春休みの決意
卒業式も終わって綾香も引っ越していき、もう私たちが3年生として動き出さなければ……という決意を新たにした春休み初日、私は新3年生の部員をガレージに集合させたんだ。
「どうしたんっスか? 春休みは短いんだから、ゆっくり休みましょうよ~」
なんて寝ぼけた事を言っている七海ちゃんに、フェイントモーションから回し蹴りを喰らわせると、見事に脇腹に入って七海ちゃんはのたうち回っていた。
ウン、柚月ちゃんの言う通りだね。
柚月ちゃんに七海ちゃんの制し方について訊いた時、ズバリ七海ちゃんはフェイント攻撃に弱くて、尚且つ左脇腹のガードが甘いって言ってたんだよ。だから、逆方向へのフェイントから左脇腹に抜ける回し蹴りが有効だって教わって、特訓させて貰ったんだ。
「おのれ~、ズッキー先輩め~! 私を燈梨さんに売ったんだな~!」
地面をゴロゴロと横たわりながら喚き散らす七海ちゃんを尻目に、私はホワイトボードを運んできて、書かれている文字をみんなに見せた。
そこには
『新学期からの活動目標』
というフレーズと、8月までの各月の表題が書いてあるんだ。
つまりは、上半期の活動目標を決めていこうっていう集まりなんだ。
「夏までの活動について、ここで決めていこうって言うんだね」
「うん、ただ勿論、急に入ってきた部車だとか、急遽のイベントとかがあるのは別としても、ただタラタラと活動するんじゃなくて、目標は必要だと思うんだ」
莉緒ちゃんの問いかけに私は答えた。
去年は、舞華ちゃん達が急遽教師水野に召集されて始めた部活だったから行き当たりばったりなところがあったんだけど、今年は部員数も比べ物にならないほど増えたし、体育会系御三家入りしている事もあって、年間計画をしっかり策定して、どういう風に活動していくかを学校側に示していく必要があるんだよ。
「まず、大まかに決まっているところは私で書いておいたから、大会に関しては、大体1~2ヶ月前から準備期間で、活動もそっちがメインになると考えてね」
私が書き込んでおいたのは4月の新入生勧誘、6月のジムカーナ大会、7月のダート大会、更に10月の軽自動車の耐久レース、11月の文化祭、そして時期不詳ながら高校生EV大会……と言ったところだった。
「でも、競技の準備って言っても、事務的な事がメインじゃないんですか?」
「それは甘いよ。車っていうのはいつ何時調子を崩すか分からないんだ。特に部車なんて、使わない時期があったりするから、その傾向が強いんだ」
陽菜ちゃんの質問に私が答えた。
これは以前に色々な本やサイトを見た際にも書いてあったし、コンさんや沙織さんに聞いた事があるんだけど、きちんと整備されている前提で、毎日乗っている車と、たまにしか乗らない車では、圧倒的に毎日乗っている方が調子が良く、また、致命的な不調になりにくいという体験的データがあるのだそうだ。
これって、いくら身体能力が高い人でも、いつも寝ていて、起こされたと思ったら全力疾走させられて、また寝て……を繰り返しているのと同じで、そんなんじゃいつ怪我してもおかしくないよね……って言うのと状況的に同じなんだよ。
「でも、もうほとんど書かれてるよね。これで完成で良くない?」
沙綾ちゃんが言うので
「違うよ。これは大まかなものなんだ。そこにみんなの意見なり、やりたい活動を書いていく事で、活動カレンダーは完成するんだよ」
と言った。
私が書いたのはあくまで学校行事や、出場競技がこの時期にあるという目安であって、これだけをやっているなら、大会だけを目標にしている部活動になってしまって、それは大会に出られない大半の娘にとっては、凄く面白くないと思うんだ。
だから、それ以外の時、または大会準備をしながらでもできる事、やりたい事を計画的にやっていく事によって、みんなが楽しく活動できる部になると思うんだよ。
「あくまでここに書かれているのは決定された行事だから、それ以外の活動をみんなで案を出してやっていく部にしたいんだ。つまり全員参加型なんだよ!」
私は強調するようにもう一度言った。
せっかく部車もたくさん集まってきて、色々な方向性がある部なんだから、これがやりたいっ!っていう思いで、チャレンジしていって欲しいんだ。
「でも……それ以外の活動案って言われても……」
と七菜葉ちゃんが怪訝な表情で言った。
これも私には想定されていた返答で、以前の私だったら、どういう後ろ向きな理由を探すだろうか……というのを、この数日色々考えていて、その対応案を考えていたんだ。
なので、私はおもむろに赤マジックを取ると、4月の予定表に書かれている予定の下の行に
『クルーのエンジンをRB20DEに載せ替え(鷹)』
『ブルーバードのミッション&デフオイル交換及びタイム計測(鷹)』
と書き込んでいった。
最後の鷹は鷹宮の頭文字で、私の事だ。
「ええっ!?」
七菜葉ちゃんに限らずみんなが驚いて言った。
この2つについては、誰にも言った事のない作業で、且つ学校行事には何ら関係ない作業だからだ。
「私は、部車の中でこの2台の作業はやってみたいと思ってるの。だから、これは個人的にやらせて貰うよ! みんなもこういうのってあるんじゃない?」
と投げかけると、みんなは一瞬戸惑いの表情を浮かべたけど、すぐさまマジックを奪い合って、あちこちに色々な作業を書き込んでいった。
これの持つ意味は2つあって、1つ目は、みんながどの部車に関心があるのかを知っておきたかったという事、そして2つ目は、それぞれの部車において、責任者って訳じゃないけど、プロジェクトリーダーを置いて、みんなそれぞれが主体になって1台の部車を仕上げていって欲しいという事なんだ。
これだけたくさんの部車が集まってくると、自然と好き嫌いで人気になる部車と不人気になる部車が出てきて、結果、不人気な部車には関心が向かなくなって、そのうちに整備もされなくて動かなくなり、廃車っていう憂き目に遭うっていうのが、自動車部あるあるだって、以前に聞いた事があるんだ。
でもって、ここの部車の多くは、教師水野がなるべくお金がかからないようにしながらも、最高の物を集めようと、あちこちのコネクションを利用して苦労して集めたものだから、無駄にはできないんだよ。
それに、一度廃車になった車とはいえ、ブルーバードとか、クルーとか、セフィーロなんて結構希少な車種があるからね。
さて、みんなが書いた予定表を見ると、やっぱりスカイラインのクーペとRX-7、シルビアに集中してるね。
そこで私は、みんなの主体性を起爆させたところで言った。
「それじゃぁ、みんなには今から各1台、割り当てられた部車の責任者になって貰うから、リーダーとして、きっちり毎月管理して貰いたいんだ」
「ええー-っ!?」
予想通りの反応だった。
恐らくみんな、さっきの3車種を中心に活動したかったんだけど、部車はそれだけじゃないからね。
なので、私はそれらの車種の上に『直』と丸印をして
「これらの車は、誰かが独り占めすると遺恨が残るだろうから、部で管理するよ」
「そんなぁー!」
私が言うと一斉にブーイングが起こった。
分かるけど、例えばこれを誰か1人が管理すると、七海ちゃんとか陽菜ちゃんが面白くないだろうし、当たらなかった娘が不貞腐れて自分の管理車両の作業に身が入らなくなるかもしれないんだ。
だから、これらの高性能なスポーティカーは共有するっていう事でいきたいんだ。
ただ、それだと地味すぎて嫌だ……と活動しなくなる事も考えられるので、私はとっておきの策を出したんだ。
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