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シート交換

 「うんっ、それじゃぁ、放電している時間でシートも交換しちゃおう!」


 私が言うと、みんなは


 「ハイッ!!」


 と言って、車内に飛び込むように入って行った。

 今回は、前の席のシートを換える事になった。

 もう既に決定されていた事項ではあるが、その概要と理由は分かっている。


 このエッセの前の席のシートは、ヘッドレストが分離せずに背もたれと一体となっているタイプなのだ。

 このタイプのシートの場合、この後で取り付けなければならない4点式シートベルトという、よくレースカーとかについている両肩を押さえるタイプのベルトが取り付けできない。

 しかも、このシート自体が廉価版用で平べったい作りになっているため、カーブなどの横傾きで身体がズレた際に、抑えになる出っ張りがないために交換する必要があるのだ。


 本来なら、バケットシートというレースカーに使うようなものに換えるのが一番良いのだけど、予算の問題と、複数のドライバーが入れ替わる耐久レースという性格上、体形の違いによる調節幅が必要だという事もあって、今回は、同じエッセでもスポーティなグレードであるカスタムというタイプのシートに交換することになった。

 シートだけをどこで手に入れたのかは分からないが、舞華ちゃん達の話によると、恐らく教師水野が、近くにある解体屋さんから貰ってきたのではないかという事だった。 


 みんなに注意事項を伝達しながら早速シート外しはスタートした。

 

 「まずは、ボルトを4本外すんだけど、どっちかにスライドさせないと取れないから、まずは前側から外すよ」

 「ハイッ!」


 返事と共に、シートを後ろへとスライドさせたみんなが2ヶ所のボルトを見つけると、一斉に取り掛かった。

 とは言っても、ボルトは1つずつしかないので、回すのは1人に限られるのだが、みんなでワイワイと1台の車に取り掛かる様は、見ていてとても微笑ましいものだった。


 「終わりましたっ!」

 「それじゃぁ、今度はシートを前にスライドさせて、後ろのボルト2本を同じ要領で取り外してみよう」


 同じようにみんなが取りかかっていく中で、スペース的に作業に参加できなかった、志帆ちゃんと真由ちゃんがやって来て


 「燈梨先輩、助手席をやってしまって良いですか?」


 と訊いてきたのでふと見ると、用意されたシートは2脚あったので


 「そうだね、よく気がついたね。じゃぁ、お願いするね」


 と答えると、2人は嬉しそうに助手席側のドアを開けて作業に取り掛かった。

 運転席側がボルトを外し終えてシートを持ち上げようとしているのを見て私は言った。


 「待って! シートベルトの受けの先にハーネスがあるから、先に外さないとシートが外れないよ!」


 私の声で、シートを持ち上げて外に運び出そうとしていた1年生達を、七菜葉ちゃんと陽菜ちゃんがストップして底面を見ると、シート脇のバックルの先から伸びた配線がしっかりと床に固定されていたので、慌ててハーネスを外してフリーにした。


 そして、私は思わず次の指示を出していた。


 「みんなっ! この車は後席のドアもあってドアの開口部が狭いから、気を付けてシートを運び出さないと、レールでボディに傷がつくからね」


 すると、運び出そうとしていた一行と、それを見ていた七菜葉ちゃんと陽菜ちゃんが、驚いたような表情になった後で、元気よく


 「分かりましたっ!!」


 と言って、シートを運び出していった。


 「今度は、逆の手順で取り付けるんだよ」

 「分かりましたっ!!」


 みんなが取りつけるカスタムのシートに手をかけて運び込むと、早速逆の手順で取り付け始めた。

 その間に、私は志帆ちゃんと真由ちゃんの作業の合流した。

 レンチをセットすると、私も残ったボルトを緩め始めた。


 「燈梨先輩っ! 運転席側の作業に行かなくていいんですか?」

 「そうですよっ! こっちは私たちに任せてください」


 志帆ちゃんと真由ちゃんが口々に言ったが


 「運転席は、さっきと逆の手順でやれば良いんだよ。それに、七海ちゃん達がいるし。でも、こっちは2人だけで、全然手が足りないじゃん」


 私が言うと


 「私、助手席を手伝います!」

 「私もお手伝いさせてください!」


 と、更に2人やって来た。

 そう、みんなで協力しながらやれば、シートの交換なんて大掛かりに見える作業もあっという間に、そして楽にできちゃうんだよ。

 運転席側の作業から人が移ったおかげもあって、助手席は滞りなくシートの交換が終わった。


 「なんか、普通ですね」


 塔子ちゃんが言った。

 私も見ていて思った。

 いくらカスタム用とは言え、元々がスポーティさのかけらもないエッセなので、カスタム用のシートで、ようやく通常グレードの乗用車のシートくらいなのだ。

 しかし……


 「でも、座り心地は全く違うよ」


 沙綾ちゃんが運転席に座ってみて言った。

 私も見ただけだけど、今まで付いていたシートはあまりに平たすぎて、カスタムについてる普通の乗用車レベルのシートでも充分にホールドを感じてしまうのだ。

 これだけでも、きっと全然違ってくる。そう思った。すると


 「申し訳ないが、予算が足りなくてバケットシートは入れられなかった。しかし、今までのシートとは雲泥の差になっているので諸君、頼みます」


 と、突然教師水野が気配もなく現れて言うと、驚いているみんなを気にする様子もなく、スタスタとガレージの外へと姿を消していった。


 「もうっ! 心臓が止まるから急に現れるなっての!」


 運転席のシートでぐったりしていた沙綾ちゃんが、突然起き上がると言った。


 「マジっすよー」

 「本気で死ぬかと思いましたよー」


 とみんなが困り果てているので、私は


 「今度3年生にも相談して、私と七海ちゃんで先生と話し合ってみるね」

 

 と言ったところ、みんなから拍手が沸き起こった。


 「でも、それで直るかどうかは、分からないよ」


 と言うと


 「いえ、結果はどうあれ、一度話して貰えるのとそうでないのとは大違いだと思います。ありがとうございます!」


 とちょっと小柄で明るめの茶髪が目立つ娘が言った。

 確か、あの娘は1年生の美桜(みお)ちゃんだったと思う。

 詳しい出身は聞いていないが、きっとあの話し方とかから格闘系の部活から移籍しているのだろう。

 やっぱりみんな教師水野の神出鬼没で、突然背後から気配なく現れるのには参っているようだった。

 私は一度舞華ちゃん達と話し合って、なんとかしなくてはいけないと強く思った。


 次の作業として、4点式のシートベルトの取り付けにかかった。

 物が入っている袋には『4点式ハーネスセット』なんて書いてあって、違うものなのかと思って焦ってしまったが、調べてみると、シートベルトとハーネスは同義語みたいで、どちらを使っても間違いはないみたいなので、同じものと考えて良いみたいだ。

 やはりレースをするのには、普通の3点式のベルトでは物足りないし、特に、今回はバケットシートではないから、しっかりと体を固定する4点ベルトが必要なんだ。


 まずは、七海ちゃんと沙綾ちゃんと3人で後ろへと回った。

 既に後部座席は取り外してあって、シートベルトも撤去されていたけど、4点式ベルトは、この後部座席用のシートベルトの取り付け穴とボルトを使って固定するから、その確認をするためだ。


 まずは、撤去されたベルト側のボルトとボルトの穴が残っているかを確認した。


 「大丈夫だね」


 私が言うと、あとの2人も頷いていた。

 それじゃぁ、確認も終わったところで、早速取り付けにかかろうか。


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