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「私は彼女ほど完璧ではないです。むしろ比較すれば穴だらけだとばれてしまう。それでも、その穴だらけの人間が私なんです。それを知ってもらえるなら、どんなやり方で比較されても、構いません。結果的に長嶺さんは私を見てくれることになるから」
視線を彼女に向けた。
こんなことではないと、こういう意味ではないとわかっているのに。
でも彼女は笑った。
馬鹿みたいな僕を見て、笑った。
「時間は有限で、気付くと無くなっています。二人きりで話を出来る時間も、どんどん減っていく。人生それ自体も。誰かに削られている。気付かないうちに、ゆっくりゆっくり。その事実が悲しいわけではないですが、今鉋をかけているのが長嶺さんと過ごせる時間だと思うと、少し、悲しいです」
「少し、ね」
「ええ、少しです」否定しなかった。「悲しんでいる余裕なんて、ないですからね。無駄にしないためには、何を思っている暇もない。悲しいと思うなら、生き急ぐしかないんです。感情を置いてけぼりにするスピードで」
「感情を、置いてけぼり……」
「悲しい、嬉しい、かわいそう、羨ましい、鬱陶しい、むかつく。人間の大部分を占めるのは感情です。でも本当は最も必要のないものだと私は思います。自分がネガティブで、そういう思考に頭の中を占拠されてしまうから、よりそう思うのだと思います。こんなものは無駄だ、早く何かしなくちゃ、って」
「にぃなちゃんは、考えすぎてしまう人なんだね」
「そうかもしれません」吐息が落ちる。「正解なんてないのに」
「悪いことではないよ、多分ね」
「そうですね。合っているのかわからないけど、考えるしかない。考えたことは言葉か行動で具体化する。そういうやり方しかしてこなかったので、真っ向から否定されないのは、救いです」
木から手を離し、先を進んでいく。
こちらも追いかけていく。
「長嶺さんは料理をなさるんですよね?」
「うん。簡単なものが主だけどね」
「その話を最初に聞いていたせいか、先の試験で料理がテーマになって、焦りましたよ。料理をする人に対してどんな料理を出せばいいのかって」
話が軽いものへ転換した。
考えすぎる彼女は、考えすぎてしまいそうな話題を意図的に忌避したのだろうか。
「順番も余り良くなかったですしね。デザート? と思ったけど、結果的に見ればそれにしなくて良かった」
「いちかちゃんが先に出していたからね」
「悩みました。それでも甘いものにするのか、スープとか、サラダとか、軽いものにするのか」
「どうしてハンバーグにしたの?」
先導するにぃなちゃんはこちらを振り返らないままだった。
「インパクトが必要かなと思ったんです。意外性というか。だって、まさか最後にこんな重いものが出てくるとは思わないでしょ?」
「ああ、確かに驚いた」
「誰もハンバーグを作ってなくてよかったですよ」そしてこちらを振り返る。「さあ着きました」




