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「私といちかちゃんのどちらがより良いのか、私に言うことは出来ません。いちかちゃんは私の持っていないものを、出来ないことを、たくさん手にしています。逆に、私だっていちかちゃんの出来ないことをやってやった、と思う気持ちもあります。多分、私のほうがいちかちゃんより苦労しているんです。なんて言ったら失礼かもしれないけれど。私のほうが手が汚れていると、私は思っています。彼女はやっぱり可愛いし、周囲の目も穏やかなんだと思います。両親も揃っているし、私とは境遇が違う。恵まれていると、卑屈に言えばそう思ってしまうことだって、今まで何度もありました。当然、そういうバックボーンで彼女を嫌いになるようなことはありません。私はいちかちゃんが大好きですから。ほかの、もう落ちてしまった女の子たちだって、好きです。一緒に過ごして楽しいと思っていたし、このうちの誰かが卒業出来るなら、私はそれが出来なくても、いいかなって、本当は思っていたところもあります。最初のころですけれど。でもやっぱり、私はほかの人たちに対して劣等感があった。好きで、楽しくて、笑えるのに、心のうちではもっと黒い感情が常に隣で様子を見ている。彼女たちは私の知らない父親というものを知っている。極端な言い方だと、男というものを知っているんです。……なんだか、いやらしい言い回しになっちゃいました」照れたそぶりもなく、ただ言ってみただけ、という調子だ。「それが羨ましかった。この卒業試験において身近に男性が居ると言うことは大いに優位に働きますが、もちろんそれだけではなくて。父親という肩書きではありますが、要するに異性ですよね。異性から与えられる愛情を、私は受け取ったことがない。どういう形の、どういう色をした、どういう質量の想いを与えてくれるのか、私は知らないんです。さっきも言ったように、母のことは好きですし、母も私を好きで居てくれると思います。みんなのことも大好きです。でもその好きとは異なる、異性からの好き、異性への好きを、私は知らない。知らなかったんです。それは、やっぱり、ほかのクラスメイトたちと比べたとき、大きな差だと、自分では思っていました」

 彼女は組んだ手で足を支えるように体育座りをして、校舎を眺めている。

 僕は胡坐を掻いた自分の足を見ている。

 何かを言うべきだろうか。

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