設営の妙
「みんなの作業の進捗は、毎月末に発表して貰って、自分以外でどれが良かったのかを投票して貰おうと思うんだ。そして、そのポイントが最も高かった車を……」
私はそう言ってみんなを見ると、みんなはすっかり固唾を飲んで私の次の言葉を待っていた。
良かった。みんなの興味は惹けたみたいだ。
もし、ここでみんながしらけていたらどうしようかと思ったんだけど、それは無いみたいで安心したんだ。
それを確認した私は、ホッとしつつも、不安を押し殺しながら続けた。
「文化祭のメインブースで活動の成果として紹介しようと思うんだ。どうかな?」
正直、去年の文化祭は、急遽の展示となったために成果については競技での結果くらいしか発表していなかったんだけど、今年に関しては色々と発表できることが多いんだ。
その中で今のところ最もインパクトのあるCR-XのEV化と共に、大々的に発表できる成果として、投票で選ばれた車を展示しようと思ったのだ。
私は、様子を見るようにあたりを見回すと、シーンとしたまま、誰も身じろぎ一つしなかったため、私の中を物凄い不安が支配して、押し潰されそうになってしまったんだ。
しかし、次の瞬間
「それは凄いっス! となると、私の活動が文化祭のメインの1つとして発表されるって事っスね!」
と七海ちゃんが言ったのを皮切りに
「なに言ってるのよバカナミっ! アンタな訳ないでしょ。私のよ!」
「いーや! 私のだね!」
「大体何するか決まってもいないのに、なんでそんなに自信満々なんだよ!」
と、沙綾ちゃん、七菜葉ちゃん、莉緒ちゃんが争い始めた。
良かった。成功のようだ。
◇◆◇◆◇
その日のうちに、新3年生の割り当てはあっさりと決まった。
七海ちゃんに関しては、元々やっていたスターレットのプロジェクトを継続したいという事なので、それでOKし、沙綾ちゃんはブルーバードでやりたいと立候補したために、すんなり決まった。
莉緒ちゃんは私とエンジン積み替えを一緒にやって、その後のクルーの担当で決定したし、その他の娘も、それぞれ希望した車でやれる事になったんだ。
割り当てが決まったところで、プロジェクトの内容に関しては、春休み中に案を練ってきて、新学期までに発表するっていう事にしたんだ。
ひとまずその話は終了して、次に入学式後の部活紹介についての打ち合わせに入ったんだ。
自動車部の人気は相当なものがあるらしく、入学希望者の中でアンケートを取った際、興味のある課外活動の中で第2位だったそうだ。
なので、入学式後の紹介でも、期待されている事に対してしっかりとアピールしておけば、新入生の入部希望者も沢山やってきて、部員の大幅増っていう事も期待できるんだ。
そんな話をして、みんなで案を出し合おうと提案したところ
「自動車部の人気は、やっぱり競技で強いってところと、車に乗れるってところなので、まずは去年の対外的な競技の実績のアピールっスね!」
と七海ちゃんが真っ先に言ったんだ。
「それと、学校ウケも考えて、交通安全講習での積極的な役割と、EVを作ったっていう技術的なアピールも大事だよね」
と陽菜ちゃんが付け加えた。
確かに、自動車部って言うと運転技術もさることながら、技術面での優れてる感じもあった方が、多彩な部員が集まるよね。
それに、これからの時代は環境配慮やSDGsなんかにも気を遣っている部だっていう事をアピールする事で、自動車部を暴走集団だと思っている層に対する誤解の解消にもなるよね。
「あと、学校ウケっていう点で言うと、運動部の動かないトンボ車を直したり、EV化させた実績に関してもアピールするべきだと思うんだ」
陽菜ちゃんが言った。
確かにこれもそうだね。
こうやって、他の体育会系部とも密接に協力関係だって事をアピールしておけば、学校ウケも、新入生に対するウケも悪くないと思うんだ。
