第4章 魔王の城の衛兵(7)
リリンが目覚めたとき、ギルバートはうつろな目で蝋燭の火を見守っていた。
交代で蝋燭の番をすることを提案していたのだけれど、ギルバートは結局断ったのだった。
まだ太陽は顔をのぞかせてはいないものの、地平線は明るくなり始めていた。
「ようやく起きたか。これで全員じゃな!」
魔王が細い腰に手をあてて、胸を張って笑う。
その目は真っ赤に腫れ上がっていて、きっとひとりで泣いていたんだろうとリリンは思った。
魔王にとって、アース・フリントという存在はどういう存在だったんだろうか。
アース・フリントが黒い霧になって魔王に飲み込まれたと話した時、魔王が一瞬見せた驚きの表情と、寂しそうな瞳をリリンは思い返す。
ギルバートは眠そうな目をこすりながら、「起きてたのか、シルシュゴール」と不機嫌そうに言った。
「魔王の朝は早いからな。私はいつもこれくらいに目を覚ますのだ。もっとも、いつもなら熱いコーヒーとトーストが私の朝を迎えてくれるのじゃが、今日はメイドの方がお寝坊さんじゃな」
「はぁ……私、低血圧なもので」
リリンは乱れた髪を整えながら、頬についたよだれを手の甲でふいた。
「注目せよ」
魔王は人差し指を立てて、二人に告げた。
「今日は移動しながら話を聞こう。お前たちの話でおおよその状況はつかめたが、ずっとここにおっても何も解決せんからな。まずはリリン、お前の姉たちと合流することにする。仲間を増やさねば、ここから先は辛いじゃろう」
「……もう聞くまでもないが、俺の仲間はどうするつもりだ」
最初に異を唱えたのはギルバートだった。
ギルバートは昨日の夜から夜通し蝋燭の火を見続け、消えそうになる度に新しい蝋燭に火を移していた。それもこれも、まだそのあたりで倒れている仲間たちを助けるためだ。それなのにここから移動するなど、本末転倒もいいところだと言いたいのだろう。
「ふん、ならばこうすることにする」
魔王がパンパンと両手を鳴らすと、周囲に転がっている仲間の身体たちは青い炎へと姿を変え、蝋燭の火に飛び込んでいった。その火は人の背丈ほど大きくなったかと思うと、次の瞬間、ひとつのランプとなってテーブルの上にゴトンと乗った。
「そのランプは無限に湧き続ける油で燃えておる。まあ、まず消えんじゃろう」
自慢げな魔王の言葉に、ギルバートはため息をついた。
「貴様、魔王様に逆らうというのか?」
どこからか男の声が響き、ギルバートは目を丸くした。
リリンがランプを驚きの表情で見つめる。その声には聞き覚えがあった。
「アース・フリント?」




