはずなんだ。
それって相当細かなところまでチェックされているって事だよね。
私のその日は、やたらと忙しいものになったんだ。
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