よしっ、それを踏まえてブースづくりをやるよ。
それから、ブースづくりに関して前に教頭先生から言われていた事を形にするべく、私はみんなに言った。
「それから、ブースの件なんだけど……」
そう言った私を見るみんなの視線は、明らかになんとか学校を説得して広い面積のゲットに成功した……という結果を期待するものだった。
私は、さっきと同じような言い知れぬ不安を抱えながら言った。
「残念なんだけど、広さに関しては他の部と変わらない従来通りのものになるんだ」
「ええー-っ!?」
「ガッカリです……」
私の発表に対するみんなのリアクションも予想通りのものだったので、心が折れそうになったが、ここで負けていては部長失格だと、自分を鼓舞しながら私は続けた。
「でも、広い面積取るなら、校庭の端っことか、他の部のブースの後ろになるけど、それでも良いの?」
「イヤですー-!」
「そんな場所じゃ、新入生の半分以上が帰っちゃってますよー」
やっぱりブーイングが起こった。
ちなみに新入生の部活紹介は、体育館の出口からスタートして、校庭を一周して裏門から出ていくという一方通行のコースなんだけど、前半の部に捕まって勧誘攻めに遭った後で疲れちゃった新入生の興味は、後半に行くほど薄れていって、最後の方は無視されてしまうケースが殆どだそうだ。
しかも、校庭の中盤には、球技系の部活用のトイレがあって、そこに行くふりして正門から帰ってしまうという裏技が公然と使われているために、中盤以降は新入生の数が激減するのだそうだ。
「端っこは大抵、フィギュア愛好会か、鉄道模型同好会の定番席っス!」
アマゾンが言った。
どうも過去数年にわたり、校庭の端は広くスペースが取れるために、その2つの部がジオラマを広げる定番として取り合っているそうだけど、残念ながらそれを見ていくほど新入生には余裕は無いそうだ。
「燈梨さん、今ひそかに私の事を心の中でアマゾンとか呼んでなかったっスか?」
「ひそかにじゃなくて、大っぴらに呼んでるよ。アマゾン!」
「アマゾンじゃないっス! こうなったら春休みのアマゾンキックっス!」
沙綾ちゃんたちに羽交い絞めにされてもがいているアマゾンは放っておいて、私は話を続けた。
「とにかく、この二択しかないんだよ。広く場所取る代わりに辺鄙な位置になるか、良い場所取る代わりに狭くなるか。どっちかしかないよ!」
すると、みんなはシーンとなってしまった。
だろうね。一応次期校長が内定している教頭先生がバックにいるこの部だから、何とかなるんじゃないかって思っていたんだろうけど、現実はこうなんだよね。むしろ、教頭先生がいるからこそ公平にジャッジしたっていうのもあるんじゃないかな?
でも、教頭先生も何もなく言い放ったわけじゃなくて、ちゃんと代案は用意してくれた上での事だから、私は冷たいとは思わなかったんだ。
そして、私は教頭先生の親心を噛みしめながら言った。
「だから、代わりに自動車部らしいブースを作れば良いんだよ。その分の予算は勝ち取ってるからね」
「ええっ!?」
みんなはその言葉にビックリした様子で喰いついてきた。
そうなんだ。普通はこのブースにかかる予算なんて、部費の中から捻出するのが普通だし、しかも、その額も凄く少額で、100均で予算を見ながら装飾品買うようなレベルなんだ。
そこを大盤振る舞いして貰ったんだから、その親心を無駄にはしたくないよね。
すると、七菜葉ちゃんが
「でも、『自動車部らしい』ブースって、どんな感じなんですか?」
と不安そうな視線で訊いてきた。
そこで、私は言ったんだ。
「ブースに机を置かないで、車を置くんだよ」
「ええー-っ!!」
みんなの驚きようはハンパなく、窓ガラスがビリビリと震えるほどだった。
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