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第1章 侵入者(1)

魔王様の住処であるこの城は『さまよう迷宮』と呼ばれている。


深い霧に包まれた森の中にあったかと思えば、切り立った山々の上に浮かぶ浮遊城だったこともあり、どこか一か所にとどまることはなかった。


そんなこの城にも侵入者はやってくる。宝物庫にある魔法の道具を盗みに来る者から、不届きにも魔王様の命を狙うものまで、動機は様々だ。


以前一番多かったのは、竜の一族たちだった。やつらは気性も荒く、この城と同じくらいの巨躯を持ち、炎を吐いて城を焼き尽くす恐ろしい化け物たちだ。この城が場所を変えるたびに追ってきては城の魔物たちに甚大な被害をもたらしていた。


やつらには目的らしい目的も感じられず、ただ破壊を楽しんでいるようだった。まったく迷惑な話だが、この城を動くおもちゃとでも勘違いしているのかと何度も思ったものだ。


もっとも、魔王様がやつらの『心臓』をすべて石に変えてしまってからは、被害はゼロになった。心臓が力の源だったのだろう。ここ数年は姿をまったく見ない。


「……で、今日の侵入者はお前ということか」


城門前の跳ね橋でぐったりと横たわっていたのは人間の若者だった。大きめのフードがついたローブを頭の上からすっぽりとかぶっているものの、荒れた息のトーンや身体を覆うオーラから、だいたいわかる。ローブに描かれた文様から察するに、呪術師か魔術師の類だろう。


だが腑に落ちない。いまこの城がある場所は荒れ地の真ん中。周囲には人食い狼も多く、人間が一人でやってくるには危険な場所だ。


「あ、あの……」


考え事をしていると、その人間は大きな杖に身体を預けながら立ち上がった。


「私は、占い師です。あなたの探しているものを、何でも見つけることができます……だから……」


俺は剣を抜くと、その人間の首元めがけてひと振りした。


「ひ、ひぃっ!?」


人間のかぶっていたフードが切断され、ファサリと落ちる。フードの中から、金色の美しい髪が散り散りになり、乾いた地面に広がった。


人間――金髪で、おそらくおかっぱという名の髪形をしているその女は驚いた様子で、地面に落ちたフードと自分の身体を見比べた。


「首、つながってる……」

「魔王様の城に入るのに、フードをかぶるなど無礼だろう」


人間の身体を通り抜けて、その向こうにあるフードだけを斬るなど造作もないことだ。どうやら、ついでに長い髪も切ってしまったようだが大した問題ではないだろう。


「さあ、さっさと中に入れ」

「……はい?」


人間のその女は、俺の申し出に混乱しているようだった。あるいは、命があってよかったと喜んでいるようにも見えたが。

面倒になった俺は、その女を強引に抱きかかえた。


「ちょっ、やだっ! 何してるの?」

「運んで中まで連れて行った方が楽だからな」

「でも! わ、私、自己紹介もまだ……っ!」

「黙れ。お前がどんな目的があってこの城に来たかなど問題ない。望むなら、部屋も貸してやろう。いまはいくらでも空きがあるからな。どうせろくでもない考えがあってこの城に来たことくらい、察しがつく」


女は黙り込んだ。そうだ。それでいい。お前たち人間の話を聞くほど、俺は暇じゃない。だが……。


「お前、探し物ができると言っただろう」


女はコクコクとうなずく。


「お前に探してほしいものがある」


魔王様の病を治す、万能の霊薬『太陽の花』。

占って見つかるものなら、占ってみればいい。


占う相手が、たとえ俺たちの敵だとしても。

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