取材
チェッカーフラッグを受けて、私たちはピットへと戻った。
ドライバーがチェッカーを確認した後、1周してからピットに戻るため、私たちの方が先にピットへと戻った。
私たちが戻ると七海ちゃんが
「やったっスー! 完走したっスよー!!」
と感激しながら駆け寄ってきた。
しかも、上位には入れなかったものの、中の上の中でも上の方に初出場ながら喰い込む事ができたのだ。
その余韻に浸る間もなくエッセが戻ってきた。
到着すると共に、最初に打ち合わせていた通り、ボンネットを開けてエンジンの熱を逃がしながら舞華ちゃんのベルト外しを手伝った。
ノンターボのノーマルエンジンでノーマルマフラーのエッセでも、6時間ぶっ通しで走っていたためにエンジンルームの熱は物凄いことになっており、水温計で示される数値以上に熱い空気が外へと排出されて、ボンネットを開けた私と七海ちゃんはあまりの熱気に飛び退いてしまった。
3年生が完走の余韻の中、私たち2年生は車のデータ取りとクールダウンの作業に取り組んでいた。
ここまで連続で高速走行を続けていたエンジンを突然カットするのはエンジンに良くないため、水温が下がって、各種の数値が安定するのを待ってからエンジンをオフすることにした。
ようやくエンジンをカットした頃には、沙綾ちゃんがリザルトを画像に撮ってきており、それを見た。
リタイアやペナルティの集計も全て終わった最終結果は、私たちのチームはチェッカー時の順位と変わることなく初挑戦とは思えないほどの好成績だった。
私たちはそれを見ると思わず戻って来た舞華ちゃんを取り囲んで、一斉にみんなで胴上げした。
「なにするんだよ~! 私は何もしてないぞぉ~!」
舞華ちゃんは言ったけど、私は
「そんな事ないよ! 舞華ちゃんの采配と最終走者としての走りが無かったら、ここまでの結果になってないでしょ!」
と叫ぶように言うと、周囲のみんなが全員異論なく頷いた。
続けて柚月ちゃん、優子ちゃん、結衣ちゃん、悠梨ちゃん……と3年生全員の胴上げが終わってお開き……と思ったところで、何故か私もみんなに掴まれて胴上げされていたので
「なんで私? 2年生だし!」
「燈梨さんの動きなくしても、今回の結果は得られなかったっスよ! 燈梨さんも功労者っス!」
私が言うと、七海ちゃんが即座にそう返して、他の2年生の娘達も異論なしで私の胴上げを積極的にやってきたのだ。
いつの間にか胴上げ大会の様相を呈してきたが、閉会式のアナウンスが入ったため、集合場所までみんなで移動した。
閉会式も終わって、後片付けに入っているところに、昼間の雑誌社の人たちが再びやって来た。
さっきと違って女性の人も一緒で、主にインタビューはその人がやっていた。
その間も、私たち2年生は一心不乱に片付けを進めていた。
ガソリンの給油缶や、工具類、更には万一のために用意しておいた交換用のタイヤ/ホイールをエッセの中に積み込んで、ベルトで固定できるものはした上で、忘れ物がないかを皆と一緒にチェックしていた。
「リスト上の物は全部チェック済みだけど、念のため七海ちゃんもダブルチェックしてね」
「了解です!!」
七海ちゃんは渡されたチェックシートに従って積み込まれた物資の確認をしていた。
私は、ピット内に落とし物や忘れ物がないかを改めてチェックしていたが、その時
「お~い、燈梨ぃ。ちょっとこっち来てよ~」
と舞華ちゃんが言うので、そちらの方へと合流した。
舞華ちゃんと教師水野は、さっきの人たちから取材を受けているようで、あれこれと受け答えをしていたが、私がやってくると
「燈梨も2年生が今日どんな役割を果たして、事前準備にもどれだけ多大な貢献をしたのかを言ってやってよ」
と言うと、2人は私の方にも目を向けるようになっていった。
私は驚いて舞華ちゃんの方を見ると、舞華ちゃんは嫌そうな顔で目配せしているので、どうやら聞かれたくない内容についての質問のようだ。
