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先に立ち上がった彼女はこちらに手を差し伸べてくれた。僕はそれを頼りに、ゆるゆると腰を上げる。
木々の中を散策する。いつか付けた傷が視界に入る。
それでも確かに生きている。
成長し続ける。
一生を遂げる。
僕の付けた傷は消えないのかもしれない。それでもそこには仲間が居て、明かりがあり、夜も訪れる。
毎日が当たり前に流れていく。
人生は壮大で、その中に見れば、傷は、些末なものなのかもしれない。
それは、僕が僕自身に優しいから、思うことだろうか。
誰のための、僕なのだろうか。
僕のためと言いきって、責められるのだろうか。
そこまで世間は、僕に優しくないと、思いたくはない。
「こうして何気なく歩いていても、そこにはたくさんの命がある」
多分、思ったことを言っただけなのだろう。
「そうだね」
「誰かが消えていく。でもそれは誰かの命のため。生命はぐるぐると回り続けて、ひとつも無駄はない」
「そうかもしれない」
「私が、そう思いたいだけなんですけどね」肩をすくめる。「やっぱり、生まれたときに両親が何を思ったのか、知りたくなんてないですが、それでも私のことを無駄だとは思って居ないんだと、そう思いたいだけなんです」
「無駄なものか」呆れるくらい簡単に言葉が繋げた。「生きていたから、僕たちは会えた」
「そうですね。長嶺さんは」こちらを見た。「ロマンチストですね」
「自覚はないけど」卑屈さが顔を見せる。「誰かの受け売りなんだよ今の言葉も」
「それでもですよ。言葉を新しく生み出すなんて、簡単なことではありません。そもそも全てが受け売りなんです。借り物でしかないんです。知っている知識を総動員して考えを構築していく。言葉を吐き出す。それでも、受け売りでも、借り物でも、今それを言ったのが長嶺さんなら、それは長嶺さんの考えで、言葉なんですよ。だから長嶺さんは、ロマンチストです」
「にぃなちゃんは、話せば話すほど、考えの深い人だなと思うよ」
「考えに深いも浅いもありませんよ。どんなものでも、それがその人である、というだけの話なんです。人はそれぞれ違うんですから。基準なんてものが、そもそも無意味なんです。自分は普通だと思いたい人間がこしらえた線でしかないんです。ただの尺度です。私の考えを深いと褒めてくれることは嬉しいですけど、それは誰かの定規で測ってみて、というだけのことで、私自身が、私自身の考えを深いと思うかどうかには関わってこないんです」
「ややこしくなってきた。なんだか、しきさんと話しているような気分に」と言って、止めた。「なんでもない」
「いいんですよ」それでも彼女は笑った。「出会った人も、過去も、全て長嶺さんの一部です。私はそれに対して何も思わないです。そんな権利ないんです」
「そんなことないよ。少なからず二人きりで居るときに別の女性の話をするものではない」
「それも、あくまでも別の誰かが決めた基準です。私はそうは思わないから、話してくださって構いません」
木のひとつに手を添えると、こちらを振り返る。
何を考えている顔なのかわからない。
「みんな、別の人間ですから。それに」
なんと続けようとしたのかはわからないが、彼女はそこで言葉を止めた。
微妙な間に、居心地の悪さを感じる。
意味もなく、周囲を見回している自分が、情けない。




