序章
もともとは読み切りで書いたものですが、膨らませていけそうだったので連載化しました。どうぞ気楽にお楽しみください。
その日のことは今でも忘れない。
それは魔王様が1万とんで14歳の誕生日を迎えたときのことだった。
「大変だ! 魔王様が倒れたぞ~!」
魔王様の城にいる魔物という魔物全員が、叫び声をあげて走り回っていた。
あの日はちょうど人間界に攻めいる日。将軍たちとともに魔王軍の先頭にいた魔王様が急に意識を失い、倒れてしまったのだ。原因は不明。魔王様お抱えの医者が何人も何人も治療と検査を行ったけれど、容体は一向に回復しなかった。
事態を重く見た将軍たちはあらゆる文献を調べ、この世界のどこかにある万能の霊薬『太陽の花』であれば、治せるかもしれないということを突き止めた。
「魔王様を救うためだ! 全員、太陽の花を探せー!」
かくして、幾人かの医者とメイド、そして魔王様の護衛を仰せつかったこの俺以外は全員、『太陽の花』を探すために魔王様の城を旅立っていった。
「それじゃ、この城のことはよろしくね。衛兵さん♪」
妖艶な雰囲気をまとった女将軍がそう言い残し、やけに嬉しそうに城を去っていった後ろ姿が、俺は忘れられない。
「アース様、私、西館の掃除しようかと……」
「私は東館~」
「キッチン……掃除する……」
城の広大なロビーに集まった俺と3人姉妹のメイドたち。医者は全員魔王様の部屋にいる。
あんなに賑やかだった城の中だが、この人数じゃあひどくガランとしていて、正直寂しいものもある。
その時ロビーに、空気を引き裂くような不死鳥の声が聞こえた。侵入者だ。
「よし、3人とも仕事にかかってくれ。魔王様の大切な城だ。しっかりメンテナンスを頼むぞ」
「アース様、侵入者は……?」
3姉妹の長女、黒髪のラランが心配そうな目をして俺に歩み寄る。
「心配するなララン。魔王様の城に侵入者が来るなど日常茶飯事! これは俺の仕事だ。みんなはそれぞれの仕事を頑張ってくれ。将軍たちが帰ってくるまで、一緒に魔王様を守り抜こう」
「はいっ!」
「おっけー!」
「りょ~かい」
3姉妹もそれぞれなりに気合が入ったようで、掃除のために散り散りになる。
「……さて、お仕事開始だ」
俺は磨き上げた剣を抜くと、不死鳥の声が告げる場所、『城門前の跳ね橋』へと駆けていった。