確か、舞華ちゃんはお兄さんが元レーサーで、その後自動車誌のレポーター兼編集者であった過去をあまり快く思っていないという話を聞いたことがあるので、恐らくその辺の事について聞かれているのだろう。
私は、2年生が車両の細かい部分の製作に関わった話しや、今日のピットでのそれぞれの役割についてなどの話をしてから、各選手のインタビューをしてはどうかという話を振って柚月ちゃんにバトンを渡した。
先方の話を聞いていると、このレースに参加しているのはほとんどが社会人チームばかりで、学生チームもいない事はないのだけど、大学の自動車部がいくつか……という状況なので、高校生で且つ創部初年度、更には女子だけで初戦完走で決して悪くはない成績という今回の結果は、物凄く目を惹くものだと言うのだ。
なので、結果として物凄く興味を持たれて、食い入るように矢継ぎ早の質問攻めに遭ってしまったのだ。
私がインタビューから逃れて物陰に行くと、舞華ちゃんがやって来た。
「燈梨ぃ~お疲れっ!」
「もうっ! 酷いよ、いきなり無茶振りしてさ」
私がふくれっ面で突っかかると、舞華ちゃんは表情を曇らせて言った。
「ゴメンゴメン。あいつらしつこくてさ、聞いてくる話も同じような事ばっかりで嫌になっちゃってさ」
「同じようなって、例えば?」
「私らの中に、カートだとかバイクレースの経験者はいないのか? とか、特別な練習メニューがあったんじゃないか? とか、なんか普通にゆるゆる~っとやっての結果っていうのにはしたくない感がプンプンしててさ……」
それを聞いて私も確かにそんな気がしていた。
私のインタビューの中でも、何か他に特別な事をしていなかったのかをやたらと聞いてきたのだ。
しかし、色々と事前打ち合わせをしていても、当日はその通りにいかずにグダグダになってしまったり、第三ドライバーの優子ちゃんのメンタルの乱れで強制ピットインによる交代など、目の前の出来事に右往左往していただけのポンコツぶりなのだ。
特別な事などしているわけがないのだ。
そこに柚月ちゃんがフラ~っとやって来た。
「柚月、終わった?」
舞華ちゃんが訊くと
「もう~、同じ事ばっかり聞くからさ~、嫌になっちゃったよ~」
と舌を出しながらインタビューを受けていた方を向いて言った。
その後、柚月ちゃんの話も聞いたが、やっぱり同じような事を聞かれていたようだ。
「でも、次は優子だからね」
「そうだね~、さすがに向こうが参るかもね~」
2人は言うとニヤリとした。
私はよく分からないので訊いてみると、優子ちゃんは、普段の様子とは全く異なっていて、ああいう場では物凄く喋るのだという。
私は物陰からそっとそちらの方を見ると、さっきまでの沈んでいた表情とは打って変わって得意気な表情の優子ちゃんが饒舌に話しているのが見えた。
その私の様子を見ていた舞華ちゃんが言った。
「ほらね。どうせ優子の奴、頼まれもしない事をベラベラと喋ってるに決まってるんだよ。どうせ、どんな部車があるとか、走ってもないジムカーナ大会の話とかね」
「だね~。まるで自分が出場したみたいに偉そうにね~。優子は整備だってロクにできなかったのにね~」
柚月ちゃんもそれに合わせて言った。
「でもさ~、これだけインタビューされても、もしかすると載らないかも……とか言ってたんだよね。マジかよ? って感じだよね」
舞華ちゃんが不満そうに口を尖らせた。
「やっぱり~、マイあたりが面白い事、言っとけばよかったんじゃない~?」
「柚月がパンツ脱げばよかったんだよ」
「そんな事したら、載らないもん~!」
柚月ちゃんの言葉に応酬して、いつもの2人の掛け合いが始まったところに
「全員集合ー! 撮影するそうですー」
と七海ちゃんの声がして、私たちは車の前へと集合した。




